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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  二十二話 その男の異名

「ヒャッハァァァアアアア」
「ソォラ、死ねやぁ!!!」
「さぁ死のう!!一緒に死のうよ!!!」
「Zそ:言うふぁおプrなcゥおい・cンmcぬzん\;ziァァァァアアアァァァァァぁ!!!」
「くそっ!下がれ!後退しろ!」
「HP回復してくれ!注意域に割り込んじまってる!」
「我慢しろ!結晶だって限りがあるんだ!」

『くそっ……!』

──状況は、最悪だった。

 とある攻略済み低層フロアのフィールドの端の洞窟の中。
キリトは、その中で多数の怒号と剣戟の音を聞きながら唇を噛む。


 次層へと続く階段では無く、ゲームデザイナーが配地しただけで取り残した様な小さな洞窟ダンジョンの安全地帯。
そこに、殺人ギルド、《ラフィン・コフィン》の本拠地はあった。
この場所を、以前ラフコフへと交渉のために送ったメッセンジャーが殺されてから実に数カ月の時間がかかりながらもようやく見つけ出せたのは相手方、ラフコフの中から──恐らく殺人の罪悪感に耐えかねて──攻略組への密告者が出たからだ。

 偵察の後、その洞窟が本拠地であると確信を得た攻略組はすぐさま行動を開始。
攻略組最大規模ギルド。《聖竜連合》の幹部プレイヤーや《血盟騎士団》他にも名だたるギルドから実力者たちが参加し、ソロからも、依頼や志願によって次々にメンバーを集めた結果、恐らくはこの世界で最強であろう大規模討伐部隊が編成された。

そして本日 八月某日 午前三時
大規模殺人《レッド》ギルド 笑う棺桶 《ラフィン・コフィン》討伐作戦が、始まった。

 のだが、皮肉にもと言うべきか、それとも必然的にと言うべきか。
此方に密告者が居たのと同じように、攻略組からも相手方へと密告が発生していたらしく、極秘として進められてきたこの作戦は敵方へ完全に漏れていたのである。

 当然、突入は事前に対策されており、ラフコフメンバーは一人として本拠地である洞窟内の大広間には居なかった。
しかし、別に逃亡した訳ではない。敵方は、突入時に攻略組が通り抜けたダンジョン内の枝道に身をひそめ、討伐部隊を背後から逆奇襲して来たのだ。

 罠から、毒、目眩ましまで、ありとあらゆる準備を整えた上での不意打ちである。幾らレベル的に敵を大幅に上回っているとはいえ、部隊は始め、大きな混乱に陥ってしまった。
当然、奇襲が強襲どころか反撃を許す状態となったこの時点で、レベル差を利用して安全地帯の出口、入口を封鎖し、敵に無血投降させると言う当初の策は不可能となり、戦闘はやむなしとなる。

 一度は危機に陥ったものの、突発的事態の対応能力は、討伐組にとっては最も求められる能力の一つだ。
状況を理解した討伐部隊の面々は、敵に対し猛然と反撃を開始した。
圧倒的なレベル差である。正面からの戦闘で有れば、状況を覆し、此方が勝利することは難しくない。俺も、初めはそう思っていた。

 だが、ラフコフと討伐隊の間には、ある、決定的な差が存在した。
殺人への、忌避感の有無である。
現在目の前に居る、狂騒状態となったラフコフのメンバー。その全員が、誰一人として、HPバーをギリギリまで減らされても降参しない事が分かった時、討伐隊の全員が大きく動揺した。

 当然ながら、そう言う状況が有りうる事を事前に話し合ってはいた。
その場合、HPを削りきることもやむなしと、初めに結論を出してもいたはずだ。
しかし、HPバーを真っ赤にした者に、とどめの一撃を刺すとなると……そんな覚悟を、話し合いの一つで決める事が出来るははずも無かったのだ。


 そして現在、討伐隊はとどめをさせないまま混戦を続けており、徐々に防戦一方となりつつある。
このままではまずい。
喧噪の中そう思うが、かといって打開策も見つからない。
切り札を使うべきかもしれないが、こんな人の多い名所で使う事は出来ないし、何よりまだ使いこなしていない。
焦りと苛立ちばかりが募り、背筋を嫌な汗が流れる。


──そんな中、その声はやけに俺の耳によく届いた。


「あっ……!」
 周りの男たちの怒号よりも、ワントーン高い声。
聞き覚えのあるその声に、右へと首を回した俺の視線の先に居たのは、純白の騎士装の少女。
ギルド《KoB》の副リーダーであり、俺の友人、アスナだった。

 その彼女は今、視線の先三メートルの位置で愛用の純白のレイピアを跳ね上げられた状態で、身体を硬直させている。
そして恐らくそれをしたであろうプレイヤー、金色の趣味の悪いツンツン頭に褐色の肌をした両手剣使いのプレイヤーが、奇声を上げながら手に持った巨剣を紫色のライトエフェクトと共に振り下ろそうとする。

──やめろ

 策敵スキルで、アスナのHPは分かる。
長時間の戦闘でかなり削られたそれは、既に黄色の注意域まで割り込んでいた。
あの体勢でクリティカルを受ければ、HPバーは削りきられて……

──やめろ

 アスナの顔が恐怖に染まる。
その姿が何かとデジャヴする。
周りを埋め尽くすほどの敵。
アスナの髪が黒く染まり、その顔が……

──やめろ やめろ やめろ! やめろ!!

「おっおおオォォォォォォォ!!!」
 気が付くと俺は叫びながらアスナと敵の間に走り、割り込んでいた。
振り下ろされた巨剣を弾き飛ばし、伸びきった腕を無理矢理引き戻して漆黒の愛剣を右から左へと思い切り振り抜く。
相手の首へと吸い込まれるように半円の軌道を描いた俺の剣は、目の前に居るそいつの首と胴体を容易に分離させ、HPバーを完全に消滅させた。


 アスナは、焦っていた。
人を殺すと言う事がどうしても出来ない周りのプレイヤーたちは、皆HPバーを赤く染めたオレンジプレイヤーたちにとどめをさす事が出来ず、防戦一方となり始めている。
このままの状況が続けば恐らくは……

 だが、アスナが焦っているのはそれだけではない。
アスナはリョウととある約束をしているのだ。
それはある意味自身の意地を、そしてリョウとの友人関係も欠けた、絶対に破る事の出来ない絶対の約束。
キリトと二人で、約束し、必ず果たすと誓った。
それを破らないためには、なんとしても、この状況を打開しなければならない。

 故に、アスナは焦っていた。

────

『……俺の異名の由来でも聞いたか?』
『…………!!』
 その言葉を言われた時、アスナは完全に動揺にのまれてしまった。
リョウにごまかしや嘘が通じないのは分かっていたが、此処までとは!

『なるほど……つまりお前は俺を掃除係になって欲しい訳だ』
『え……?』
 納得したように言うリョウに、アスナは再び動揺する。一体何を?

『そんな大規模な対人戦に俺を誘うってことはそう言う事だろ?要はもしものときは俺に、殲滅戦の先頭に立って、オレンジ連中をぶっ殺せ!と』
『なっ……!何を言い出すの!?』
『だってそうだろ?俺にビビりながら、頑張って俺に依頼にすんのは、それが一番合理的だぜ?』
『違う!私は別にリョウに人殺しになれなんて!』
『ほぉ?それなら俺は行かなくてもいいんだな?』
『っ!そ、それは……』
 正直、リョウの異名はあの手のオレンジプレイヤーに対して特効薬にもなりうるものなのだ。

 《ジン》のその名を聞けば、大抵のオレンジプレイヤーは恐怖する。
だが、この様子だとその理由をどうやらリョウは嫌っているらしい。
まして、「戦力的にも期待できる」等と言う本音を言えば、間違いなくリョウは嫌悪感を抱くだろう。
それはアスナにとっても嫌だし、なおかつ友人だと思っている人物に、自分を殺人マシーンとして使った奴だなどと思われるのは耐えられない。

 そして、アスナはある提案をリョウにした。

『分かったわ。じゃあリョウは、顔を出すだけでいい。もしも作戦が崩れて戦闘になったら、後ろに下がって傍観していて構わない』
『ほぉ?』
『お、おいアスナそれは……』
『いいの、キリト君は黙ってて』
『は、はい……』
 後ろで何か言おうとしたキリトを黙らせ、アスナはリョウを真っ向から睨む。
リョウは面白そうにからかうような笑みを浮かべてソファーに座り込んでいた。

『わかった。その条件なら依頼を受けよう』
『ありがとう』
『ただし、俺が大丈夫だと思っている間だけだ。本当に危なくなったら、俺も参加する。見殺しは寝覚めが悪いしな』
『わかったわ、絶対にそんな事にはしない。』
『さて、どうかな?……ま、お前らの力次第だな……』
 やはりからかうような笑みを崩さないまま、リョウはそう言って部屋から出て行った。

────

 今ならよく分かる。
あの時リョウが言っていた「力」が、いわゆる精神的な強さだったのだと言う事が。
あの時それが分からず、当たり前のように単純なレベル差で作戦は成功、リョウとの約束も簡単に果たせると思っていた自分を殴り飛ばしてやりたい。

 そんな事を考えていたのがいけなかったのだろうか、アスナは目の前の金髪の巨剣使いに少々大きく踏み込まれてしまう。
あわてて、向かってきた突きを弾き、即座に反撃の突きを放つ。
だが、反射で動いたその攻撃は、相手がほとんどHPバーを散らした瀕死の状態であることを全く考慮していなかった。
慌てて細剣《レイピア》を相手当らぬように引き戻す。

 そして、隙が生まれてしまった。
モンスター相手なら。絶対に生まれなかったであろう絶対的な、隙が。

「あっ……!
 思わず漏れた短く細い悲鳴と共に細剣が跳ねあげられる。

 かろうじて武器を弾き飛ばされるのには耐えたが、片腕を上げた無防備な状態で、身体が硬直してしまった。

 顔に明らかな歓喜の色を浮かべたオレンジプレイヤーが、紫色のライトエフェクトと共に、巨剣を振り下ろしてくる。
避けられない。
あたる。

『あ、私、此処で……』
 死ぬんだと、そう思ったとたん、何となく、自分のこれまでの人生が頭の中でリピートされる。
自分が、十七年生きて来た記憶。しかし、何故だかSAOに来る前の十五年間は、まるでただ過ぎただけの日常だったかのように、何処か色がくすんだように印象が薄い。
それから一年半。
ひたすらに元の世界へと戻ろうと努力し続けて来た時間。苦しい物や辛い思い出がほとんどで、何時も悪夢を恐れながら生きて来た記憶。

 そんな記憶の中で、つい最近。ここ数カ月の記憶だけが、とても輝いてアスナには見えた。
リョウと出会い、そして何よりキリトと出会い。
何時しか、自分は今までの人生で一番「生きている」と感じられるようになっていた。

 これからも、もしかしたら続いたかも知れない日常。
それが今眼前にある死によって失われると思うと、無性に悔しくて悲しい。
今更ながらに後悔した。そして……


「おっおおオォォォォォォォ!!!!!!」
 黒い風が、アスナと敵の間に割り込んだ。
発動し、アスナの身体を切り裂く寸前だった凶刃を、その風は軽々と受け止め、はじき返し、そして……

 金髪のオレンジプレイヤーの首と胴体を分離させて、この浮遊城から……否、この世から、消滅させた。
 
────

バシャアァァン!という、プレイヤーが死亡した時特有の、神経を逆なでするような大音響のポリゴン破砕音が辺りに響いた瞬間、付近に居た敵味方両方のプレイヤーの眼が、一斉にキリト達の方へと向けられる。

 驚き、憐れみ、歓喜、感心等様々な感情を周囲が浮かべる中、一瞬、呆けたように口を開けた一人の両手槍使いのオレンジプレイヤーが、犬歯をむき出しにして一気にキリトとの間合いを詰めていく。
恐らくは、先程倒されたオレンジプレイヤーが彼の知り合いだったか何かしたのだろう。案外、キチガイぞろいのオレンジの中でもまともな感性を持っているのかもしれない。あくまで彼等の中で、だが。

しかし、今のキリトにそれは自殺行為であった。

「死ねぇ!!」
 怒りの形相のまま、槍使いは突進しながら赤いライトエフェクトを纏った両手槍をキリトの胸へと突き出す。

「……っ!」
 気が付くとほぼ同時にキリトは左足を軸にして身体を90度回転。これを回避。
当然、回避されたオレンジの方はソードスキルを虚空に打ち込むことになり、スキル硬直を科せられる。

 対しキリトは、右半身を引いた事で、右腕が後ろに下がり、左腕を前方に突き出すような形にして、肩に担ぐように右手で持った直剣の切っ先を相手へとちょうど弓矢を引き絞るのに近い姿勢で向けている。
その構えの中で、握られる直剣が紅蓮のライトエフェクト帯び……

「ラアァァァ!!!!!」
 ジェットエンジンめいた轟音と共に、オレンジの心臓の位置めがけて片手直剣 単発重攻撃 《ヴォ―パル・ストライク》が打ち出された。

────

 これは、この討伐作戦より、一年半位前の話だ。
そのころ、徐々に攻略が進み始め安定して来たSAO世界には既にオレンジプレイヤーが存在しており、当然、その集合体であるオレンジギルドの存在もあった。

 当時は、軍の治安維持活動も本格化しておらず、オレンジプレイヤーたちは原則として中堅及び始まりの街に居るレベルの低いプレイヤーを狙うものが主であったのだが、
その中で、特筆して特殊なやり方を持つオレンジギルドの存在がその年の二月中盤頃から目立ち始めた。


ギルド名 [義鉄]
 主な活動内容は、本人達が基本的に頑なに隠しているベータテスト参加者(以下ベータ)情報を掴んでは、HPを戦闘直後で減らしたその参加者を十人程度で囲み、武器をちらつかせ、戦闘によってHPをギリギリまで減らしてからの相手の持つ情報及びアイテムの“回収”

 そう。回収である。
強奪や奪取ではなく、回収と言う言葉を使っているあたり、彼らが自らのしている事に疑問を持っていなかった事が分かるだろう。
彼らは自分達のしていることが「正しい」と信じていたのである。

 自身が、ゲーム開始直後から持っていた情報を他のプレイヤーに分け与えずに独占し、その結果レアアイテムや更なる情報を得た《ビーター》と呼ばれる者たちを「悪」と定め。自らを「正義」と信じて、武力的な力を持って「悪」が奪った物を「取り返そう」としたのだ。

 当然、そのためにオレンジ行為に及ぶなど本来ならば許されることではない。
だが同時に、彼らの言い分はゲーム開始直後に始まりの街に取り残されかけた中堅プレイヤーや、その段階で仲間や友人を失った者達の、ある意味では共感を得ていた。

 多くの人間が表立って肯定はしないものの、心のどこかでは否定もしていない。そんな組織だったので、彼らは調子に乗ったとも言うべき勢いで襲撃を繰り返し、情報を掴まれたベータ参加者。特に攻略組に属するソロプレイヤーは自らの力で己の身を守るしかなかった

 だが、幾ら高いレベルとレアな装備を持ったベータとて、HPを減らしている時にレベル差が8~5程度しか無い連中(実はこのギルドの面々結構な高レベルとなっており、ベータにも肉薄するほどのレベルとなっていたのである)に十人で囲まれれば何時までも逃げおおせる訳は無いし、身を護りきる事も難しくなってくる。
ついに、一人が身ぐるみをはがされると言う被害が起きた時は、ベータ全員が恐怖と一種の恐れを抱いただろう。


 しかし、そんな彼らの活動は、その年の3月の終わりに突然終了する。
原因はベータでは無い攻略組ソロプレイヤーへの勘違いによる襲撃。

 といっても、別にそれをしたことで彼らへの非難が殺到したとか、そう言う政治家の様な理由ではない。

単純に、そのプレイヤーとの戦闘で、メンバーがほぼ全滅したのである。

 十人のメンバーは一人残して黒鉄宮の碑に有る名前に横線を刻まれ、ポリゴンの破片となってこの浮遊城及びこの世から消滅したのだ。
ちなみにこれがSAOこの史上で初めての「殺人」となっている

 その戦闘から、幸運にも一人だけ脱出できた戦槌使いのオレンジプレイヤーは、せめてもの仕返しなのか流した噂の発端としてこう言っている。

「あの男のは、人を殺す事に一片の躊躇も迷いも無かった。」

 そしてこうも言った。
まるで、ただ相手に向かって振るわれて何の感情も無く人を殺す刃物ような人間であったと。


 あまり知られていないが、後々この噂の対象である「あの男」はその後自分に襲撃をかけて来た少数のオレンジプレイヤーをまるで当たり前と言わんばかりに殆ど殺害している。(オレンジにそれだけ襲われるあたり、その男は相当狙われやすいらしい)

 それが唯の自己防衛なのか、それとも自身がオレンジにならないよう技と調節している計算高い殺人鬼なのか真実を知る物はさらに少ないが……

 噂自体は、オレンジ本人の口から語られたと言う事もあった事に加え、あまりに怪しい物だったので余り広まらず。現在、かなりのプレイヤーはその異名を彼の凄まじい実力から間違った意味で解釈している。

即ち
《神聖剣》と並ぶ男として

 しかし一部の……一部の真実を知る者達やオレンジプレイヤーからは、その“事実”故に彼はこう呼ばれる。


────

 重々しい金属音と共に、打ち出された《ヴォ―パル・ストライク》の切っ先が横から飛び出した刃の刀身に打ち止められる。
俺は、自分でも筋力値パラメータはレベルの高さもあってかなりの物であると自負している。。

 だが、打ちつけられた切っ先は、まるで鋼鉄の壁に打ち込んだかのようにいとも簡単に打ち止められ、衝撃によって弾き返された。

「がっ!」
 ノックバックにより大きくのけ反った俺は、体制を立て直す事も出来ずにそのまま地面に背中を叩きつけられる。
恐らく今のでHPバーが少し削れただろう。

 自身の身が守られた事を悟った槍使いは、安堵したような表情をした後、小馬鹿にするような嘲笑を浮かべて俺を見下ろす。
そして次の瞬間

──そいつの嘲笑った顔は上段蹴りによって粉々に吹き飛んだ。

「あーあ、結局一人殺らしちまったよ……兄貴失格だなこりゃ」
 聴きなれた響き、聴きなれた声。
何時も俺を何処か落ち着かせ、安心させてくれる声が、喧噪の中やけにはっきりと、何時も通りに響く。

 そう。「何時も通り」なのだ。
目の前で、頭を吹き飛ばされたオレンジプレイヤーが、激しいポリゴンの爆砕音と共に消えて行っているのに……自身の起こした「死」の音と現象が、目の前で起きているのに、その声はあまりにも「何時も通り」だった。

「兄……貴」
「リョウ……」
 俺とアスナの声がほぼ同時に響く。
不思議な色をした浴衣姿。手に持つ得物は青龍偃月刀。
“真実”を知る一部のオレンジにとって恐怖の象徴であり、レッドプレイヤーを除いて唯一、「殺し」をためらわない、刃のごとき最凶のプレイヤー

──《(ジン)》──と呼ばれるプレイヤーの姿が、そこにはあった。
 
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