髑髏天使
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十六話 日常その十一
「来期もよかったね」
「よかった!?」
「そうだよ。こうしたいい娘を見つけてくるなんてね」
完全に若奈の側に立った言葉であった。
「いや、本当によかったよ」
「誤解しているな」
「誤解じゃないよ」
それはすぐに否定する祖母だった。
「絶対にね」
「いや、誤解だ」
牧村はこう返した。
「それはだ」
「いやいや、わかるから」
しかし祖母の方が上だった。伊達に長生きしているわけではなかった。
「本当によかったよ」
「それで何がいい」
「相手はね。いい娘に限るよ」
かなり具体的な言葉であった。
「それはね」
「だから誤解だ」
「あの」
その若奈も祖母に言ってきたのだった。顔が赤い。
「私達はまだ」
「あっ、そうなのかい」
「そうです。ですから」
何気に自爆しているがそれには気付かない若奈だった。
「そんなことは」
「そうだね。来期が大学を卒業してからだね」
未久と同じく全てわかっているのだった。
「そういうことだね」
「話を終わらせたいが」
牧村は強引にこう言ってきた。
「いいか」
「そうそう、後は二人でゆっくりとね」
「それは違う」
牧村の声は少し怒ったものになっていた。
「それはだ」
「それじゃあね」
「じゃあ。ええと」
「はい、奥谷といいます」
若奈は祖母に応えて自分の名前を名乗ってきた。一礼しながらだ。
「奥谷若奈です」
「あら、いい名前ね」
祖母は若奈の名前を聞いてあらためて笑顔になって述べた。
「若奈さんね」
「はい」
「来期のこと宜しくね」
そしてこうも告げたのだった。
「この子のことね」
「牧村君のことですか」
「無愛想でつっけんどんな子だけれどね」
それでもだというのだ。
「悪い子じゃないから。宜しくね」
「有り難うございます」
今の有り難うという言葉の意味はだ。だが牧村はそれには気付かなかった。
「それでは」
「そういうことでね」
「全く」
牧村は気付かないままだった。そうして祖母は屋敷の奥に入った。若奈は彼と二人になるとだった。すぐにこう言ってきたのである。
「それでだけれど」
「それでか」
「ええ。喫茶店に行かない?」
これが彼女の言葉だった。
「今からね」
「喫茶店か」
「叔母さんがやっている店だけれど」
「そこにか」
「そこのコーヒー美味しいから」
だからだというのである。
「一緒に飲みましょう」
「わかった。今からな」
「行きましょう」
「ああ」
こうして二人でその喫茶店に入った。そこは奇麗な、マジックとよく似た内装の店だった。牧村はその店の中を見てまずはこう言ったのだった。
ページ上へ戻る