髑髏天使
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第二十話 人怪その四
「何度も何度も。特にお父さん」
「私は真実を言っているだけだぞ」
「主観は真実って言わないの」
若奈も言い返す。
「そんなふうにはね。言わないわよ」
「いや、主観じゃなくて事実だ」
事実が親馬鹿という言葉のかわりに入っているがやはりそうしたことは一切見ようとはしないマスターなのであった。
「それはな」
「全く。それでお父さん」
顔を真っ赤にさせながらもマスターに対して声をかける。
「お店を本当に牧村君に」
「結婚式は大学卒業と同時にだな」
勝手にそんなことまで決めてしまっていた。
「君の御両親ともお話してな」
「あの、お父さん」
若奈は何処までも強引な自分の父にあえて言わざるを得なかった。
「何勝手に決めてるのよ」
「こういうことは早いうちに決めた方がいい」
やはり勝手に進める彼であった。
「勿論母さんとも話はするがな」
「それで結婚って?」
「嫌なのか?」
今更ながらの娘に対する問いであった。
「それは。嫌なのか?」
「嫌なのかって言われたら」
「別にそうじゃないだろう?」
意識してかしていないのか若奈にとっては非常に困る問いではあった。
「だったらいいな。結婚だ」
「私何も言っていないけれど」
「何も言っていないのなら決まりだな」
やはり何処までも強引であった。若奈の話は全く聞いてはいない。
「よし、では牧村君」
「俺も何も言っていないが」
「異論はないということだな」
顔を崩して笑ってここでも強引にそういうことにしてしまった。何処までも話をそうやって決めてしまう、何時になく強引な話の進め方である。
「よかったな、牧村君」
「よかったのか」
「就職先と結婚相手が同時に決まったんだぞ」
満面の笑みで彼に告げる。
「これが目出度くなくて何と言うのだ」
「一生が決まったからか」
「その通り。君の人生の薔薇色というのも決まった」
そこまで決まったと言い切るのであった。
「善き哉善き哉」
「そうだといいな」
だがここで。牧村は言うのであった。
「その間に何もなければな」
「何も?」
「何時倒れるかわからない」
彼はまた言った。
「大学卒業までにしてもまだまだ時間がある。それまで何もなければいいがな」
「そうよね、確かにね」
若奈は今の彼の言葉に便乗することにした。そうしてそのうえで言うのであった。出す言葉はかなり必死なものでさえった。意識しないうちにだ。
「やっぱり。そういうのはね、ちゃんとしないと」
「ちゃんとか」
「私だって大学卒業までどうなるかわからないわよ」
あえて悪いことを言って父の強引な決定を押し戻しにかかった。
「それで大学卒業したらすぐってどうなのよ。早過ぎるじゃない」
「考えてみればそうか」
「そうよ。幾ら何でもね」
またこう言うのであった。
「早過ぎるわよ、絶対にね」
「そうだったな。確かに」
それまで暴走機関車の如く突っ走っていた彼もここでようやく立ち止まったのであった。腕を組んでそのうえで考える顔になって言うのだった。
「早過ぎるな、まだ時間がある」
「その間に俺が死ねば」
牧村はまた随分と率直に言った。
「どうなるかだがな」
「何があっても死なないで欲しいけれどね」
若奈は牧村にはこう告げはした。
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