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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第十七話 破壊の咆哮   ★

side なのは

 大切な友達、すずかちゃんやアリサちゃんとも昔はわかりあえなかった。
 話を出来なかったから。
 本当の思いをぶつけられなかったから

「なのは、早く確保を」
「そうはさせるかい!!」

 赤い狼が襲いかかってくるけど、ユーノ君が守ってくれた。
 ユーノ君のシールドが破れてフェイトちゃんと私の視線が絡み合う。

(ユーノ君、ごめん。その子をお願い。私は)
(うん。任せて)

 ユーノ君は静かに頷いてくれる。
 私はフェイトちゃんに一歩踏み出す。
 私の思いをぶつけるために。
 目的がある同士だからぶつかり合うのはしょうがないのかもしれない。
 でも

「この前は自己紹介できなかったけど、わたしはなのは。高町なのは」

 綺麗な赤い瞳。
 でもなんでそんなに寂しそうなのか。
 私は知りたいんだ。
 だから

 私は前に進む

 例え今はぶつかり合ってでも

 諦めずに前を目指して進み続ける




side 士郎

 止まっていた歩みは進みだす。

「この前は自己紹介できなかったけど、わたしはなのは。高町なのは」

 なのはの声に答えることなくフェイトは空に舞い上がる。
 返事もなくジュエルシードを少しでも早く確保したいとなのはをほとんど見ていない。

 なのは、どうする?
 お前はフェイトと話がしたい。
 だがフェイトは話をするほど精神的な余裕もなく、焦っている。
 向かってくるフェイト相手に今までみたいに守るだけの戦いをするのか?
 それとも一歩踏み出してくるか?

 そんな事を考えた自分に苦笑する。
 なのはがどうするか?
 答えなんてわかっている。

 なのははフェイトから眼を逸らさない。
 例えぶつかり合ってでも思いをぶつけるために、なのはは前に進んでみせた。

「芯のある、覚悟がある者の顔だな」

 まあ、多少真っすぐ過ぎるところもあるがそれもなのはの持ち味だろう。
 白と黒の少女は杖を持って空を駆ける。
 俺はそれを見つめる。

 そんな時

「っ! なんだ?」

 悪寒がした。

 今のはなんだ?
 なのは達が空に上がり、戦う中で一瞬全身を嫌な感覚が包んだ。
 敵?
 違う。
 殺気や敵意の類じゃない。
 もっと禍々しいなにか。

 ビルの屋上から死角になっている場所の視界を確保するための鋼の使い魔達の視線にも何も映らない。
 勿論、俺自身の眼にも映らない。
 悪寒の原因がわからない。
 アルフやユーノに視線を向けるが気がついていない。

 俺が周囲に視線を奔らせている間にも、なのは達は空を縦横無尽に飛び、戦い続ける。
 なのは達が戦えば戦うほど、二人の魔力がぶつかり合う度に、それに応える様に反応が強くなる。
 そう、それはまるで鼓動のように。

 ……焦るな。情報を整理しろ。
 今ここにいるのはなのはとフェイト、アルフ、ユーノ。
 そして、俺と俺の使い魔三体。
 それ以外は視認できない。

 違う。何かを見落としている。

「……鼓動? まるで……聖杯のような」

 そう、なんで今まで思い出さなかった。
 聖杯は魔力が満ちた時、まるで生き物のように鼓動し、産声をあげようとしていたはずだ。
 つまりこの大元は

「ジュエルシード」

 なのはとフェイトの手によって封印された状態だと安心しきっていた。
 だが気がつくのが遅すぎた。
 なのはとフェイトの視線はジュエルシードに向き、一直線に空を駆ける。

「よせっ!!」

 声を荒げ、地を蹴るが何もかもが遅すぎる。

 ジュエルシードがなのはの杖とフェイトの杖の間でぶつかり合う。

 そして、世界から音が消え全てが静止した。

 静止した世界に響く何かが割れる音。

 なのはとフェイトの杖に亀裂が入り、世界は動き出す。

 今までと比べ物にならないレベルの膨大な魔力が放たれる。
 白い閃光。
 その中に飛び出したままの速度で飛び込み、コントロールを失い吹き飛ばされそうになっていた、なのはとフェイトを抱きかかえる。

「ぐっ!」

 だけどそれが精一杯。
 まるで暴風。
 それに弄ばれながらなんとか大地に足を着け、さらに滑っていく。

「フェイトっ!」
「なのはっ!」

 俺のところにアルフとユーノが駆けてくる。
 二人を離し、ジュエルシードに一歩進みながら意識を自分の身体に向け解析をかける。

 ―――魔力、問題なし
 ―――肉体、損傷なし

 あれだけの魔力を溢れさせておいて身体に傷一つつけないとはずいぶんふざけたモノだ。
 だが安心できるものではない。
 魔力を溢れ、青い光の柱が生れるが、それも治まる。
 だがそれは始まりに過ぎない。
 放たれた魔力は再びジュエルシードに集束していく。
 あまりの魔力に世界が軋みをあげる。
 アレはまずい。

「アルフ、ユーノ、全力で二人を守れ」
「アーチャーさん!」

 後ろからなのはの声が聞こえるが反応している余裕はない。
 なのはとフェイトの杖の能力がどれくらいか知らないが、見るからにボロボロだ。
 あれだけのダメージを負っていたらまともに動作するかも怪しい。

 光の中央にあるジュエルシードを睨むが、間に合うか。

 ―――264本の動作可能魔術回路の撃鉄を起こす。

 ジュエルシードから膨大な魔力が放たれた。
 それはまさしく咆哮。
 それを

「―――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」



 七つの花弁で防ぐ。
 だがアイアスは本来投擲武器に対する盾だ。

 今回のような単純な魔力の塊のようなモノを防ぐ盾ではない。
 勿論、俺が投影できる盾は他にも存在する。
 そして、その中にはアイアスよりも魔術的な防御力に優れているものもある。

 だが根本的に盾とは持ち手を守るものであり、後ろにいるなのは達を守れる大きい規模のモノは少ない。
 だからこそ規模の大きいアイアスをあえて選んだのだ。
 しかし問題は他にもあった。

「ちっ! 骨子の想定があまいか」

 投影を急いだためか脆い。
 ジュエルシードの魔力の咆哮に耐えきれず、盾の一枚一枚が城壁に相当するアイアスの七枚の花弁のうち四枚にはすでに亀裂が入っている。
 これでは長くもたない。

 なら諦めるか?
 それこそ、否だ。
 この程度で諦めるはずがない。
 アイアスに魔力を流し込む。

「っ!!!! がぁっ!!」

 アイアスに流し込んだ俺の魔力とジュエルシードの魔力がぶつかり合い盾を支える左腕がぶれる!
 それを必死に抑えこむ。
 
 だが花弁が一枚舞い散ると同時に左腕が耐えきれず、皮膚が裂け、筋肉が断裂し、血が舞う。
 まったくこういう時でも自分の肉体が引き裂かれる音だけはしっかり聞えるのだから嫌なものだ。

「このままでは先に腕がもたんか」

 左腕の傷はアイアスが傷つくにつれて広がり、さらに出血が増えていく。
 だがそんなものは関係ない。
 俺が倒れるという事は後ろにいるなのはやフェイトが傷つくという事。
 今の俺の役目はこの子達を守ることだ。
 それならば腕一本ぐらいくれてやろう。

 この身はすでに人ではなく死徒。
 後で修復させることぐらい出来る。
 それにジュエルシードの魔力の波が徐々に治まってきてる。
 つまりこの波を耐えきれば反撃のチャンスはあるのだ。




side フェイト

 ジュエルシードに私のバルディッシュと白い子、なのはのデバイスが共にぶつかり合った。
 次の瞬間、視界が白く染まる。
 その中で

「え?」

 赤い外套に髑髏の仮面。
 その姿を忘れるはずがない。
 白い閃光の中で士郎に抱きかかえられる。
 私が抱きかかえられた反対の腕にはなのはがいた。
 士郎に抱きかかえられて白い閃光を抜けると同時にアルフと……ユーノだっけ?
 二人がこっちに駆けてくる。

 士郎は私達を離し、ジュエルシードに踏み出す。

「アルフ、ユーノ、全力で二人を守れ」
「アーチャーさん!」

 士郎はジュエルシードを睨み、なのはは士郎の事を呼ぶ。
 だけど士郎はなのはの言葉に応えない。
 でも次の瞬間

「え? そんな……」

 膨大な魔力が吹きあがる。
 魔力の量も多いけどなにより眼を見張るのはその密度。
 赤い魔力が士郎を纏い、周囲が揺らいでる。

「フェイト、下がって!」

 呆然とする私をアルフが抱き寄せ、バリアを張る。
 それと同時にジュエルシードが咆哮した。

 アレはだめだ。
 規模が、レベルが違う。
 防御系の魔法が得意とかそんなレベルの話じゃない。
 間違いなく、耐えられない。
 だけど士郎もレベルが違った。

「―――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 士郎が突き出した左手に展開されるのは巨大な花。
 その巨大な花はジュエルシードの咆哮をしっかりと受け止めていた。

 でもそんな巨大な花も徐々に傷つき、壊れていく。
 そんな中、巨大な花の花弁が一枚散った。

「え?」

 そんなとき、顔に生温かくて鉄臭い液体がかかった。
 知っている匂い。
 それを拭ってみれば、赤い液体。
 士郎の血。
 士郎は左腕を抑えてるけど、ここからでも酷い怪我をしているのがわかる。
 外套も左腕のあたりはズタズタだし、仮面は砕け、フードも左側を中心に裂けてしまっている。

「士郎、もうやめて!! これ以上はもたない!!」

 私が必死になって叫ぶけど士郎は巨大な花を展開し続ける。
 視界が歪んで士郎の事がちゃんと見えない。

「……フェイト」

 アルフがさらに力を込めて抱きしめてくれる。
 私、泣いてるんだ。
 お母さんのお仕置きからアルフが助けてくれた時、握っていた剣も士郎のだった。
 食事だってそうだ。
 いつも私の事を支えてくれていた。
 私は失いたくないよ。
 士郎の事がこんなにも大切なんだから、いなくなるのなんて嫌だ。

 でも私は無力で士郎が傷つくのを見ていることしかできない。
 それが一番悲しかった。




side なのは

 レイジングハートとフェイトちゃんのバルディッシュがジュエルシードを挟んでぶつかり合う。
 次の瞬間、視界が白く染まる。
 一瞬で上も下のわからなくなった。
 そんな中誰かに抱きかかえられる。
 それだけで抱きかかえた相手の顔も見えないのになぜか安心した。
 
 その人はフェイトちゃんも抱きかかえて、白い光の中から跳び出す。
 着地して初めて私とフェイトちゃんを抱きかかえていた人がわかった。
 赤い外套に髑髏の仮面をつけた魔術師、アーチャーさん。
 私達の方にアルフさんやユーノ君も駆けてくる。
 アーチャーさんは私とフェイトちゃんを下ろす。
 そして、一歩ジュエルシードに踏み出した。

「アルフ、ユーノ、全力で二人を守れ」

 アーチャーさんの言葉。
 アーチャーさんが手の届かないどこかに行ってしまいそうで怖くて

「アーチャーさん!」

 アーチャーさんを呼ぶけど答えてくれなかった。
 それが少し悲しかった。

 その時、アーチャーさんからものすごい量の魔力が噴き出す。
 それとほぼ同時にジュエルシードから魔力が解き放たれた。

「……あ」

 視界を覆い、世界を染める青い光。
 それに、その存在にただ恐怖した。

「―――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 そんな中でも聞えた声。
 アーチャーさんが左手を突き出し、青い光を遮るように鮮やかな花が咲いた。

「あれだけの魔力の奔流を止めるなんて」

 ユーノ君は驚いていた。
 でもこのままじゃアーチャーさんが危ない。
 だけどレイジングハートもボロボロで、私には何もできない。
 そして花は徐々に傷ついていく。

 そんな中で花の花弁が一枚散るとともに顔に何かかかった。

「え?」

 でもそんなの気にならなかった。
 だって花弁が散るとともにアーチャーさんの外套の左腕のところが引き裂かれる。
 それと一緒にフードが引き裂かれて、仮面も砕かれていた。

 そこには見覚えのある白い髪。
 そう、私がよく知っている料理が上手で優しい男の子。

「士郎君!!」

 叫ぶ!!
 私にはそれしかできなかった。
 だけど私の声は届かない。
 左腕に酷い傷を負っているというのはここからでもよくわかる。
 なんで気がつかなかったんだろう。
 前を見据えた強くて、でもたまにどこか悲しそうな赤い瞳。
 そして、温泉の時には私をあまえさせてくれた。
 アドバイスをしてくれた。
 全部知ってたんだ。
 少し考えれば、わかったと思う。
 でも

「……怖かったんだ」

 温泉の時の士郎君の瞳。
 どこか感情がなくて怖い瞳。
 知ってしまったら士郎君がいなくなるような気がして踏み出せなかった。

 フェイトちゃんにもちゃんと伝えた私の思い。
 自分の暮らしている街や自分の周りの人たちに危険が振りかかったら嫌だから、守りたいから
 だけど今の私は無力だ。
 士郎君に守ってもらって、士郎君は傷ついていく。
 そんなのは嫌だ。
 私はもっと強くなりたい。




side 士郎

 ジュエルシードの魔力とぶつかり合い、アイアスは一枚、また一枚と霧散していった。
 そして、今手に残るのは一枚のみ。
 これが破られれば最後、なのはやフェイトが傷つくことになる。
 そんなことが認められるはずがない。

「おおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 咆哮する。
 264の魔術回路の魔力をアイアスの最後の一枚に注ぎ込む。
 すでに左腕はズタズタで、まともに機能しないだろう。
 それを無視してさらに魔力を流し込むという無謀。

 左腕がさらにぶれ、引き千切れそうになるのを抑え込む。

 脳に負荷がかかり毛細血管が破れ、左目から血涙が流れ、視界が赤く染まる。
 だがこの程度で魔力を流す事をやめるなどという考えはない。

 そして、アイアスの最後の一枚が霧散するとともにジュエルシードの魔力の奔流が一度治まる。
 それを確認した瞬間、行動を開始する!

「巻き込まれないように下がれ!!」
「し、士郎!」
「フェイト、駄目だよ!」
「なのは、離れないと」
「だ、だけどっ!」

 俺の言葉にアルフとユーノはすぐに行動を開始したようだ。
 アルフがフェイトと、一瞬迷いながらもなのはを抱きかかえて飛び上がり、ユーノはなのは達を包み込むようにバリアを展開し続ける。
 アルフがいて助かったな。
 これならば任せて大丈夫だろう。

 俺がすることは一つ。
 もはやアレを封印するなどという選択肢はない。
 あるのはアレは破壊するということのみ!

「―――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)

 自身の詩を詠い投影するのはある意味馴染み深い深紅の槍。

 一度自分の心臓に刺さったモノを馴染み深いと表現する自分もどうかとこんな状況にもかかわらず苦笑してしまう。
 ジュエルシードまでは約八十メートル。
 いささか助走距離が短くなるが助走距離を稼ぐほど余裕はない。
 深紅の槍を右手に握り、左手を地につける。

 そして、深紅の槍に魔力を叩き込む。
 連続した膨大な魔力の行使に脳が危険信号を送ってくるがそんなものは無視する。
 魔槍は俺が叩き込んだ魔力ではまだ足りないと周囲の魔力すら貪り食っていく。
 なのは達の方に視線を向けるが十分に離れている。これならば巻き込まれることはあるまい。

「往くぞ」

 クラウチングスタートのように腰を上げる。
 吸血鬼の脚力、さらに魔力を流し込んだ左手の力を使い、初速から最高速で踏み出す。

 スタートと同時に ただでさえボロボロだった左手が限界を超えて異様な音をたてたが無視する。
 そのまま最高速を維持して一瞬で三十メートルを走り抜ける。
 そして、一気に跳躍する。
 全身のバネを使い、槍を振りかぶる。

「―――突き穿つ(ゲイ)

 放たれようとする魔槍の魔力に世界が軋む。

「―――死翔の槍(ボルク)!!!」

 渾身の力を使い、投擲する!
 一瞬で魔槍は音速を超え、ジュエルシードに集まり始めていた魔力を薙ぎ払い突き進む。
 そして、ジュエルシードに突き刺さり炸裂弾のように凄まじい爆音と共に完全に吹き飛ばした。

 そこにあるのは地に突き刺さりし、赤き魔槍のみ。

「終わったか……」

 結構酷いものだ。
 宝具二つの真名解放。
 ジュエルシードの魔力とぶつかり合った負荷の代償か魔術回路に鈍い痛みがある。
 消費した魔力量もかなりの量だ。
 外傷としては左腕が一番酷い。
 アイアスを展開していた時のダメージに加えて、ゲイ・ボルクの投擲のスタートダッシュのため無理やり魔力を流して使用したのだ。
 骨は砕け、筋肉も断裂している。
 神経系はなんとか無事なのが唯一の救いではあるとはいえ、いくら死徒の肉体とはいえ簡単には治らないだろう。

「士郎!!」
「士郎君!!」

 フェイトとなのはが俺の方に飛んで来る。
 その後ろにアルフとユーノもいる。

「士郎君。大丈夫!!」
「士郎。腕は大丈夫なの!」

 どうやら二人にはなんの怪我もないようだ。
 そのことに安堵の息を吐く。

「ああ、大丈夫だよ」

 と軽く返したんだが

「大丈夫なわけないでしょ!!」
「そうだよ! こんなに血が出て!!」

 息がぴったりに俺を攻めるなのはとフェイト。
 ……二人ってさっきまで戦ってたよな?
 二人ともそれに気がついたのか顔を見合わせる。

「なんでフェイトちゃんが士郎君の事知ってるの!!」
「あ、あなただっていつも一緒なんだから別にいいじゃないですか!」
「あなたじゃなくて、なのは! 高町なのはって言ったでしょ!
 それに士郎君と同じクラスで一緒にお弁当食べてるんだよ。
 おかずを分けてもらうけどおいしんだから!」
「うっ、いいよ! 貴方と違って私は何度も士郎が夕飯作りに来てくれてるんだから!!」
「ええっ!!」

 なんというか……先ほどまで戦っていた者同士の会話とはとても思えん。
 そもそも俺の事を知っているとか一緒にいるとかでここまでヒートアップできるのだろう?
 まあ、なのはも踏み出せて覚悟が決まったようだ。
 ふっきれた顔をしている。

「ま、まあ二人は置いておいて、体は大丈夫なのかい?」
「そうだよ。あれだけのことをしたんだから」

 未だ言い争っている二人を放置して、アルフとユーノが心配してくれてる。

「ああ、なんとかな。それと改めてよろしく。衛宮士郎だ」

 ユーノに手を差し出す。

「あ、うん。ユーノ・スクライアです」

 ユーノとちゃんと自己紹介をした記憶がないので軽く挨拶をしておく。
 傍から見ればフェレットと握手をしているのだから妙な光景だろう。
 そんな事をしていると落ち着いたのかなのはとフェイトが改めて迫ってきた。

「ほんとに大丈夫?」
「そうだよ。あれだけのことしたんだよ」
「ああ、大じょっ! !!」

 いきなり視界が歪んだ。
 膝に力が入らず崩れ落ちる。

「   っ! し   っ! ど   た !!」
「し   ん!  か  て!」

 歪んだ視界の中、誰かが叫んでいるようだがノイズが酷くて聞こえない。
 体の感覚が死んだのか?
 違う。
 これは体内のアヴァロンへの魔力供給が止まったのか。
 魔力はまだ余力があったはずだ。

 考えられる原因はジュエルシードの魔力とぶつかり合ったのが影響だろう。
 魔力がうまく循環せず、アヴァロンへの魔力供給がうまくできていない。
 そして、アヴァロンの機能が停止したという事により傷の修復はとまり、吸血衝動が出て来る。

 鼓動が跳ね上がる。
 元の世界なら例えアヴァロンに魔力供給が止まって吸血衝動が出てきてもある程度抑える事は出来ていた。
 
 だがこれは違う。
 今までのモノとは違う。

(  ッ!!  ヲ エッ!!)

 うるさい!

( エッ!! ス ッ!! チ  エッ!!)

 だまれ!! 俺はなのは達の■を■■なんて御免だ!!!

(スエッ!! チヲッ!!)

 だまれ!!! 彼女たちに手を出すな!!

(キサマはハ吸血鬼ダ。何ヲ躊躇ウ?
 首ニ牙ヲツキタテ、自ラノ欲望ノママ血ヲゾンブンニ飲ミホセ!!!)

「だまれっ!!!!」
「「「「っ!!」」」」

 四人が、いや三人と一匹が怯えた表情を見せる。
 仕方がないか。これほど感情を高ぶらせたのはこっちに来てからは初めてだ。
 視覚も聴覚も正常に戻った。

「はあ、はあ、はあ」

 くっ、のどが熱い。全身が目の前の獲物を襲えと命令してくる。

(吸血鬼ノ力ナラタヤスイ。犯シ、嬲リ、存分ニ血ヲ飲ミ干セバイイ)

 吸血鬼の欲望が甘い誘惑で誘ってくる。
 だけどそれだけは避けなければならない。
 怯えるように、逃げるように彼女たちから距離をとる。

「し、士郎?」
「士郎君?」

 俺の行動が不思議なのか、心配そうに寄ろうとする。

「来るな!」

 俺の拒絶の言葉になのはもフェイトもビクリと固まる。
 今は家の地下室に行かないとまずい。
 地下室には俺の家の敷地の防音や認識阻害結界の魔力供給源の魔法陣がある。
 鍛冶場兼工房とはまた別モノだ。
 あそこに行けば霊地から魔力供給を行える。
 一気にビルを壁を蹴り、駆け上り、跳躍し、家に帰る。

 家に戻るなり、地下室に降りて外套を脱ぎ捨てる。
 だが損傷が限界を超えたのか床に落ちる前に霧散した。
 大切な二つの宝石を握り、魔法陣の中央で倒れる様に身体を横たえる。
 過負荷がかかった魔術回路に、外傷が酷い左腕。
 そして俺自身の体内の淀みの改善。

 さらに今まで感じた事のない強い吸血衝動。
 どれだけの日数がかかるかはわからない。

(……いつでも怖いな)

 手に握る赤と黒の宝石を見つめる。
 自分が自分でなくなるような恐怖。
 自分が守りたいと思った存在を傷つけてしまうのではないかという恐怖。
 この世界に来て初めてだった。
 これほど不安定になって自分自身に恐怖を感じるのは

(……一人か)

 孤独というのも多少は関係してるのかもしれない。
 元の世界では誰かがずっとそばにいてくれた。
 特にイリヤは死徒になり日光ですら克服しながらも、吸血衝動がなかなか安定しない俺にすぐに気がついてくれた。

 あの時の俺は夜になり闇に囲まれた時、大切な人の血を求めて、怯えていたのだ。
 だがイリヤは何も言わずただ抱きしめ、歌を歌っていてくれた。
 皆と離れていても温もりを思い出すことは出来た。

 だがこの世界は違う。

 この世界は俺のいた世界ではないのだ。

 誰もいない。

 そう、誰もいないのだ。

 たった一人。

 俺は自分自身の闇を恐れながらゆっくりと意識を手放した。 
 

 
後書き
まずは一日遅れてしまいすみません。

メンテナンスの事をすっかり忘れてました。

今回も同じく二話の掲載になります。

ではでは 
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