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髑髏天使

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第三十四話 祖父その十五


「ハンバーグにしようかしら」
「それか」
「ハンバーグ好きだから」
「そうだな。御前は昔から好きだな」
「そうそう。だからね」
「それでどの店にする」
 このことも尋ねた。
「一体どの店にするつもりだ?」
「びっくりドンキーにするわ」
 それだというのだ。
「そこにね」
「びっくりドンキーか。しかしそれなら」
「神戸にもあるって言いたいのね」
「御前よく行くな」
 こう言うのである。
「しかし。それなら」
「神戸でも食べられるっていうのね」
「そうだ。それでもか」
「そうよ。それでもよ」
 また言う未久だった。
「美味しいからよ。ボリュームも凄いし」
「チェーン店だったら別にここではなくてもな」
「いいじゃない。そんなこと言ったら」
 言葉でのやり取りは妹の方が一枚上手だった。少なくとも今はだ。
「それでもね」
「それでもか」
「食べたいものを食べる。そうじゃない」
「結局はそれか」
「そう、それ」
 有無を言わせぬ口調だった。
「とにかく明日はハンバーグよ。いいわね」
「わかった。では何を食べる」
「そうね。大きさは絶対に四百グラム」
 言うのは大きさからだった。
「それで目玉焼きを乗せたのね」
「いいな、それでは俺もだ」
「その気になったのね」
「気が変わった。そこでいい」
「わかったわ。じゃあ明日も二人でね」
 こう話してそのうえで二人で祖父母の屋敷に帰った。牧村はそこに帰るとすぐに持って来たジャージの一着に着替えた。そうしてランニングに出た。まだ夕方であり赤い世界である。その赤い大阪の中を走るのだった。
 その赤い世界の中を走っているとだ。声がしてきた。
「楽しんでいるな」
「ここにも来たか」
「私は何処にでも現れることができる」
 死神だった。走る彼のところに来たのだ。そのうえでの言葉だった。
「そしてだ」
「そしてか」
「見ていた。貴様はかわしただけか」
「あれか」
 死神の言葉を受けて返した。
「見ていたか」
「見ていた。人に対してはそうか」
「下らない相手だ」
 ゴロツキ達をこう言い捨てる。走るのを止めて相手に対している。
「所詮はな」
「そうだな。雑魚にしか過ぎない」
 死神もそれで終わらせた。
「魔物とは雲泥どころの違いではない」
「そうした相手に向ける剣はない」
 牧村はまた述べた。
「俺は魔物に対してだけだ。それ以外には剣は抜きはしない」
「それでいい。若しあそこで拳を振るうか」
「髑髏天使になればか」
「その時は貴様は終わっていた」
 死神の言葉は鋭いものになっていた。
「完全にな」
「完全にか」
「そうだ。魔物になっていた」
 言葉だけでなく目の光も強いものになっている。
「その時は私が勝っていた」
「少なくとも髑髏天使になるつもりは毛頭なかった」
 牧村はまた彼に返した。
「それはな」
「なかったか」
「人だ」
 だからだというのだ。
「人が相手ならばだ」
「そうする必要はないか」
「髑髏天使はあくまで魔物と闘う存在だ」
「そうだ。それ以外の何者でもない」
「その通りだな」
「それで貴様はだ」
「俺はか」
 牧村も彼に応える。
「どうだというのだ?」
「これでまた踏み止まった」
「人であることにか」
「そのまま人でいることだな。それにだ」
「今度は何だ」
「今智天使だったな」
 今度話してきたのは天使としての階級だった。それだった。
「もう一つある」
「最上位か」
「そうなる。それはわかっておくことだ」
「わかっている。だが」
「だが?」
「それになればどうなるか、か」
 それを言うのであった。
「私もあの階級については詳しくは知らない」
「神である貴様もか」
「何故ならそこにまで至った者は殆どいない」
 だからなのだというのだ。
「それで知る筈もないと思わないか」
「そうだな。それは確かにな」
「だからそれについてはわからない」
 また言う彼だった。
「だが。それはさらに人であることを超えるものだ」
「そうなのかもな。では、だ」
「また会おう」
 ここまで話して踵を返した。
「それではな」
「そうだな。またな」
 二人はこれで話を止めた。死神は立ち去った。そしてそのうえで牧村もランニングに戻った。彼の大阪での己を見つける旅はまだ続くのだった。


第三十四話   完


                2010・3・30 
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