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髑髏天使

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第四話 改造その七


「だからしているんだな」
「そうよ。お兄ちゃんは体操はしないのね」
「そうだな。フェシングとテニスの二つで充分か」
 素振りをしながらだがここで考える顔になった。
「これ以上増やしてもな。身体にはつかない」
「確かにね。それはね」
「そしてフェシングとテニスもおろそかになる」
 彼はこのことも警戒しているのである。
「それだけはあってはならないからな」
「その通りね」
「そうすれば」
 ここで漏らしてしまった。
「死ぬことになる」
「それはオーバーよ」
 妹は今の兄の漏れ出た言葉には苦笑いになった。
「幾ら何でもね」
「オーバーか」
「そうじゃない。フェシングは確かに剣を使うけれど」
 髑髏天使のことは知る筈もないのでこう言うのだった。
「それでもよ。そこはまではないわよ」
「むう」
 ここで言葉を漏らしてしまったことに気付いた。一瞬しまった、といった感情を微かに顔に出したがそれはすぐに消して元の顔に戻してしまった。
「それもそうか」
「そうよ。けれど本当に真剣にやってるわね」
「やるからにはな」
 髑髏天使の顔を隠して妹とのやり取りを再開する。
「真剣にしないと何の意味もない」
「その通りね。あとさ」
「今度は何だ?」
「食べ物だけれど」
 アイスキャンデーをしゃぶりながらの言葉だった。キャンデーを前に置いて舌を出してその先を丹念にしゃぶっている。赤い小さな舌がちろちろと見える。
「今の量じゃ少ないんじゃないの?」
「少ないか」
「そうよ」
 ここでキャンデーを咥え込んだ。そのうえで上下に動かす。頬に当たりそこが膨らんでいる。
「もっと食べないと駄目だと思うわ」
「脂肪がつくのは嫌いだが」
「脂肪じゃなくて筋肉よ」
「筋肉か」
「といってもフェシングとテニスだからね」
 未久はこのことも考慮しつつ述べる。
「間違っても清原みたいな筋肉は駄目だけれどね」
「俺はあそこまで駄目ではない」
 清原についてははっきりと言い捨てた。
「あの筋肉は何の意味もない」
「少なくとも野球選手のそれじゃないわよね」
「当然フェシングでもテニスでもない。戦う筋肉ではない」
 牧村も言う。
「野球選手には野球選手の筋肉があるからな」
「じゃああれは何なのかしら」
「ボディービルか何かだな」
「野球の筋肉じゃ全然ないってことね」
「意味があると思うか」
 やはり素振りを続けているがその中で妹に問うてきた。
「それで」
「ないっていうかだから怪我ばかりなんじゃないの?」
 その辺りは彼女もよくわかっていた。だからこの話をするのだ。
「あんなのだから」
「そういうことだ。駄目だ」
 また言い捨てる牧村だった。
「あの男はな。駄目だ」
「やっぱりそうなのね」
「フェシングやテニス、そして」
 さらに言う。
「戦いには何の意味もない」
「弱いってことね」
「あの男の得意技は虚勢と弱い者いいじめと空元気だけだ」
「何か最低の男ね」
 未久も元々嫌いな相手だからかなり言う。
「そんなのには負けないでね、お兄ちゃん」
「安心しろ、あそこまでの人間はそうは会えない」
「そうなの」
「会うこともないから敗れることもない」
 彼が言うのはそういうことだった。
「決してな」
「それ聞いて安心したわ。とりあえずね」
「そうか。それでだ」
「今度は何?」
「アイスはまだあるか?」
 今度は横から舌を這わせしゃぶっているそのアイスを見つつ問う。未久はアイスキャンデーを好物としているのだ。とりわけ今しゃぶっているミルクをだ。
「まだ。あるのか」
「一応あるけれど」
 あまりはっきりしない返答だった。
「一応はね」
「そうか、あるのか」
「一本だけね」
 しかし返答はこうだった。
「あるけれど」
「一本!?」
 それを聞いてすぐに顔を顰めさせる牧村だった。 
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