髑髏天使
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第二十話 人怪その十一
「豆腐にしろな」
「豆腐の菓子もいいのう」
博士はそちらにも理解を示すのだった。
「大豆はよい。あっさりしていて何でも使える」
「その通りだ」
牧村はここでも彼に頷く。
「何をしても駄目だという食べ物はない。子供達が食べるのが嫌いなら別の料理を出してみてそれで食べさせてみるのもいいことだ」
「ホウレン草のジュースもいいよね」
「ヘルシーヘルシー」
「缶詰は見たことなかったけれど」
妖怪達は今度はホウレン草について話していく。
「あれってポパイだけなのかな」
「僕あれ見てホウレン草食べはじめたけれど」
「僕も」
意外とミーハーでかつホウレン草を食べはじめたのも早い妖怪達である。
「缶詰はなかったんだね」
「あれ食べたらあんなに強くなれるって思ったけれど」
「胡瓜は元から好きだったけれどね」
これは河童の言葉である。
「あんな美味しいのが嫌いな人ってやっぱりいるのかな」
「いる」
その河童の問いにはっきりと答える牧村だった。
「好き嫌いは色々だ。そして誰にでもあるものだ」
「わからないなあ。それが」
河童にとってはどうしても、というものだった。
「あんなに美味しいものなのにね」
「河童君はあと西瓜好きだよね」
「それに茄子も」
「うん、好きだよ」
仲間の妖怪達の問いににこにこと笑って答える河童であった。
「全体的にね。あっさりとしたお野菜が好きだよ」
「じゃあトマトなんかも?」
「そっちも好きなのかな」
「プチトマトもいいね」
やはりであった。そうした水っぽいものが好きだというのもよくわかることだった。やはりそれは彼が他ならぬ河童だからであった。
「折角だから皆で食べればいいんだよ」
「けれど人参のケーキも食べるんだね、そっちも」
「お酒も」
「好き嫌いはないから」
こうも答える河童であった。
「基本的にね。お肉はあまり食べないかもだけれど」
「お魚は好きだよね、それでも」
「それも川魚が」
この辺りは流石に河童だと思わせるものがある。そんな話をしながら皆で牧村の作った人参のケーキを楽しむ。それが終わるとそのままそれぞれの遊びに入るのだった。
牧村は遊びに入らずそのまま大学の講義に戻った。その後はいつも通りトレーニングを行った。そしてそのトレーニングのメニューを全てこなしシャワーを浴びてサイドカーの前に来たところで。彼の目の前に一人の男が静かに立っていた。
「貴様か」
「そうだ。私だ」
紳士であった。いつものタキシード姿でそこに立っているのだった。
「暫くぶりだな」
「この前の闘いのことでか」
「そうだ。それもある」
「それも?」
牧村は紳士のその言葉に反応を見せた。
「それもとはどういうことだ?」
「一つ話がしたい」
紳士の言葉はここでその調子を変えてきた。
「それでいいか」
「話をしたいというのか」
牧村は紳士がこう言ってきたので目の光も変えてみせた。それまでの警戒するものを全面に出したものではなくしてきたのである。
「俺とか」
「ワインの美味い店を見つけた」
紳士はこうも言ってきた。
「それでいいか」
「悪いが酒は飲まない」
牧村はそれは断ったのだった。
「酒はな」
「そうか。不調法か」
「体質がそうなっている」
このことは隠さなかった。別に言ったところでどうこうなるものではない、魔物に対して酒が飲めないことがわかってもどうということはないのだから。
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