髑髏天使
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第三十五話 瞑想その九
「お兄ちゃんにもっとスピード出してとか言わなかったでしょうね」
「それはないけれど」
「そう。だったらいいけれど」
母はそれを聞いてまずはほっとした顔になった。
「それだったらね」
「私あまりスピードとか興味はないし」
「そうよ。狭い日本よ」
交通標語めいた言葉まで出て来た。
「そんなに急いで何処に行く、だからね」
「そうね。それはね」
「わかったらくれぐれも気をつけなさい」
母の言葉は厳しいものになっていた。咎めるものである。
「車にしてもバイクにしても凶器だからね」
「そうだな」
牧村は母の今の言葉にふとした感じで返した。
「それはな」
「流石に来期はわかっているのね」
「わからない筈がない」
こう返すのだった。
「それもだ」
「だったらいいわ。それじゃあ未久」
「うん」
「また大阪に行くのよね」
こう娘に問うのである。
「部活や塾がない日は」
「そのつもりだけれど」
「わかったわ。その場合はね」
前置きしてからの言葉だった。
「電車で行きなさい。いいわね」
「電車でなの」
「そうよ。それが一番安全だから」
だからだというのだ。
「わかったわね。それで」
「ええ、じゃ次からはそれでね」
「来期も。サイドカーもいいけれど」
「ああ」
彼にも言うのを忘れない。母親らしい気遣いだ。
「くれぐれもね。気をつけてよね」
「わかっている。それはな」
「わかってくれていたらいいから。それで」
母の言葉がここで変わった。
「いいかしら」
「何だ」
「どうしたの?」
牧村だけでなく未久も母に言葉を返した。
「何かあるのか」
「私お昼は部活だけれど」
「それでも朝は空いてるわよね」
母は今度はこう言ってきた。
「だったら今からパンケーキ焼くからどうかしら」
「パンケーキか」
「いいじゃない、それって」
目を輝かしたのは未久だった。
「パンケーキ大好きよ」
「未久はパンケーキ以外もでしょ」
母はそんな娘に笑顔を向ける。そしてこうも言うのであった。
「来期もよね」
「好きだ」
それはその通りだと頷く牧村だった。
「それではだ」
「シロップと生クリームも用意してあるから」
「そうか」
「特にシロップがないとね」
パンケーキには欠かせない。それは母もわかっていた。
そうしてだ。母はここでまた言ってきた。
「じゃあ食べるわよね」
「よし、じゃあ食べましょう」
「そうだな」
こうしてだ。二人は家にあがりそのうえでパンケーキを食べる。そしてそれから未久は部活までの間は夏休みの宿題をすることにした。
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