髑髏天使
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第二十話 人怪その六
「はい、どうぞ」
「悪いな」
「いいのよ。さあ飲んで」
ここでも一億ドルの微笑が溢れ出ていた。
「コーヒーをね」
「ここのコーヒーはいい豆を使っているな」
「そうそう、豆を選ぶのも重要なんだよ」
マスターは豆の話もはじめるのだった。
「豆もね。それにもこだわっているから」
「それで美味いのか」
「コーヒーだけじゃなくて紅茶もそうよ」
今度は若奈も言ってきたのだった。
「そういうのも見てね」
「安心してくれ。見ている」
牧村もこう答える。
「舌でな」
こんな話をしながらこの時はコーヒーを楽しんでいた。そして次の日もコーヒーを飲んでいた。しかし今度は喫茶店ではなく博士の研究室であった。そこでいつものように壁に背をもたれさせかけて立ってそのうえでコーヒーを飲んでいるのであった。
「どうでしょうか」
その彼にろく子の首が伸びてきた。そうしてそのうえで彼に尋ねてきた。
「今日のコーヒーは」
「インスタントだな」
「はい、そうです」
にこりと笑ってこう答えるろく子だった。
「丁度豆を切らしていまして」
「そうか」
「インスタントコーヒーはお嫌いですか?」
「いや、好きだ」
こうろく子に答える牧村であった。
「インスタントコーヒーもな」
「あれっ、そうなんですか」
ろく子は彼のその言葉を聞いて意外といったような顔になるのであった。
「インスタントもお好きなんですか」
「そんなに不思議か?」
「ええ。だっていつもいいお豆のコーヒーにいいって仰いますから」
だからそう思っていたというのである。
「けれどインスタントも飲まれるんですね」
「ラーメンと同じだ」
牧村はそれをラーメンに例えてきた。
「ラーメンとな」
「ラーメンとですか?」
「普通のラーメンもあればインスタントラーメンもある」
牧村は話にその両方を出してみせてきた。
「しかしどちらも好きな者は多いな」
「あっ、僕達も確かに」
「その通りだよ」
ここで妖怪達も言ってきた。やはり彼等も部屋に集まっていた。そうしていつもと同じくそこいらに座ってめいめいお菓子を食べたり雑誌を読んだりしている。
「インスタントラーメンって美味しいよね」
「お店で食べるのもいいけれどね」
「そういうことだ」
牧村は彼等の言葉を受けてまたろく子に告げた。
「それはコーヒーにも言えることだ」
「コーヒーもですか」
「豆を使ったものは確かにいいがインスタントもいい」
言葉を続ける。
「どちらもな」
「そうなんですか。成程」
「インスタントラーメンは好きだな」
「はい」
ろく子はインスタントラーメンに関する問いにはにこりと笑って答えた。
「特に塩ラーメンが」
「そうか。それが好きなのか」
「あれが一番いいのではないかと思います」
ろく子の舌が饒舌なものになってきていた。どうやら本当にインスタントラーメンが好きなようである。そういったことを窺わせる今の言葉であった。
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