髑髏天使
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第三十話 智天その十五
「その魂を冥界に送り届けてやろう」
「それじゃあ僕はこれで」
「変えるか」
「後は魔物に任せてね」
そうするというのである。これはいつも通りであった。
「そうさせてもらうよ」
「ならば消えるのだな」
死神も引き止めることはなかった。
「早くな」
「うん、じゃあね」
「ではここは私が」
水の中の鰐が魔神に対して言ってきた。
「お任せ下さい」
「じっくりと楽しむんだよ」
魔物に対しても言う小男だった。
「それはね」
「そうさせてもらいます。それでは」
「これでね」
これで魔神は煙の様に姿を消した。そして後にはプールの中の魔物がいるだけであった。その禍々しい姿の鰐がである。
魔物はだ。今度は死神に対して水の中から言ってきた。
「死神よ」
「私を喰らうとでもいうのか」
「神は喰らったことがない」
それを実際に言う彼だった。
「一体どんな味がするかだな」
「少なくともそれはない」
「それはない?」
「私は誰にも喰らわれたことはない」
悠然とその水の中にいる魔物を見下ろしての言葉であった。
「誰にもだ」
「それは今までの話でしかないな」
「これからもだ」
過去だけではないと返すのであった。
「私は誰にも喰らわれることはない」
「大した自信だな」
「自信ではない」
この言葉も否定する彼だった。
「確信だ」
「確信か。流石は神だな」
「では神の力を見せよう」
死神は神というその言葉に応えて述べた。
「この力をな」
「では闘う姿になるのだな」
「やらせてもらう」
言いながらであった。その右手を拳にして胸の前に置く。するとであった。
青白い光がその拳から放たれ全身を包んだ。それが消えた時彼はその戦装束を身にまとっていた。右手にはあの大鎌がある。
右手に持ったまま大鎌を一閃させてだ。言った言葉は。
「その魂、冥府に送ってやろう」
「それじゃあはじめようか」
こうして彼等は闘いに入った。そうしてであった。
男は道化師を前に置いたうえで牧村と対し続けている。そうして言うのだった。
「ではだ」
「はじまりだな」
「それでいいな」
こう彼に問うのである。
「逃げるのならばそれでいいがな」
「俺の辞書に逃げる言葉はない」
「ないというのか」
「少なくとも魔物に対してはだ」
そうだというのである。
「それはない」
「そうか」
「来い」
今度は道化師に対する言葉である。
「倒してやろう」
「ヒヒヒヒヒヒヒ、ではウェンティゴ様」
「うむ」
男は魔物の言葉に対して返した。目は牧村を見たままである。
「髑髏天使の相手をすることを許す」
「有り難きお言葉」
魔物はその言葉にわざとらしいまでに慇懃な礼で返した。その右手を胸にやってまるでこれから芝居をはじめるような仕草であった。
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