SAO─戦士達の物語
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SAO編
三十二話 疑問と回想
「キリト君にさ……聞きたい事が有るんだよ……ね」
「え?」
アスナからその問いがキリトに飛んだのは、ヒースクリフとの勝負が終わった二日後の事だった。
「どうして……どうしてギルドや人を避けるの……?」
「……っ」
「…………」
─────
「っはっはっはっは!!似合わねーーー!」
「兄貴ィ!!」
爆笑しながらそう言った俺に対し、キリトが怒鳴る。その横ではアスナがクスクスと笑っている。
今日の朝、攻略に出ようかと転移門をくぐろうとした俺に、まるで狙ったかのようにアスナから、エギルの店に来るように言われた。
何事かと思い行ってみると……何時もの安楽椅子に座ったキリトと、その肘掛けに座ったアスナが居て、キリトが白服に赤十字と言う何時もとは正反対のおめでたい恰好をしていた訳である。
いやいや、あえて言おう。凄まじい違和感である。
何しろ普段から真っ黒だったこいつがいきなり真っ白だ。ホワイトハウスが真っ黒になったとしても、此処まで違和感はあるまい。
「だから地味な奴っていたんだぁ!」
「うーん、これでも十分地味な方だよ?大丈夫!似合ってるよキリト君!」
「今似合わないって言った奴が目の前にいるって!」
天井を仰いで叫ぶキリトにアスナが慰めるように声をかけるが、逆効果だったようだ。
キリトの纏う空気がズゥーンと重いものになっている。
「ゲホッゲホッ……ふぅ……それよか、お前がギルドになぁ……」
小さくつぶやいた声は、盛り上がっていた二人に届いたらしく、四つの眼が此方を向く。
「俺もまさかこんな事になるとは思ってなかった」
「だよなぁ……」
俺とキリトが二人でしみじみとした空気を醸し出していると、突然アスナが申し訳なさそうな顔をした。
「同じギルドのメンバーになれたのは嬉しいけど……なんかすっかりキリト君の事巻き込んじゃったね……」
その言葉に、俺は笑って返す。
「良いって良いって、此奴にもいい機会さな」
「何で兄貴が答えんだよ?」
横でキリトがぶうたれたが、「嫌なのか?」と聞くとすぐに「そうじゃないけどさ」と返って来た。素直な奴だ。
と言うか、そう言えば俺はこのためだけに呼ばれたのだろうか?
そんな事を思った時だった。
「そう言ってくれると私も助かるけど……ねぇ、キリト君」
その質問が、アスナの口から放たれたのは。
────
「…………」
「……兄貴」
「お前が決めろ」
答えは此奴の決める事であり、俺が口を出すべき所では無い。
確かにキリトが人との繋がりを極端に避け始めたあの出来事に俺は少なからずかかわっているが、それをアスナに話す話さないはあくまでもキリトが決めるべき事だ。
「あ、あの、答えたくないなら……」
「いいよ、話せる。アスナになら……」
「…………」
気を使ったのか、話さない道も提示しようとしたアスナだが、それをさえぎってキリトは口を開く。
キリトのアスナに対する信頼の証とも言えるだろう。
気持ちを落ち着かせるように一度深呼吸をし、再びキリトは口を開く。
それは、此奴自身の変えられない過去であり、消えない罪。
「…………もうずいぶん昔……一年以上前かな。一度だけ、ギルドに入っていた事がある……」
その話を聞きつつ、俺もあの時の事を思い出す。
キリトとあいつ等が始めて出会った、その日の帰り道だったと言う、あの日。
「迷宮《ダンジョン》で偶然助太刀した縁で誘われたんだ……。俺を入れても六人しかいない小さなギルドで、名前が傑作だったな──」
確かに。
初めに聞いた時は、俺も「何時の時代の盗賊団だよ」とか思ったりした物だ。
──《月夜の黒猫団》──
今はもう存在しないそのギルドは、そういう名だった。
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