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髑髏天使

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第三十七話 光明その七


「いるでしょ、一杯ね」
「そうだな。確かにな」
「平気で嘘を吐く人もいるし」
 若奈の顔が曇っていた。
「それこそ息をするようにね」
「いるな、確かに」
「それも一種の精神病みたいだけれど」
「精神病か」
「人格障害っていうのかしら」
 そうした類であるというのである。人格障害だとだ。
「そういう人っているらしいから」
「異常犯罪を犯す人間か」
「そういう人間もいるから」
「そうした奴にも会ってきた」
「いたの」
「知り合いでいた。どんな嘘をつこうがどんな悪事を働こうが全く平気だった」
 牧村は語っていく。運転しながらだ。
「そして人を騙しても利用してもな。全く平気だった」
「そういう人っているのね」
「今は刑務所にいる」
 牧村は一言付け加えた。
「詐欺で逮捕された」
「人を騙したことがばれたのね」
「それで捕まってだ。今は刑務所にいる」
「刑務所でも更正しそうにないわね」
「更正しない奴は更正しない」
 牧村は言葉に感情を込めずにそれで言い捨てた。
「何があってもだ」
「死んでもなのね」
「そうだ。死んでも直らない」
 まさにそれだというのだ。
「世の中にはそうした人間もいる」
「残念な話ね」
「どんな嘘を吐こうがな。盗みをしようがだ」
「そういうのって確か」
 若奈は牧村のその話を聞いているうちにある言葉を思い出した。その言葉は。
「サイコパスっていうのね」
「確かな」
「そうだったわね。サイコって何か禍々しい響きがあるけれど」
「そこから来る」
 そうした良心が異常に欠如した人格のことを言う。あのオウム真理教の麻原がそうだったと言われている。俗に百人、若しくは千人に一人いるとも言われている。
「ごく稀にだがそうした人間もいる」
「何処までも卑怯でも平気なのね」
「どれだけ卑劣でも醜悪でも信用をなくしても平気だ」
 牧村はまた言い捨てた。あえて感情は消しているようである。
「恥も知らない」
「ある意味幸せな人間ね」
「だからこそ重度の人格障害者だ」
「重度のね」
「こうした人間はまず自分しか考えない」
 牧村の言葉は続く。
「そうした知り合いがいた」
「そういう人間って自分が報い受けても逆恨みしかしないのよね」
 若奈の顔は困ったものになっていた。
「絶対にね」
「そうだな。そして果てはだ」
「果ては?」
「破滅しかない」
 またしても言い捨てたのだった。
「それしかない。わかっていないのは自分だけだ」
「自分だけなのね」
「自分だけしかないからわからない」
「エゴイストってことよね」
「簡単に言えばそうだ」
 まさにそうだというのだ。
「そういう人間はだ」
「人間ってそういう人もいるのね」
「人は色々だ」
 牧村はまた言った。
「素晴しい人間がいれば76だ」
「そうした腐った人もいるのね」
「腐った奴もまた何処にもいる」
 こうも話すのだった。
「何処にもだ」
「そうよね。それでだけれど」
「それでか」
「牧村君は。そうね」
 彼を見ながらだった。若奈はヘルメットの中で微笑んでいた。そうしてであった。
「奇麗な方ね」
「俺の何がだ」
「決まってるじゃない。心がよ」
 まさにそれだというのだ。若奈の今の言葉は嘘ではなかった。 
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