SAO─戦士達の物語
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SAO編
二十一話 頼み事
その日、攻略を終えて、フィールドからその層の主街区に来た時、突然こんなメッセージが届いた
From Asuna
Mein 話があるからエギルさんの店まで来てくれない?
はて、突然何だ?
よく分からないがわざわざ場所を指定して来ると言う事はよほど大事な事か人に聞かれたくない事なのだろうが、エギルの店と言う事は少なくとも恋愛関係の話ではない。
第50階層主街区 《アルゲード》
一言、「猥雑」という言葉が似合うこの街には、始まりの街等のように巨大な施設等は無く、広大な面積一杯に無数の小店舗や宿舎等が立ち並び、それが細かい路地を無数に作って何処が何だとも知れぬような何とも怪しい雰囲気を漂わせている。
路地に一歩足を踏み入れたら出てこられなくなるのではないかと言うような空気に違わず、
その雰囲気は何処となく、現実世界で義弟を引きつれてちょくちょく出かけていたどこぞの電気街にも似ていて、あまりうるさい場所は得意ではない俺も、この街は嫌いでは無い。
そのせい、と言う訳でもないだろうが、実を言うと我が義弟、キリトは此処に自身のねぐらを構えている。あいつの部屋には何度か行った事もあるが……ま、散らかっているとだけ言っておこう。
さて、転移門から西に延びた目抜き通りを、数分進むと、目的の店が見えて来た。
ここは俺やキリトの友人であり、攻略組の仲間でもある商人兼斧使いのプレイヤー、エギルの経営する、まぁ所謂よろず屋である。
俺もちょくちょく、アイテムの売却で此処の店主には何時もお世話になっており、まぁ長い付き合いの友人だと言えよう。
店のドアを開けると、いかにもプレイヤーの経営するショップです!といった感じで統一感の無い混沌とした陳列棚が並び、奥には3人ほど人影がある。
カウンターの奥に立っているのは店主であるエギルだ。
肌は褐色で、純粋な日本人では無いと言う事が分かる。
180近いと思われる体躯は筋肉と脂肪にがっちりとと包まれ、顔は岩から削り出した様なごつごつとした感じの造作だ。その上髪型はスキンヘッドなもんだから、正直普通に現実の街に居たら結構怖いタイプの人間だと思う。
しかしこれが何故か、笑うと結構愛嬌がある、味な顔をしている。と言うのがキリトと俺の共通認識だ。まったく、現実では何をしていたんだか……
その脇に居るのは、白いコーブの制服に身を包んだアスナと、何故かいつも通り真っ黒な格好をしたキリトまでいた。
「よぉ、エギル、儲かってるか?」
「ここんとこはまぁまぁってとこだな。お客さんがお待ちかねだぞ?」
「の、ようだな」
そう言いつつキリトとアスナに向かって右手を上げる。
「うっすお二人さん。なんだ?話ってのは3人ですんのか?」
言うとキリトはまぁ、そうだなと言って肩をすくめる。隣に居るアスナは何故か少し緊張しているようだ……
「で?アスナよ、それは此処でしてもいい話なのかな?」
「え、あ、いえ、そうね……」
「答えがおぼついて無いぞー?どうした一体」
「いや、あの……なんでもないの、ほんと。」
「あー、エギル、2階借りるぞ?」
「おう、かまわん」
「…………」
少々疑問はあるが、俺はキリトとアスナに続いて店の2階へと上がった。
────
「オレンジ討伐の協力要請だぁ?」
「えぇ。それをお願いしたくて。」
目の前の椅子に座り、何時もの状態に戻ったアスナの出して来た依頼は、少々驚くべき内容だった。
とある犯罪者《オレンジ》ギルドの討伐依頼。
近々、攻略組のメンバーから大掛かりな討伐部隊を組んでとある大型オレンジギルドの討伐作戦が行われるので、それに参加してほしいと言うのだ。
……って
「一応聞くがな、討伐対象のギルド名を言ってもらおうか?」
つってもゲーム内最高ランクを誇る攻略組が部隊を組んでまで手を出さなきゃいけないギルドなんざ一つしかないのだが。
この質問に答えたのはアスナの隣で揺り椅子に座るキリトだった。
「笑う棺桶 《ラフィン・コフィン》」
「やっぱりか」
俺は息を吐きながら座っていたソファに深く腰掛ける。
犯罪者《オレンジ》……否
殺人者《レッド》ギルド 笑う棺桶 《ラフィン・コフィン》
通称《ラフコフ》とも呼ばれるこのギルドは、今年の初めから活動が始まり、今なおSAO中にその名を轟かせる、プレイヤー達の恐怖の対象とも言うべきギルドだ。
その主な活動内容は、PK《プレイヤーキル》即ち、[殺人]である。
非常に冷酷かつ頭の良い頭首《リーダー》に率いられ、次々と新手の殺人手段を考えだして既に三桁に上る犠牲者を出している、正に、最凶にして最悪のギルド。
流石の状況に、ついに攻略組も本気で動かざるを得なくなったと言う事か……そう思い少々ほぞを噛んでいると、目の前のアスナが真剣な面持ちで再び口を開いた。
「リョウ……危険を承知で言うわ。これはこのSAO内で、攻略の全権を任される立場である人間としての私からのお願いです。どうか、この攻略作戦に参加してほしいの、ラフコフは、もう無視できるような存在じゃない。だから……」
「ふむ……話は分かった。」
「じゃあ!」
アスナの顔が一気に明るくなる。
恐らく俺の性格から受けてくれると思ったのだろう。
確かに、いつもなら友人からの必死の頼みだ。面倒くさがりつつも結局協力するだろう。
しかし返事をするより前に、俺はアスナの眼前に右手を祇出して言葉をさえぎる。
「だがなアスナ──俺はおかしな態度した人間を簡単に信用するほど、お人好しじゃねぇぞ?」
「……っ!」
その言葉に、アスナの瞳が明らかに動揺した光を見せる。
「気が付かないと思ったのかどうか知らんが。俺にその手の隠し事は無駄だと以前言ったはずだ。特に動揺や恐怖はな」
以前言った事、俺は人の顔を見、その人の眼を見ると、その人間が今どういう感情を持って居るのかが、大体は分かる。
これが俺の異常に鋭い勘の延長なのか、それともまた違った特技なのかは考えた事も無いが、なんだかんだいって便利な物だ。喜びから、怒りも哀しみも相手が考えているある程度の事はすぐに分かるのだから。
そしてアスナは先程俺の顔を見たとき、瞳に動揺と、そして明らかな恐怖の光を浮かべたのだ。幾らなんでも、出会いがしらに自分に対して心からビビるような人間をそうそう信用する気にはならない。
まぁ、理由については今の話から大方予想が付くんだが……
「で?何で俺を怖がる?……俺の異名の由来でも聞いたか?」
「…………!!」
はい、ビンゴ。
まったく、隠し事のできん奴だ。
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