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髑髏天使

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第三十八話 老婆その十一


「おそばだけれど」
「まずいらしいな」
「口に合わないわ」
 目は顰めさせたままだった。
「とてもね」
「そこまでか」
「東京はおそばって言うけれどね」
 これは実際によく言われていることである。東京ではそれが本場だと江戸時代の頃よりされている。怪談のよなきそばもここから来ている。
「私には」
「合わないか」
「全然」
 困った顔での言葉だった。
「とてもね」
「そうか。やはりな」
「関東は駄目よ」
 関東自体に駄目出しであった。
「黒いおそばのおつゆなのよ」
「ざるそばもか」
「そうなの、おつゆが辛いのよ」
 困った顔でまた話す。
「だしが全然違って」
「黒いうえに辛いか」
「お勧めしないわ。美味しくないし」
「わかった。関東に行ってもうどんやそばは食べない」
「ラーメンも駄目だから」 
 うどんやそばだけではないというのだ。
「そっちもね」
「醤油のせいか」
「関西は薄口醤油だけれど」
 関東はというのだった。
「関東は濃いのよ」
「濃い醤油か」
「だからね。味はね」
 また言う若奈だった。
「あまりよくないわ」
「何もかもが合わないか」
「関東と関西じゃ味は全然違うから」
「ではラーメンも止めておくか」
「もう何もかもが違うのよ」
 やはり関東自体についての話になる。
「だからお勧めしないわ」
「それに値段もか」
「そう、高いの」
 値段についてもだった。
「関西と比べてね。東京は特にね」
「わかった。やはり俺は関西で生きる」
「それがいいわ。おまけにね」
「おまけにか」
「寒いし」
 気候についても話す。
「東京ってかなり寒いから」
「からっ風か」
「そのせいで寒いのよ。千葉はもっと寒いし」
「千葉にも行ったことがあったのか」
「柏の方に行ったのよ」
 若奈の話は今度は千葉のその街についての話にもなった。
「いい街だけれど寒くてね」
「それでか」
「あまり楽しめなかったわ。とにかく寒いのよ」
 それに尽きるというのだ。
「横浜や横須賀はよかったけれど」
「神奈川はか」
「厚木の辺りもよかったわよ」
 神奈川の話になるとだ。若奈の顔が明るくなった。
 そしてだ。こう話すのだった。
「横須賀にはアメリカ軍がいてね」
「ああ、基地があったな」
「それに中華街は中国系で」
「国際色豊かか」
「だからいいのよ。神奈川はお勧めよ」
「わかった。では機会があればな」
 その時はだというのであった。
「行ってみる」
「そうしたらいいわ。神奈川はいいから」
 まさにお勧めといった口調だった。 
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