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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第13話

あの魔術師の襲撃があってから三日がたち、上条とインデックスは洗面器を抱えて銭湯に向かっていた。
インデックスは背中に重傷と言えるほどの刀傷があったが、緊急避難に小萌先生の所に転がりこみ小萌先生の協力のおかげでインデックスの傷を何とか治療することが出来た。
小萌先生は上条とインデックスの関係や傷の事などは、一切聞かず二人を居候させてくれている。
傷を治した影響かインデックスは三日間は風邪をひいたような状態になったが、今ではすっかり治りようやく出歩けるようになったインデックスの願いが風呂だった。

「とうま、とうま。」

上条のシャツの二の腕甘く噛みつつインデックスはややくぐもった声で言う。
インデックスは噛み癖あり(なぜか上条にしかしてこない)服を引っ張ってこっちを向かせるぐらいのジェスチャーらしい。

「何だよ?」

上条は呆れたように答える。
インデックスは上条の名前を知らないと言われ今朝、自己紹介してかれこれ六万回ぐらい名前を呼ばれまくったからだ。
ちなみに、インデックスは料理を作ってくれ男の名前も知りたかったようなので、上条は麻生の名前を本人の了解なしで教えた。

「何でもない。
 用がないのに名前が呼べるって、なんかおもしろいかも。」

たったそれだけでインデックスはまるで、初めて遊園地に来た子供みたいな顔をする。
インデックスの懐き方は尋常ではないのだが、その原因は三日前のアレなんだろうと上条は嬉しいと思うより、今まであんな当たり前の言葉すらかけてもらえなかったインデックスの方に複雑な気持ちを抱いてしまう。
三日前、上条はインデックスの頭の中に抱えている物やその事情の全てはインデックスから教えてもらった。
インデックスの頭の中にある一〇万三〇〇〇冊がどれほど危険な物なのか、そしてそれがどれだけの力を秘めているのか上条はインデックスに説明してもらった。
いまいち実感が湧かなかったがインデックスは好き好んで一〇万三〇〇〇冊の魔道書を、頭に叩き込んだわけではない事は分かった。
ただ彼女は少しでも犠牲者を減らすために、ただそれだけの為に生きてきたというのに。
インデックスはごめん、と上条に謝ったがその一言で上条は本当にキレた。
なぜそんな大事な話を黙っていたのか、と上条はインデックスを睨みつけてたったそれだけのことだろ?、とその言葉を聞いてインデックスは両目を見開かれた。
自分の事情などを教えれば必ず嫌われると思っていたインデックスだが、上条はただインデックスの役に立ちたかったのだ。
たったそれだけの事だった。
そんなこんながあり現在に至る。
インデックスは日本の銭湯について独特の意見を述べる。

「ジャパニーズ・セントーにはコーヒー牛乳があるって、こもえが言ってた。
 コーヒー牛乳って何?カプチーノみたいなもの?」

「んなエレガントなモン銭湯にはねぇ。
 けどお前にゃデカい風呂は衝撃的かもな。 
 お前んトコ(イギリス)ってホテルにあるみたいな狭っ苦しいユニットバスがメジャーなんだろう?」

「私、気がついたら日本(こっち)にいたからね。
 向こうの事はちょっと分からないんだよ。」

上条はガキの頃から日本に居たら、そりゃあ日本語がぺらぺらに話せる訳だと答えるがインデックスはそうじゃない、と言う。

「私、生まれはロンドンで聖ジョージ大聖堂の中で育っきたらしいんだよ。
 どうも、こっちにきたのは一年ぐらいまえから、らしいんだね。」

らしい?、とその言葉に上条は眉をひそめる。

「うん、一年ぐらい前から、記憶がなくなっちゃってるからね。」

インデックスは笑っていた。
その笑顔が完璧だったからこそ上条はその裏にある焦りや辛さが見て取れた。
くそったれが、と上条は夜空を見上げて呟く。
インデックスがなぜ上条に懐くのか理由も分かってきた。
何もわからずに世界に放り投げだされて一年、ようやく会えた最初の「知り合い」がたまたま上条だっただけだ。
そんな答えが上条をひどくイライラさせる。

「むむ?とうま、なんか怒ってる?」

「怒ってねーよ。」

「なんか気に障ったなら謝るかも。
 とうま、なにキレてるの?思春期ちゃん?」

「その幼児体型(からだ)にだきゃ思春期とか聞かれたくねーよな、ホント。」

「む、何なのかなそれ。
 やっぱり怒っている様に見えるけど。
 それともあれなの、とうまは怒っているふりして私を困らせてる?とうまのそういう所嫌いかも。」

「あのな、元から好きでもねーくせにそんな台詞吐くなよな。
 いくら何でもお前にそこまでラブコメいた素敵なイベントなんぞ期待しちゃねーからさ。」

「・・・・・・・・とうま。」

名前を呼ばれたのでとりあえず返事をするがとてつもなく不幸な予感がした。

「だいっきらい。」

上条は女の子に頭のてっぺんを丸かじりされる、というレアな経験値を手に入れた。
かじり終えた後、インデックスはさっさと一人で銭湯に向かってしまい上条はトボトボと歩いて銭湯に向かっていた。
インデックスは上条を見ると野良猫みたいに走り去ってしまうのだがしばらく歩いていると上条を待っていたみたいにインデックスの背中が見える、そして走り去る、これの繰り返しだった。
目指す所は一緒だからいつか合流できると思い上条は追いかけるのを止めている。

「英国式シスター、ねえ。」

インデックスを「イギリス教会」に連れて行ったら彼女はそのままロンドンの本部に行ってしまいそれで上条との縁は切れてしまうだろう。
そう考えると何か胸にチクリと刺さるものがある上条だが教会に保護してもらわないとインデックスはいつまでも魔術師に追われ続ける事になる。
そもそもインデックスと上条は住んでいる世界、立っている場所、生きている次元、何もかも違う人間、科学と魔術、この二つは決して混ざり合うことはない。
そう上条が考えている時だった、ある異変に気付いた。
時刻は午後の八時でまだ人が眠る時間でもないのに上条の周りには人一人見かけずまるでひどい田舎の農道でも見ているかのようだった。

「ステイルが人払いの刻印(ルーン)を刻んでいるだけですよ。」

全く気が付かなかった。
隠れていたわけでもなく上条の一〇メートルくらい先の滑走路の車道の真ん中に女が立っていた。
暗がりで見えなかったとか気づかなかったとか、そんな次元はなく一瞬前までは誰も居なかったのだが瞬きした瞬間にはそこに立っていたのだ。

「この一帯にいる人に「何故かここには近づこうと思わない」とうに集中を逸らしているだけです。
 多くの人は建物の中ですのでご心配なさらず。」

上条は女の姿を見て無意識に右手に全身の血が集まっていき直感的に思ったのだ、コイツはヤバイと。
女はTシャツに片足だけ大胆に切ったジーンズという、まぁ普通の範囲の服装ではあったが腰から拳銃のようにぶら下げた長さ二メートル以上もの日本刀が凍る殺意を振り回していた。

「神浄の討魔、ですか・・・良い真名です。」

女は世間話をするかのように気楽に話しかけてくるが上条はその気楽さが恐怖を引き立てていた。

「テメェは・・・・」

「神裂火織、と申します。
 できれば、もう一つの名は語りたくないのですが。」

「もう一つ?」

「魔法名、ですよ。」

ある程度予想していたとはいえ上条は思わず一歩後ろに下がる。
魔法名、ステイルが魔術を使って上条を襲った時に名乗った「殺し名」だ。

「テメェもステイルと同じ魔術結社とかいう連中なんだな。」

禁書目録(インデックス)に聞いたのですね。
 率直に言って魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが。」

「嫌だ、と言ったら?」

目の前の敵に悪寒を覚えながらも上条には退く理由など、どこにもなかったから。

「仕方ありません、名乗ってから彼女を保護するまで。」

ドンと衝撃が地震のように足元を震わせ視界の隅で蒼い闇に覆われてたはずの夜空の向こうが夕焼けのようにオレンジ色に焼けていた。
どこか遠く何百メートルも先で巨大な炎が燃え上がっているのだ。

「イン、デックス!!!」

敵は「組織」で上条は炎の魔術師の名前を知っている。
上条は反射的に炎の塊が爆発した方角へ目を向けようとして瞬間、神裂火織の斬撃が襲いかかってきた。
上条と神裂の間は一〇メートルもの距離があり加えて、神裂の持つ刀は二メートル以上の長さがあり、女の細腕では振り回すおろか引き抜く事さえ不可能に見えた筈だったが次の瞬間には巨大なレーザーでも振り回したように上条の頭上スレスレの空気が引き裂かれた。
驚愕に凍る上条の斜め右後ろにある風力発電のプロペラがまるでバターでも切り裂くように音もなく斜めに切断される。

「やめてください、私から注意を逸らせば辿る道は絶命のみです。」

すでに神裂の二メートル以上ある刀を鞘に収めていてあまりに速すぎて上条には刀身が空気に触れた所さえ見る事が出来なかった。

「もう一度言います。
 魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが。」

「な、なにを、言ってやがる。
 テメェを相手に降参する理由なんざ・・・・・」

「何度でも問います。」

瞬、とほんの一瞬だけ何かのバグみたいに神裂の右手がブレて、消えると轟!という風の唸りと共に恐るべき速度で何かが襲いかかってきた。
地面(アスファルト)が、街灯が一定の間隔で並ぶ街路樹が水圧カッターに切断されるように切り裂かれ宙に舞った握り拳ほどもある地面の欠片が上条の右肩に当たり吹き飛ばされて気絶しそうになる。
上条は右肩を押えながら視線だけで辺りを見回すと地面には合計で七本の直線的な刀傷何十メートルに渡って走り去っていた。

「私は魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが。」

右手を刀の柄に触れたまま憎悪も怒りもなく神裂はただ「声」を出した。
あの一瞬で七回もの「居合い斬り」見せその気になれば七回とも上条の身体を両断できるが刀が鞘に収まる音は一度きりだった。
上条はあの七つの太刀筋は何らかの魔術という異能な力で生み出された太刀筋だと考える。

「私の七天七刀が織りなす「七閃」の斬撃速度は一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルです。」

上条は右手を強く握りしめる。
あの斬撃は「異能の力」が関わっているのならあの「太刀筋」に触れる事ができれば打ち消す事が出来る筈と上条は思った、だが神裂の言葉がその思考を遮る。

「絵空事を、ステイルからの報告は受けています。
 貴方の右手は何故か魔術を無力化(ディスペル)する。
 ですがそれは貴方が右手で触れない限り不可能ではありませんか?」

触れる事が出来なければ上条の右手は何の意味も持たない。
単なる速度だけの話ではない、御坂美琴の電撃の槍(ビリビリ)超電磁砲(レールガン)と違い神裂の変幻自在の七閃の狙いを先読みする事も出来ない。

「幾らでも問います。」

神裂の右手が静かに七天七刀の柄に触れる。
距離はおおよそ一〇メートル、街路樹などを輪切りにする破壊力のある七閃に何かの物陰に隠れるといった行動は自殺行為にしかならない。
この距離なら筋肉が引き千切る勢いで駆ければ四歩で相手の懐へ飛び込める距離。
動け、と上条は先ほどから動かない両足に必死に命令を送る。

「魔法名を名乗る前に、彼女を保護させてもらえませんか?」

地面に張り付いた両足を無理矢理引き剥がすように一歩前に踏み込んだ。

「おおっ・・・ぁああああああああ!!!!!」

さらに一歩、後ろへ逃げるにも左右に避ける事も何かを盾にする事も出来なければ、残るのは一つ、前へ進んで道を切り拓く他に方法がない。

「何が貴方をそこまで駆り立てるのかは分かりませんが。」

神裂は呆れるより哀れみの色が混じるため息を吐きだす。
七閃。
辺りには砕かれた地面(アスファルト)や街路樹の細かい破片が砂埃のように漂うよ轟!!、という風の唸りと共に砂埃が上条の眼前で八つに切断された。
上条は右手で消せると頭で分かっていてもとっさに回避を選んでしまう。
頭を振り回すような勢いで身を屈め、頭上を通り過ぎる七つの太刀筋に心臓が凍える。
避けれたのはたまたま運が良かっただけだがさらに一歩踏み出していく。
七閃がどれだけ得体のしれない攻撃だったとしてもその基本は「居合斬り」で一撃必殺の斬撃を繰り出す古式剣術、逆に言えば刀身が鞘から抜けている間は居合斬りを使えない無防備な「死に体」という事だ。
懐に飛び込めば勝てる、そう思った上条の最後の余裕はチン、と鞘に収めた刀が立てるほんの小さな金属音によって木っ端微塵に撃ち砕かれた。
七閃。
轟!!と上条の目の前でゼロ距離と呼べるほど間近で繰り出される。
身体の反射神経がとっさに避けようとする前に七つの太刀筋が上条の目の前に七つの太刀筋が目に迫る。

「ち、くしょ・・ぁああああああああ!!!!!」

叫びと共に右手を太刀筋に向かって右手の拳を突き出す。
ゼロ距離という事もあってか七つの太刀筋はバラけず一つの束ねて上条へと襲いかかるがこれなら立った一度の幻想殺し《イマジンブレイカー》で七つ全てを吹き飛ばす事も出来る。
だが月明かりに青く光る太刀筋が、上条の拳を作る指の皮膚に優しく触れてそのままめり込んできた。

「なっ!?」

上条はとっさに手を引こうとするが間に合わず、次の瞬間には辺り一面に肉を引き裂く水っぽい音が鳴り響いた。
上条は血まみれの右手を左手で押さえつけ、その場で膝を折って屈んでいた。

「なんて、こった・・・・そもそも魔術師じゃなかったのか、アンタ。」

七閃の正体は異能の力ではなく七本の鋼糸(ワイヤー)だった。
なによりあの馬鹿長い刀はただの飾りで刀を抜いた瞬間も見える訳がなかった、わずかに鞘の中で刀を動かして、再び戻す。
その仕草で、七本の鋼糸を操る手を隠していたのだ。

「言った筈です、ステイルから話は聞いていた、と。
 これで分かったでしょう、力の量ではなく質が違います。
 ジャンケンと同じです、貴方が一〇〇年グーを出し続けた所で、私のパーには一〇〇〇年経っても勝てません。
 それに何か勘違いしているようですが、私は何も自分の実力を安い七閃(トリック)でごまかしている訳ではありません。
 七天七刀は飾りではありませんよ、七閃をくぐり抜けた先には真説の「唯閃」待っています。
 何より私はまだ魔法名を名乗ってすらいません。
 名乗らせないでください、少年。
 私は、もう二度とアレを名乗りたくない。」

神裂は唇を噛んで言う。
それでも上条は拳を握る、血まみれで感覚もない右手を握りしめる。
神裂はステイルと明らかに違う、基本の基本、つまり作り方が全く違う人間なのだ。

「降参、できるか。」

インデックスを思い出す。
彼女は神裂に背中を斬られても上条を助ける為に降参しなかった。

「何ですか?・・・聞こえなかったのですが。」

「うるせぇっつたんだよ、このロボット野郎!!!!」

血まみれの拳で神裂の顔面を殴り飛ばそうとするが神裂のブーツの爪先が上条の水月(みぞおち)に突き刺さり顔の横を七天七刀の黒鞘で殴り飛ばされ地面に叩きつけられる。
痛みと呻き声をあげる前に上条は自分の頭を踏み潰そうとするブーツの底を見て横に転がって避けようと転がった所で。

「七閃。」

声と同時に七つの斬撃が周りの地面(アスファルト)を粉々に砕き、四方八方からの爆発で細かい破片が吹き飛び上条の全身に豪雨のようにぶち当たる。
まるで五、六人にリンチされたような激痛が走り、さらに・・・・

「七閃。」

先ほどとは違い七つの鋼糸は上条に向かって襲いかかる。
今の上条に七つの斬撃を避ける事は出来ない。
まずい!!、と思った時だった。

「弦結界、揺り篭。」

その声と同時に迫ってきていた七つの斬撃が何かにぶつかりそのまま神裂の元に戻る。
上条の前には彼を守るかのように糸が張り巡らされていた。
すると上条の後ろから足音が聞こえたので振り返るとそこには左手に糸の束を持った麻生恭介が歩きながらこちらに向かっていた。 
 

 
後書き
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