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髑髏天使

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第四十三話 熾天その五


「それはよかった」
「剣道は何か」
「武道全体だけれどね」
「それを考える必要があるからな」
「強くなるだけじゃないからね」
「そうだな。スポーツ自体がそうだな」
 牧村はそれをだ。武道だけではなくだ。スポーツ全体についても話すのだった。
「それはな」
「そうだ、スポーツはただ身体を鍛えるだけではない」
「心もだよ」
 祖父母はまた牧村に言ってきた。
「この茶道にしろそうだしな」
「ただお茶を飲むだけじゃないんだよ」
「心か」
 牧村もそれを察した。
「心を修養するものか」
「その通り。だから道だ」
「お茶の道は深いわよ」
「深いか。それを考えるとだ」
 牧村はここで茶を飲んだ。そしてまた話すのであった。
「この茶を飲むことは特別なものだな」
「特別ではない」
 祖父はそれは否定した。
「茶道において茶を飲むことは特別ではない」
「違うか」
「素振りと同じだ」
 そして剣道に例えるのだった。
「それと全く同じだ」
「それとか」
「そう、全く同じだ」
 彼はまた言った。
「それとな」
「そういうことか。特別ではないか」
「そう思っていい。そして」
「そして?」
「楽しむものでもある」
 こうも言うのであった。
「そういうものでもあるからな」
「楽しむか」
「真面目にはやるべきだ」
 祖父はこのことも話した。
「やはりな。それはだ」
「そして、か」
「そうだ、それと共に楽しむ」 
「そうでなくては駄目か」
「余裕だ」
 今度は一言で話すのだった。
「余裕もまた大事なのだ」
「余裕か。今までの俺にはあまりなかったな」
「ないなら身に着ければいいのよ」
 祖母も言ってきた。
「たったそれだけよ」
「そうか。それだけか」
「どうだ、わしの茶は」
 祖父はにこりと笑って孫に尋ねてみせた。
「味はいいか。どうだ」
「いい」
 返答はここでも一言だった。
「落ち着くな、それに」
「飲んでいるとだな」
「そうだ、落ち着く」
「それが茶だ。弓もいつも張っている訳ではない」 
 武道をしている者に相応しい言葉であった。
「常に落ち着きそしてだ」
「余裕を以て楽しめ、か」
「真面目にな」
「匙加減ね。来期もそろそろそれを覚えることね」
「それがそのまま活きる、か」
 祖父母の話を聞きながら述べた。
「そういうことだな」
「その通りだ。御前のテニスやフェシングにもな」
「活きてくるわよ」
「そうだな。そのテニスやフェシングから」
 それからもある。それが今の彼であった。 
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