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髑髏天使

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第七話 九階その二


 牧村はやまちちとの闘いを終えてからまた静かな生活に戻っていた。大学でもフェシングとテニス、それに講義に出ているが他は特に何もなかった。時折博士の研究室に顔を出している位だ。この時彼は大学の喫茶店でくつろいでいた。飲んでいるのはコーヒーだった。
 ウィンナーコーヒーだ。白い生クリームがコーヒーの上に置かれている。それをスプーンで取って食べつつコーヒーを飲む。コーヒーは黒からクリームの白が混ざり茶色になっていた。その茶のコーヒーを飲みつつ本を読んでいた。その本とは。
「おっ、牧村君」
「こんな所で読書かな?」
 二人の青年がここで牧村の側に出て来た。一人は大柄で金髪、もう一人は癖の悪い頭をした眼鏡の青年であった。牧村に対してにこやかに笑っている。
「また随分と難しいみたいだな」
「何々、これは」
「天使についての本だ」
 顔を上げてこう二人に返す牧村だった。
「天使!?」
「天使っていうと」
「キリスト教の天使だ」
 また二人に言葉を返した。
「それはな」
「キリスト教ねえ」
「御前クリスチャンじゃないよな」
「違う」
 それは一言で否定してしまった。
「だが。縁がないわけじゃない」
「クリスマス位じゃねえのかね、それって」
「なあ」
 金髪の青年が眼鏡の青年の言葉に頷く。
「精々そんなところだよな」
「キリスト教なんてな、日本じゃ」
 彼等の認識はこの程度だった。実際日本でキリスト教といえば多くの者にとってはクリスマス位だ。後は結婚式の式場になるかその程度だ。
「あまり縁がねえしな」
「俺も。家仏教だし」
「俺の家もそうだ」
 牧村も眼鏡の青年の言葉に応える。
「今までキリスト教を意識したことはなかった」
「それで今何で縁があるんだ?」
「何があったんだよ」
「別に」
 生クリームを食べつつ述べる。コーヒーの苦さの後で味わうその柔らかい甘さは普段食べる生クリームよりもさらに甘く感じられた。
「それはな」
「言えないってか?」
「余計気になるんだけれどな」
「博士に聞いた」
 こう答えることにした。今は。
「それでだ」
「ああ、あの博士だね」
「悪魔博士か」
「それで縁もできた」
 そのうえでこうも言った。
「それだけだ」8
「それが縁ねえ」
「何か違う気もするけれどな」
 二人はその返答に今一つ納得できなかった。しかし牧村のいつものことだが有無を言わせないところのある無愛想な返答に納得したのである。
「まあいいさ」
「それにしても天使だよな」
「そうだ」
「最近ゲームでも出ているぜ」
「ゲームに」
「そうさ。それも詳しくな」
 眼鏡が彼に対して話す。
「そういうゲームもあるんだよ」
「どんなゲームだ?」
「神様が出て来るゲームでな。天使も敵で出たりするんだよ」
「天使が敵か」
「普通だろ?今だと」
 何でもないといった感じの眼鏡の返事だった。
「当然悪魔も出るんだけれどな」
「天使も悪魔も敵か」
「戒律によってそこが変わってくるんだよ」
 こうも言うのだった。
「それでなんだよ」
「では善だと悪魔が敵で」
「ああ」
「悪だと天使が敵か」
「その通りさ。そうなっているんだよ」
「だがどちらも正義か」
 牧村はここでは善がそのまま正義とは考えなかった。
「そういうことだな」
「そう、その通り」
「よくわかってるじゃないか」
 金髪もこう言ってきた。どうやら彼もそのゲームのことは知っているらしい。 
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