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髑髏天使

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第十九話 人狼その十七


「別にな」
「ではどうしてここにいる?」
「通り掛かっただけだ」
 彼はただこのように言うだけだった。
「それだけだ」
「そういうわけでもないようだな」
 しかし牧村はその彼に対して告げた。
「どうやらな」
「何が言いたい?」
「仕事をしていたのではないのか」
 そしてこう彼に問うのであった。
「貴様の仕事をな」
「わかるようだな」
「貴様は何の目的もなしに動くようなことはしない」
 彼はわかっているのだった。死神のことが。
「そうだな。違うか」
「それはその通りだ」
 死神も遂にそれを認めてきた。
「私は仕事でここを通ったのだ」
「やはりそうか」
「とはいっても魔物に関する仕事ではない」
 それではないというのだった。
「本来の仕事だ」
「死者を送り届けるのだ」
「そうだ。見ろ」
 こう言ってすっと右手を前に動かした。すると彼の後ろに髪の毛が一本もなく小柄で背の曲がった老人がいた。貧弱な身体をしており顔は無気力そのものであった。全体的に虚ろか顔をしたその老人が彼の後ろにぼうっと立っているのであった。まるで棒切れのように。
「この魂を地獄に連れて行く」
「地獄にか?」
「そうだ、地獄にだ」
 こう言うのである。
「今から地獄に連れて行くのだ」
「地獄に行くような人間には見えないがな」
 牧村はその老人を見て言った。邪悪なものは何も感じなかったからだ。
「かといっても何かいいことをするようには見えないが」
「この男は生きている時に人を散々に裏切ってきた」
「裏切ってきた?」
「そうだ。自分が何をしたのか全く自覚することなく破廉恥な行動を繰り返してきた」
 死神はその老人を見て言うのだった。
「挙句に誰からも見放されそのうえでこうして死んだ」
「死んだのか」
「親族にも見放され何かをすることを許されずそのうえで無為に死んだのだ」
「まさかと思うが」
 牧村はその話を聞いてこの老人が誰なのかわかった。
「博士の言っていたその愚か者のことか」
「どの愚か者かは知らないがこの男は生前愚かだった」
 死神は老人を見ながらまた述べた。
「ことの善悪もつかず思慮分別も全くなかったのだからな」
「やはりな」
 これで牧村もこの老人が誰か確信したのであった。
「その年寄りか。博士が言っていたのは」
「ではな」
 ここまで話してそのうえで去る死神だった。
「今は貴様とは特に話すこともない。それではだ」
「そうだな。ではまたな」
「また来る」
 これは自分自身への言葉ではなかった。
「またな」
「そうか。また来るか」
「しかも間も無くだ」
 彼はこうも言い加えた。
「それはわかっておくことだな」
「わかった。それではな」
 牧村もまたその言葉に頷いてみせた。
「その時に備えておこう」
「そうしておくことだ。それではな」
「その老人を地獄に送るのだな」
「そうだ。だがな」
 ここで死神の言葉の調子が変わった。色が変わった感じだった。 
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