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髑髏天使

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第二十五話 魔竜その十五


「それではだ」
「貴様の魔物を出すのだな」
「如何にも」
 言いながらであった。その黒い目を赤く光らせた。牧村はその赤く光った目から彼女に対してあることを察したのであった。それは。
「人食いか」
「わかるのか」
「今貴様の目が赤く光った」
 彼はそこからわかったのである。
「それが何よりの証だ」
「安心するのだ。私は確かに人を食う」
 そのことは否定しなかった。
「しかしだ」
「しかし。何だ」
「私は人の命は奪わない」
 こうも言うのである。
「決してな」
「食っておきながら何故そう言える」
「私に食われた者は私の中で生きる」
 彼女は牧村に対して言葉を続ける。
「その世界でだ」
「キリムの中にはまた一つの世界があるのだ」
 ここで紳士が出て来て牧村に対して話してきた。
「また一つのな」
「腹の中にもう一つの世界がか」
「異なる世界につながっていると言うべきだな」
 そうだというのである。紳士は。
「それはだ」
「一つの世界にか」
「そういうことだ。我々魔神はそれだけの力を持っている」
 そしてそれはこの美女だけではないというのだ。彼等もまた同じであるというのである。
「それは覚えておくことだ」
「世界をその中に持つことができるのか」
「そういうことだ。わかったな」
 牧村を見つつの言葉であった。
「そうしたこともまた」
「わかったと言っておこう。まさに神だということか」
「そういうことだ。しかしだ」
 また美女が口を開いてきた。
「私は今中に一人もいない」
「いないというのか」
「誰もいはしない」
 再度牧村に告げてきた。
「あの時代の髑髏天使に封印されたその時に全て放たれてしまった」
「その腹の中からか」
「そうだ。だから今はいない」
 そういうことだというのだ。
「これでわかったな」
「確かにな。ではこれからまたその腹の中に人間達を収めていくのか」
「さてな」
 今の牧村の問いには今一つはっきりしない返答で返してきた。
「それはわからないがな」
「どういうことだ?」
「どうも。封印から解かれてみるとだ」
 口元が緩んでいた。明らかに微笑んでいる。
「どうも人を食うことに然程興味を感じなくなった」
「食わないというのか」
「今のこの時代はさらに楽しみがあるようだな」
「その通りだ。この時代は楽しみに満ちている」
 紳士がここで美女に話してきた。
「その最高のものが髑髏天使との闘いだが」
「そうならばだ」
 それを聞いて美女は。ふと指を鳴らした。すると彼女の影から一人の男が出て来たのであった。
「行くといい」
「有り難き御言葉」
 出て来たのは黒人の頭の禿げた男であった。ドス黒い目の光を放ってそのうえで牧村を見据えつつ彼女の言葉に応えたのだった。 
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