髑髏天使
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第二十一話 人狼その十六
「だからだな」
「そういうことよ。わかったみたいね」
その巨大な目は笑ってはいない。だが声が笑っていた。
「私のことが」
「目が幾つもある」
死神は魔物のその巨大な目を見て告げた。
「そういうことだな」
「そうよ。私は蝿の魔物」
ただ聞くと何を今更の言葉だった。
「だから。目も多くあるのよ」
「複眼か」
それだと。彼は見抜いたのだった。
「それだな」
「そうよ。これは複眼よ」
魔物の方もそれだというのである。それは昆虫特有の無数にある目だ。昆虫はそこからそれぞれの目で多くのものを見るのである。
「それなのよ」
「それで見るか」
死神はあらためて魔物のことを知ったのだった。
「今ここに姿を現わしている全ての私を」
「その通りよ。よく見えるわ」
また言う魔物だった。
「全ての貴方がね」
「そうか」
それを聞いて納得した言葉を出す死神だった。
「それならばだ」
「さて。どうするのかしら」
「生憎だが何も思い浮かびはしない」
こう返すしかないといった態度だった。
「だが」
「だが?」
「貴様は必ず倒す」
このことだけは確かに告げるのだった。
「必ずな」
「どうやって倒すのかだけれど」
そう言われても平気な調子の魔物だった。
「どうするのかしら。個案が得も及ばないのに」
「今は及ばずともだ」
強気なのは変わらなかった。今も。
「倒し方はあるということだ」
「さて。それを見せてもらうわ」
今度は魔物の方から攻撃を仕掛ける。次々ととの前足を繰り出す。
「むっ」
「この攻撃はかわせるのね」
四本の前足を使ったその攻撃は次々にかわしてみせる死神だった。その身体を巧みに左右に動かし。そのうえでかわすのだった。
「これは」
「その程度はな」
かわせる、こう返すのだった。
「けれどかわせるだけでは話にはならないわよ」
「それはわかっている」
「さて、それで」
ここでまた蝿を出してきたナスだった。相も変わらず髑髏達と戦い続けている蝿達とは別にだ。出してみせてきたのである。
「これでどうなるかしら」
「また蝿を出してきたというのか」
「そうよ。私は幾らでも蝿を出せるのよ」
そうだというのだった。はっきりと。
「こうしてね。さて、これだとどうかしら」
「それで私を狙うというのか」
「私だけなら防げてもここに蝿達が加われば難しいわね」
それがわかっているからこそなのだった。今ここでまた蝿を出してきたのは。
「その通りね」
「そうだ。よし」
だがここで不意に。死神はよし、と言ったのだった。
「それならばだ」
「むっ!?」
「蝿で来たならばだ。こうさせてもらう」
言いながらだった。その両手に持ったままの大鎌を一閃させてみせた。それは本体だけでなく分身達も同じであった。鎌を振ったのである。
「これによってな」
「鎌を振ってどうするというのかしら」
「ただ振ったのではない」
そうではないとも答えたのだった。
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