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髑髏天使

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第三十六話 日常その十二


「似ているな」
「マジックに似てるでしょ」
「ああ。親戚だからか」
「そうなの。お母さんの妹さんがやってるお店なの。御主人、叔父さんと一緒にやっていて」
「それでか」
 若奈の話から事情はわかったのだった。
「こうした内装になっているのか」
「そうよ。味は違うけれど」
「味はか」
「だって。牧村君には味のことも知ってもらいたいからね」
 こんな話もするのだった。
「だからと思って」
「味か」
「この店の味も確かめてみて」
「あっ、若奈ちゃんじゃない」
 カウンターから少し年配の女の声がしてきた。見れば若奈に実によく似た小柄な中年の女がいた。彼女が声をかけてきたのである。
「こっちに来たの」
「うん、叔母ちゃん」
 若奈は笑顔で彼女に応える。それと共に叔母ちゃんと呼んでいた。
「そうなの」
「そう、来てくれたのね」
「コーヒー貰えるかな」
 その笑顔で彼女に言うのだった。
「二杯ね。それと」
「スイーツはどうするの?」
「ケーキ頂戴」
 甘いものはそれだというのである。
「さくらんぼのケーキね。叔母ちゃんが得意なあれね」
「わかったよ。それじゃあね」
「それで御願いね」
 また言う若奈だった。
「二つずつね」
「わかったよ。それにしても」
 その若奈によく似た叔母はこれまたよく似た笑顔で牧村を見てきた。そうしてそのうえでにこりと笑ってこう言ってみせたのである。
「うちの人によく似てるね」
「叔父ちゃんに?」
「そうよ、あの人の若い頃によく似てるね」
 こう言ったのである。
「とてもね」
「そうかしら」
「そうよ。格好よくてね」
 牧村に対するだけでなく自分の夫に対しても言った言葉だった。
「とてもいい感じね」
「そうでしょ。背も高いし」
「若奈ちゃん小さいから余計に目立つね」
「小さいのは叔母ちゃんだって同じじゃない」
 今の叔母の言葉には少しむくれた顔になる若奈だった。見れば背も同じ位だ。そうしたところまで実によく似ている二人である。
「それは言わない約束でしょ」
「あはは、そうだったね」
「そうだったねじゃなくてそうよ」
 また言葉を返す若奈だった。
「とにかく。カウンターいいかしら」
「ええ、いいわよ」
 叔母も笑顔で返した。
「それじゃあ」
「牧村君、座ろう」
 若奈は牧村に対しても声をかけた。
「それじゃあね」
「そうだな。それではな」
「コーヒーでいいわよね」
 あらためて彼に問うた。
「コーヒーで」
「いい」
「紅茶もあるけれどね」
「うちのお店は紅茶もいいわよ」
 叔母も笑いながらまた話してきた。 
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