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髑髏天使

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第二十九話 小男その二十


「余りものね。クッキーとかロシアンケーキとか」
「ロシアのケーキもか」
「そうよ、色々持って来たのよ」
 こうにこにこと話す若奈であった。
「だからね。たっぷりと食べて」
「わかった。それではだ」
「最近ロシアンケーキもはじめたのよ」
 若奈はここでこの話もしてきたのった。
「新しいメニューってことでね」
「あのマスターがか」
「お母さんのアイディアなのよ」
「そっちか」
「そうなのよ。ロシアンティーはもうあるし」
 それはあるというのである。
「どうせだからロシアのお菓子もどうかってことになって」
「それでか」
「どうかしら」
 ここまで話してあらためて牧村に問うてきた。
「ロシアのお菓子もあっていいわよね」
「いいと思う」
 こう返す彼だった。
「美味いのだな」
「実際に試しで食べてみたけれどね」
「そうか。いいのか」
「うん。それで牧村君にもここでね」
「わかったそれではだ」
「食べて」
 こうして彼もそのロシアの菓子を食べることになった。実際に彼女から受け取ったそのロシアンケーキはクッキーに見えた。そしてその食感は。
 手に取って食べてみるとだ。すぐに若奈が尋ねてきた。
「どうかしら」
「いいな」
 こう答える彼だった。
「ケーキというよりはな」
「クッキーみたいでしょ」
「それを食べているようにしか思えない」
 実際に食べてみての感想である。
「これがロシアのケーキか」
「そうなのよ。人気出るかしら」
「ケーキとして人気は出ないな」
 食べてみての感想である。彼にしてみればそれはケーキではなかった。他の種類の食べ物にしか思えなかったのである。とてもだ。
「むしろだ」
「クッキー?やっぱり」
「それにしか思えない」
 言いながらさらに食べ続けての言葉である。
「どうしてもな」
「やっぱりそうよね。これってクッキーよね」
「しかし美味いのは確かだ」
 このことには太鼓判を押した。
「焼き菓子として考えるといい」
「じゃあお店に出していいかしら」
「いいな」
 今度ははっきりと答えた彼だった。
「出せるものだ」
「わかったわ。それじゃあ出すわね」 
 若奈もそれを聞いて頷いてから述べた。
「これもね」
「また一つ売り物ができるな」
「そうなのよ。コーヒーと紅茶だけでもお客さんは来てくれるけれどね」
「より多くのものをだな」
「そういうこと。満足したらそれで終わりよ」
 今度の言葉はかなり求道的であった。
「お店もね。だから少しでもいいから努力をしていかないとね」
「そうだな。そうしないとな」
「お店だけでなく何事もね」
「努力か」
 牧村はその言葉を今呟いたのだった。
「まずはそれからか」
「そうよ。まずは努力よ」
 若奈はまたこの言葉を口にしてみせた。
「それがあってだからね。何でもね」
「俺もか」
 牧村は若奈の話を聞いて自分自身にも当てはめて述べた。
「努力をしていかなければ」
「フェシングもテニスも上達しないわよね」
「それに」
 ここから先は若奈にはわからないことだった。それを一人言うのであった。
「生きることも」
「生きる?」
「生きることもできない」
 こう言うのだった。これは髑髏天使としての言葉であった。
「決してな」
「まあそれはそうだけれどね」 
 若奈は今度はそれを普通に生きることだと考えて言葉を返した。 
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