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髑髏天使

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第二十一話 人狼その八


「今こうしたトレーニングとテニス、それにフェシングやってるじゃない」
「そうだ」
 このことはもう言うまでもないことのように牧村には思われた。しかしその内心で思ったことはここでは隠して若奈に応えるのだった。
「それがどうかしたのか」
「アフターケアにね」
 彼女が今度言うのはこのことについてであった。
「お風呂。上手く使ってみたらどうかしら」
「風呂か」
「やっぱりいつもシャワーよね」
 こう予想してみせてそのうえで尋ねてみせた。
「シャワーよね。普段は」
「そうだな」
 少し思い出してから答える牧村だった。最近のことを思い出してもそうだった。彼はどちらかといえばシャワーの方が多いのだ。
「シャワーだな、確かに」
「それよりもね。お風呂の方がいいのよ」
「身体の疲れを取るにはか」
「そういうこと。身体をあっためてね。それでね」
「疲れを取るか」
「どうかしら」
 ここまで話したうえでまた牧村に問うてきた若奈だった。
「それって」
「一度やってみるか」
 今度は考える時間もなく答える牧村だった。
「それもな」
「そう。やってみるの」
「いざという時に動けないのでは何にもならない」
 そうしたことまで考えている牧村だった。ただ鍛えるだけでは駄目だ、そうしたことまでわかっているからこそ今の若奈の言葉に応えるのだった。
「だからな」
「そうしてくれたらいいわ。さて」
「さて?」
 今度は何かと思った牧村だった。それで若奈の今の言葉に応えた。
「何だ。一体」
「そろそろ折り返し地点よ」
 若奈が言うのはこのことだった。
「折り返しよ。戻りましょう」
「そうか。折り返しか」
「そうよ。それで帰ったら」
「筋力トレーニングだ」
 このことを忘れない牧村だった。はっきりと覚えていた。
「それをするか」
「そうしましょう。整理体操の後でね」
「動かして整えてまた動かす」
 牧村はこうも言った。
「そういうことだな」
「そういうことよ。私だってね」
 自転車を全速力で漕ぎながら苦笑いを浮かべていた。
「そうしてるし」
「身体を整えているのか」
「今だって全速力よ」
 見ればその額に汗までかいている。自転車でそれなのだからかなり身体を動かしているのがわかる。言い換えればそれだけ牧村のランニングが速いということでもある。
「だからね」
「わかった。では帰ったらだ」
「私も整理体操ね」
 今度は苦笑いでない若奈の笑みだった。すっきりとした笑顔であった。
「一緒にね」
「そうなるな」
「たまには一緒にするのもいいわよね」
 こんなことも言う若奈だった。
「二人でね」
「そうだな。一人ですることが多いが」
 牧村はそうであった。彼がしているテニスもフェシングもそして戦いも。一人でするものである。だから彼は傍に若奈がついていてもするのは一人であり続けていたのである。 
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