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髑髏天使

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第二十七話 仙人その八


「頼むのだからな」
「おや、謙虚だね」
「そうだね」
 今の彼の言葉を聞いてここでも横から話した妖怪達だった。
「何か今の牧村さんは」
「結構」
「謙虚か。俺が」
「まあ前から傲慢じゃなかったけれど」
「無愛想なだけでね」
 この辺りは個性であった。
「別に何ともなかったからね」
「それでも謙虚ではなかったけれどね」
「別に意識して謙虚になるつもりはない」
 これもまたポリシーであるようだった。彼の中での。
「特にな」
「この無愛想さは健在だね」
「もうこれがかえって面白いよ」
 牧村のその無愛想さですら楽しんでいる妖怪達だった。この辺りは実に余裕があった。少なくとも精神的な余裕はかなりのものである。
 そうしてその余裕で。さらに楽しげに話すのであった。
「じゃあさ、牧村さん」
「その待っている間だけれど」
「何だ」
「これ食べない?」
「美味しいよ」
 言いながら彼にある者を出してきた。それは丸く硬い小さなものであった。
「これさ」
「どうかな」
「月餅か」
 一目でそれが何かわかった牧村だった。表の模様を見てもそれが月餅であるのは明らかだった。
「また美味いものを持って来たな」
「中華街からね。買って来たんだ」
「美味しいよ」
「中華街からか」
 彼等が今いる神戸には中華街もある。そこからだというのだ。
「あそこの食べ物はどれもいい」
「そうだよね。だからね」
「買って来たんだ」
 それでだというのである。
「だから食べて」
「美味しいよ」
「それではだ」
 その月餅を貰ってだ。早速口に入れる。
 一口食べた彼に対してすぐに妖怪達が尋ねてきた。
「美味しい?」
「それで」
「美味いな」
 一言で感想を述べた彼だった。
「確かにな」
「だよね、これはね」
「確かに美味しいよ」
 妖怪達も言いながら笑顔で食べていく。
「この味がいいんだよね」
「本当にね」
「お茶にも合うし」
 見れば烏龍茶を飲んでいる彼等だった。
「いや、中国のお菓子もいいね」
「中華街の料理も美味しかったし」
「それも食べてきたのだな」
「わしが紹介したのじゃよ」
 ここで博士が少しばかり誇らしげに言ってきた。
「わしがな」
「そうだったのか」
「美味いものは一人で食べるものではない」
 彼は言った。
「皆で食べてこそ本当に美味いのじゃよ」
「そうそう」
「その通りだよ」
 見れば妖怪達は皆で食べている。それぞれ研究室のあちこちに位置して月餅を食べている。その他の菓子も口にしていたりしている。
 そうしてであった。楽しんでいるのであった。
「それでこそ御馳走だからね」
「皆で食べてね」
「そうだな」
 その言葉に牧村も頷くのだった。
「一人で食べているとあまり美味いとは感じない」
「お店でもそうじゃない」
「人が多い時の方が美味しく感じるからね」
 妖怪達はまた牧村に言った。 
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