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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  三十一話 弟VS騎士団長様

 午前中の事を思い出しながら歩いていると、ようやくコロセウムの入口へと辿り着いた。
近くで見ると一段とでかい。
その上、コロセウムの前は最早出店だらけとなっており、完全にお祭り騒ぎである。

『キリトの奴ぼやいてんだろうな』
 苦笑しながらそんな事を思いつつ、コロセウムの中へと入る。
既にクラインとエギルが、席を確保してくれていた。

「おう、リョウ。遅かったじゃねぇか」
「ギリギリだな?」
「あぁ、ま、あんまり待つのは性にあわねぇんだよな」
 クラインとエギルがそれぞれ言って来るのに、そう答えつつ、席に座る。
丁度、キリトとヒースクリフの二人が入場してくる所だった。どうやら本当にギリギリだったらしい。

「なぁリョウよう」
「ん?」
 クラインの問うような声に、一文字で答える。
互いに、目線はコロセウムの中心に向いたままだ。

「キリトとヒースクリフと、どっちが勝つと思うよ?」
「おっさん」
「即答かよ!?ちったぁ義弟《おとうと》信じてやんねぇのか?」
 やたらと熱くなってまくしたてて来る所を見るに、クラインはどうやらキリトを応援する気らしい。
まぁ、此奴なら当然とも思えるが。

「ってもなぁ……やっぱおっさんが勝つと思うぜ?これ」
「あぁ?何でだよ?」
「……カンだ!」
「またかよ!?」
「つーかおっさんって……怖いもの知らずだなリョウ」
 いつの間にか漫才の様な会話になっているが……さいごのエギルの台詞は聴こえなかった事にする。

「それより、ほれ、始まるぞ」
「あぁ。すまんクライン、終わるまで話しかけないでくれ?」
「お、おう。わかった」
 俺はコロセウムの中心に立つ二人を注視する。

 キリトは《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》正面中段に。
ヒースクリフは十字盾を壁のごとく正面に構え、その後ろで細身の長剣の切っ先をキリトの方へとぴたりと向けて。
既に此方の歓声は彼らには聴こえていないだろう。集中しているのが此方からでも分かる。

 それを見ながら俺自身も段々と自分の集中力が上がってきているのを自覚する。
視界の中心の二人が大きくなって行き、周りの音が遠ざかる。

『…………』
 俺の視界の二人が極限まで大きくなったころ、突然キリトが動いた。
試合開始である。

『1、2』
 突進した所から見るに、あの技は突撃技の《ダブルサーキュラー》だろう。
一応二刀流の剣技《ソードスキル》だが、あんなものは挨拶程度の物だ。反動によって距離を取ったキリトは再びヒースクリフと対峙する。
これに対し、ヒースクリフは盾を前に掲げて突進していく。
盾の後ろに長剣を構えている所を見るに、キリトに手の内を読ませないつもりだろう。
それにしても、あれだけ重そうな鎧を着ていながらよくもまぁあれだけのスピードで動ける物だ。
流石は……と言ったところか。

 これをキリトは走って回避しようと、盾を持っている。即ち剣を振るう事が出来ないヒースクリフの左手に回り込もうとする。が、あろうことかヒースクリフは盾その物を水平に構え、白銀のライトエフェクトと共に打ち出したではないか!
成程、どうやら《神聖剣》死角は無いらしい。

 不意を打たれたキリトは、それをギリギリのところで剣を×の形に構えて受け止めるが、勢いを殺す事が出来ずに後ろへ吹っ飛ぶ。
空中で回転すると言う超人的な身体の使い方によって体制を崩す事は避けたキリトだが、その隙を逃さんとばかりに、ヒースクリフは追撃をかけに行く。

『1……2、3、4……5、6……7、8』
 かなりの速さの八連撃だ。アスナより少しばかり遅い程度、と言ったところだろうか?敏捷値も大したものである。

 しかし、まだ勝負は終わらない。
それを全て二本の剣でさばききったキリトは、最後の一撃をふさいだ時の勢いを利用して構えを取り、単発重攻撃《ヴォ―パル・ストライク》を放つ。
その一撃は十字盾の中心へと突き刺さりヒースクリフをふっ飛ばしたが、彼は大した衝撃を受けた様子も無く、軽いステップで体制を立て直す。

「────────」
「───────!」
 間合いが離れた所で、二人は何か言葉を交わしたようだったが、すぐに互いに接近し、剣劇の応酬を始める。

『1……2、3、4……5』
『7、8、9……10、11』
『3、4、5……6、7、8』
『2、3、4、5……6、7、8』
 繰り返される連撃技の、その全てを眼に収めて行く。
すさまじい速さで振われる二人の剣に、段々と俺の眼が慣れて行く……

 中学一年生くらいの時だっただろうか?
進路指導か何かの一環で渡された紙の、自分の長所を書きなさいと書かれた欄に、俺は迷わずこう書いた事が有る。

・勘。
・集中力。
・何にでもすぐ慣れる事が出来る事。

 周りの友人には苦笑されたが、これは事実だ。
スポーツだろうが数学の公式だろうが英語だろうが、あらゆるものに関して俺は集中的に考え、見て、聞いて、実際に行動する事で直ぐに慣れる事が出来る。
慣れるだけ、と言う事を軽んじる人間と言うのは多いが、実際の所、人間と言うのは慣れれば大抵の事は出来るようになるのだ。
 その優位性が、この世界に来てから此処まで役に立つとは思っていなかったのだが……
とにかく。俺はあらゆる人物の動きやそのスピードに対して、殆どの物は集中すれば初見で慣れ、二度目からは対処が効くようになる。
 まぁ無論、身体が動かなければどうしようもないが……

 そして俺は今回の試合で、ヒースクリフの《神聖剣》とキリトの《二刀流》この両方のユニークスキルの動きと速さに、完全に慣れるつもりでいた。

『5、6……7、8、9、10』
『1、2、3……4、5、6……7、8』
『9、10……11、12』

 最早俺の眼は完全にキリトとヒースクリフの動きを捉えきっていた。
今なら、彼らの次の動きを見てからでも何とか対処が出来るかもしれない等と思い始めた時、一気にキリトが攻勢に出た。

「らあああああ!!」
『1、2、3、4、5……6、7、8、9、10……』
 此処からでも聴こえるほどの咆哮と共に、二本の剣尖が次々にヒースクリフに叩き込まれていく。
その凄まじい連撃に、段々とヒースクリフの対処が遅れてゆくのが見える。
──これは……行けるか!?

『11、12、……13、14、15、1……なっ!?』
 最後の一撃が十字盾のガードを抜け、ヒースクリフへと命中しようとしたその瞬間、ヒースクリフの盾が有り得ない動きを見せた。
人間の、否、ポリゴンがぶれる、即ち“システム”の限界すら超えたと思わせるスピードで盾が左へと動いたのだ。
それにより、キリトの最後の一撃は見事にガードされ、発生した硬直時間により動けないキリトへと見事にヒースクリフの一撃がヒット。
デュエルは決着となった。

────

「かーっ!おしかったぜキリトの奴!最後のは行けると思ったんだがよう!」
 試合終了後、リョウ達はキリトに祝敗会、もとい残念会言う妙な物を開いてやろうと、アルゲードの中を歩いていた。

「まぁ、ヒースクリフ相手にあそこまで互角にやり合ったんだからな、流石はウチの常連だ」
「…………」
「いやそりゃ関係ねぇだろ。それなら俺だってなぁ?リョウ」
「…………」
「おい、リョウ?」
「……ん?あぁ、わりい。聞いて無かった」
 反応の無いリョウの顔を、クラインが怪訝そうな表情で覗き込み話しかけるとやっと反応が有った。

「なんだ?キリトが負けた事にでも納得行かないのか?」
 訪ねたエギルに、リョウは肩をすくめながら返す。

「いやいや、相手はあの神聖剣だしな、負けたっておかしかねぇさ」
「んじゃどうした?」
 今度はクラインだ。
それに対して、リョウは今度は首を横に振った。

「なんでもねぇ。ちいとボーッとしただけさ。」
「ならいいけどよぉ……」
「まぁ、追及しても仕方ない。そう言う事にしとけクライン」
「お、おう……」
 上手く胡麻化してくれたエギルに感謝しつつ、リョウ達はエギルの店へと向かう。。

『…………』
 色々な事を、考えながら────

Sixth story 《終わりが始まる時》完
 
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