髑髏天使
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第三十一話 赤眼その十四
「水泳は止めておくか」
「そうした方がいいんじゃないかしら。ただ」
「ただ?」
「牧村君泳げるわよね」
このことは彼に問うたのだった。
「確か。そうよね」
「泳げることは泳げる」
こう答える彼だった。これは本当のことだ。
「それはだ」
「そう。だったらいいわ」
「しかし水泳はトレーニングには入れない」
「ええ。ただ牧村君の身体つきはね」
「それはどうだ?」
「ジャージとか服の上からでしか見ていないけれど」
実はそこまで深い仲にはなっていないのだ。若奈にしろ彼にしろそうした意味では非常に奥手であると言えた。
「それでもね。筋肉のバランスはいいと思うわ」
「そうか」
「ボディービルダーみたいな感じじゃなくてむしろ」
ここで若奈はこう表現した。
「仁王像みたいな感じかしら」
「あの奈良の像か」
「そう、あの感じで」
あの逞しい阿吽の仁王像だというのである。
「そんな感じでね」
「そうか。俺は仁王か」
「凄くいい意味での筋肉質よ」
彼はそうだというのだ。
「それでいいと思うわ」
「わかった。ではこのままフェシングとテニスでいく」
彼は若奈のその言葉を受けた。今は腹筋から背筋に変わっている。そちらも斜めになってそのうえでしている。
「その二つでだ」
「種類を多くすればいいものじゃないからね」
「じっくりとやるのもか」
「そういうことだから。それじゃあね」
「まずはこの筋力トレーニングをしてだ」
それからだという牧村だった。
「やっていくか」
「ええ、それじゃあ」
若奈はその彼の隣にいてセコンドに徹していた。彼はその彼女のサポートを受けて充実したトレーニングを行っていた。
そのトレーニングは夜も行われていた。それが全て終わり今はくつろいでいた。そのうえで自分の部屋にいる。
その彼の部屋にだ。未久が来た。そのうえで彼に言ってきたのだ。
「ねえ、お兄ちゃん」
「何だ?」
「この前ゲーム買ったわよね」
このことを問うてきたのである。
「新作の」
「それがどうした?」
「貸して」
一言であった。
「今からするから」
「今からか」
「そうよ、今から」
こう言うのである。
「わかったら貸して」
「駄目だ」
しかし兄は妹の我儘にこう返してきた。
「今は駄目だ」
「何でよ」
「今丁度俺がやっている」
だからだというのである。
「だから駄目だ」
「今は駄目なの」
「後にしろ」
そしてこう告げるのだった。
「わかったな」
「ちぇっ、今すぐ終われるのに」
「いい加減我儘を言うのは止めろ」
彼にしてもこう言いたかったし実際に言った。
「俺もゲームをしたいんだからな」
「それは私もよ」
妹の我儘は終わらない。あくまでこう言うのである。
「私だってそのゲームしたいんだから」
「それでも後にしろ」
「どうしても?」
「そうだ。どうしてもだ」
兄も引かない。
「わかったな」
「わかったわよ。それじゃあね」
「他のゲームを借りるのか?」
「そうさせてもらうわ」
まさにその通りだというのだった。妥協ではあった。
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