髑髏天使
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第二十一話 人狼その十四
「そのうちに。貴方御自身が」
「俺自身がか」
「そうです。そのうちに」
魔物はまた言ってきた。言葉の深さはそのままに。
「ここで生き残られればです」
「では生き残ってみせる」
彼の言葉は断固たるものだった。
「俺の望み通りにな」
こう言葉を言い合いながら姿を消した魔物と対峙していた。そしてその頃死神もまた。ナスと激しく睨み合い対峙しているのだった。
「さて、貴様はどのようにしてだ」
死神はその両手の大鎌を構えたまま魔物に尋ねてきた。
「どの様にして私を腐らせるつもりだ」
「それはもう決まっているわ」
巨大な蝿の姿の魔物は楽しげな声で彼に応えてきた。
「それはね」
「そうか。では見せてもらおう」
間合いを少しばかり詰めてからまた魔物に言葉を返した。
「それをな」
「言われずともね」
言いながら己の周りに何かを出してきた。それは。
「むっ!?」
「さあ行きなさい」
それに対して告げるナスだった。
「私の言葉に従って」
「蝿か」
死神はそれを見て言うのだった。それは無数の蝿達だった。魔物の周りにその限りなく不浄なその姿を見せて飛び回っているのだった。
「蝿を出してきたか」
「蝿達は私の忠実な僕」
ナスは己と同じ姿をしているその蝿達を見て言うのだった。
「これが貴方の相手をしてあげるわ」
「蝿で私を倒すというのか」
「貴方も知っているのではなくて?」
魔物は楽しむ声でまた言ってきた。
「貴方なら。どうかしら」
「蝿は死者の魂」
死神は魔物の言葉に応えるようにして述べた。
「死者の。そういうことか」
「そうよ。この蝿達が貴方を貴方の世界に送り返してあげるわ」
こう楽しそうに言うのだった。
「永遠にね」
「死者を送る私を逆に送り返すというのか」
「そうよ」
また答える魔物だった。
「その通りよ。さあ、覚悟はいいかしら」
「覚悟はしていない」
だが死神は感情の見られない声でこう返すのだった。
「そんなものはする必要もない」
「蝿達を見てもそう言えるのね」
「そうだ。ならば私もだ」
そしてそのうえで魔物に言葉を返してみせた。
「それを見せるとしよう」
「死者の魂をね」
「その通りだ。見るのだ」
言いながら両手に持つ大鎌を一閃させた。すると。
今度は死神の周りに現われた。だがそれは蝿ではなく髑髏だった。無数の青白い炎に包まれた不気味な髑髏達が姿を現わしたのである。
「これが私の死者の魂だ」
「髑髏ね」
「髑髏が上か蝿が上か」
死神は魔物を見て言ってきた。
「それを比べるか」
「面白いわね」
そしてそれを受けて立つ魔物だった。
「それじゃあこちらもね」
「望むところということか」
「魔物は勝負は逃げないわ」
こうも言うのであった。
「決してね」
「ならば。いいな」
再びその大鎌を構えなおしての言葉だった。
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