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髑髏天使

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第二十二話 主天その十三


「それもかなりな」
「鬼だったんだな、それじゃあ」
「ああ、鬼だった」
 そのことを隠さない牧村だった。
「少しでも道義にもとることをすれば凄まじいまでに怒った」
「今だにそんな人いるんだな」
「第二次世界大戦終わって相当経ってるのにな」
「で、今幾つなんだ?祖父さんって」
「もう相当な歳だろ」
 第二次世界大戦から六十四年だ。それは確かに相当な歳月である。その遥かな過去のことだから中には捏造をして祖国を貶める不貞の輩もいるが。
「最低でも八十を余裕で超えてるよな」
「幾つなんだ?それで」
「九十だ」
 もうそれだけなるというのだ。
「だが背筋はしっかりしていて歯も一本も抜けていない」
「鍛えてるからな」
「なんだろうな」
 どうしてこうなのかはすぐに察する彼等だった。
「やっぱり軍人だったからだな」
「今でも身体を鍛えてるんだよな」
「身体だけではない」
 そに留まらないというのである。
「心もな」
「すげえな、そりゃまた」
「パーフェクト爺ちゃんなんだな」
 皆そんな彼の祖父の話を聞いて賞賛の声をあげるばかりだった。
「けれどな。孫の教育は失敗したな」
「そうだよな」
「俺は失敗作か」
 そう言われてもこれといって表情を変えない牧村だった。彼等の言葉は最初からただの冗談だとわかりきってそのうえで話を聞いているのだった。
「そうだったのか」
「ったくよお、フェシングだぜ」
「それにテニスだよな」
「それが駄目なのか」
「剣道やれよ」
「やっぱりよ」 
 笑いながらこう告げる彼等なのだった。
「そんなリアルで爺ちゃんなんだからよ」
「だからだよ」
「剣道は向かない」
 だが牧村はここでこう答えるのだった。
「今の俺にはな」
「向かないのかよ」
「剣道もできそうなのにな」
「なあ」
「いや、向かない」
 彼はいぶかしむ友人達に対してまた告げた。
「剣道は刀を使うことを想定しているものだ」
「それはそうだけれどな」
「まあそれはな」
 これは誰も否定できるものではなかった。剣道は日本のものである。日本で使うものといえば日本刀である。ならだそれを使うことを想定して組まれているのは当然だった。
「だからだ。今の俺には合わない」
「それでフェシングかよ」
「それとテニスか」
「剣道や他のものが今の俺に合うのなら」
 牧村はまた述べてみせる。
「俺はそれを今していた」
「そういうことかよ」
「まあ何でそんなこと言うのかちょっとわからないけれどな」
 誰も彼が髑髏天使であることを知らない。だから何故彼が今の、という区切りをつけて剣道について語るのかわからなかったのだ。
「それでもよ。ちょっとは爺様みたいにな」
「立派な日本男子になるようにしろよ」
「あそこまではまずなれはしない」
 何気に自分の祖父への尊敬が見られる言葉だった。
「そう滅多にはな」
「そこは努力してだよ」
「何十年かしてりゃそうなれるだろ」
 これはまた随分とスケールの大きな話であった。時間もまた長いものだった。
「御前もよ。そんな凄い爺様いるんならな」
「目指すのもいいだろ」
「目指してなれないまでも」
 また言う牧村だった。 
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