DQ3 そして現実へ…~もう一人の転生者(別視点)
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誘惑という果実は流血を好む
前書き
別視点も、二次ファンでは掲載していない範囲へと突入です。
私は正解ルートを伝えられぬまま、宝箱の誘惑に耐え洞窟を奥へと進んで行く。
そして目的のラーの鏡が置いてある地下3階にやって来た…
青く美しい地底湖が大きく蔓延るフロア…あの地底湖に缶ビールを2.30分浸しておけば、最高に美味い状態になるだろうと思える水の冷たさ。
間違っても、ここで水泳教室は開いてほしくないですね!
「あれ、ラーの鏡だろ…どうやって取るの?」
そんな美味ビール製造湖の遙か沖を指差し、お父様が誰かに尋ねました。
持ってる知識をベラベラ喋りたいけども、『何でそんな事知ってんの?』って聞かれちゃったら答えられなくなっちゃうので、上手く皆さんを誘導しなければならないのがめんどいです!
「…確か、以前ラーの鏡を入手した時は…」
私がどうやって伝えるか悩んでいると、お父様が考えながら喋り出す。
「よしティミー!僕が元の世界でラーの鏡を手に入れた時は、ラーの鏡まで見えない床が通っていたんだ!だから、ここもきっとあると思う…さぁ、行け!」
暖かな春の陽気にそよぐ風の様な爽やかさで、お兄様の肩を叩き地底湖の沖の島を指差すお父様…
「イヤですよ!もし床が無かったらどうするんですか!この水温じゃ、15秒で身体が動かなくなりますよ!溺れるじゃないですか!」
「お前勇者だろ!勇気出せよ!」
いや…勇者とか関係ないし…
「こんな時だけ…父さんこそ1度は手に入れた事があるんですから、2度目にトライして下さいよ!」
「ヤダよ…濡れたくないもん!だからお前に押し付けるんだろ!」
言い切った!言い切りましたわよ、この人!
「相変わらず我が儘だなぁ!」
「ありがとう」
何でお礼を言うのよ!
「褒めてませんよ!」
あぁ…何だかほのぼのするやり取りねぇ…
「よし、じゃぁこうしよう!僕がお前を勢い良く島まで投げるから、ラーの鏡を取って来いよ!」
「帰りはどうするんですか!?」
「うん。ラーの鏡を投げろ…絶対キャッチするから!父さんを信じろよ!」
信じる、信じないじゃないし…
「じゃなくて…僕はどうやって戻ればいいのですか!?」
「あ……あぁ……そうね……どうしよっか?……戻りたい?…誰かに投げてもらえば!」
どうやら本気でそこまで考えて無かったみたい…ちょ~うける!
「誰に…僕一人で島まで行くのに、誰に投げてもらえばいいのですか!?」
「……………」
「……………」
ん!?………あらあら、もしかして私の出番かしらぁ?
ふふふ…私が居ないとダメなんだからぁ~♥
「お父様…あの島の天井を見て下さい!…穴が空いてますわ。あそこから下りる事は出来ませんか?」
私が島の上を指差し、穴の存在を指摘する。
「おぉ…本当だぁ…あそこら辺って…確かこの上のフロアに、落とし穴が空いてたよな…あそこから下りれば良いのか!!」
「流石マリーは賢いなぁ!」
寒中水泳や置いてきぼりを回避できたお兄様が、私の事を抱き上げて頬擦りしてきた。
やめろシスコンが!
ウチには愛するダーリンが居るんだっちゃ!
そんな感じで辟易していたら、ウルフちゃんが私の事をお兄様から奪い取ってくれました。
やばい…濡れてきた!
さて…俗に言う『二度手間』です。
何もせぬまま元来た道を戻る…
しかも厄介な事に、モンスターご一行様が前後から襲いかかって来ました。
お父様とお母様が居る前方に『ガイコツ剣士』が団体で…
お兄様とアルル様が控える後方には『キラーアーマー』・『ガメゴン』・『ベホマスライム』が連携して…
ぶっちゃけ敵ではありませんですことよ!
お父様はドラゴンの杖を一降りで、ガイコツ剣士を3体纏めて倒す荒技を…バラバラに砕けたガイコツ剣士がまだ生きてた場合は、お母様がメラでトドメを刺してます。
むしろ問題は後方のお兄様とアルル様です。
一瞬でトドメを刺さないから、ベホマスライムがモンスターを全快させてしまい、何時まで経っても戦闘が終わらないの…
まぁ…中央に居る私とウルフちゃんは平和で良いですけどね。
けどウルフちゃんは剣を抜き、何時でも戦闘できる状態にしてありますわ。
大丈夫なのに…ここ、そんなに強いモンスター居ないから。
さてさて、そろそろ戦闘も終わりそうな頃、私は足下の宝箱に意識を集中させています。
こんな通路の真ん中に、1個だけ宝箱が置いてある状況…
点在する宝箱の後を辿っていくと、ミミック入り宝箱フィーバーになるダンジョンなのがここだと記憶しております。
つーことは、こんな所にポツンと置いてある宝箱は、安全極まりない訳で、折角置いてあるのに開けないのは失礼な気がするので、私が代表して開けるべきなのかもしれない訳で……………
うん。開けよう!
「ぬいぐるみ」が入ってたら、ちょっと嬉しいなと思う反面、どうせゴールドなんだろうなと、諦めの入っている私がココに居る。
戦闘開始してからずっと私はこの場に居るのだが、足下の宝箱は独りでに動く気配はまるでない。
ミミックでない事を確信している私は、宝箱を力一杯開け放つ!
すると、鈍い光を放つ牙を携えたミミックが、突如私に襲いかかってきた!
完全に無警戒だった私には、とても避ける事は出来そうになく、事態を理解する事も叫び助けを呼ぶ事も出来ずミミックの餌食になろうとしている…
「マリー!!」
(ザシュ!)
私の体に衝撃が走り、私の顔に鮮血が吹きかかる…
だが私がミミックの鋭い牙を身に受けたワケではない…
瞬時に気付いたウルフちゃんが、私の事を力任せに突き飛ばし、私の代わりにミミックの牙をその身に受けたのだ。
「きゃー!!ウルフ様ー!!」
私は悲鳴を上げるしか出来なかった…
ミミックはウルフちゃんから離れ、彼の血を全身に浴び、嬉しそうに跳ね回っている…
私の悲鳴に気付いたお父様が、慌てて近寄りミミックを一撃で粉砕する。
そしてお父様はウルフちゃんを抱き上げて、ベホマで傷を治療する。
傷は完全に癒え、命を失う事は回避された…
その間、私は動けないでいた…
全てが一瞬の事で、理解できないでいた…
ただお父様の腕の中で一命を取り留めたウルフちゃんを見て、初めて涙が溢れてきたのだ。
「ごめんなさいウルフ様…私が…」
私はウルフちゃんに近寄り、ただ涙を流す事しか出来なかった。
そんな私にウルフちゃんは、弱々しく震える手で涙を拭って、そして弱々しく微笑むのだ。
(パンッ!)
だけど私はお父様にぶたれた!
生まれて初めてお父様にぶたれた!
「マリー!!お父さんは宝箱を開けるなと注意したんだぞ!」
しかも声を荒げて叱られたのだ…
「お父さんはね、いい加減に見えても冒険者としては経験を積んできてるんだ!そのお父さんが宝箱は危険だと言ったら、お前はそれを信じないと………お前は、この洞窟内で何が危険かを分かっているつもりなのだろうが、それは違うぞ!一番危険なのは慢心する事だ!『自分は賢いから大丈夫』『自分は守られてるから平気』…そう慢心する事こそがダンジョン内では危険なんだ!」
お父様の言葉が私の心に突き刺さる…
私はココがゲームの世界だと勘違いしていたのかもしれない…
確かにゲームが元となった世界ではあるが、今の私にとってはココは現実なのだ…
その事に最近は理解してきたのに…サマンオサの惨状を目の当たりにして、ゲームとは違う事を分かってきていたのに…
私は何一つ学んで無かった!
お父様はその事に気付いていたのかもしれない…
だから私がダンジョンに入る事を、あんなにも頑なに拒み続けたのかもしれない…
私の涙は止まらない。
全てが悲しくて、全てが辛くて…
ただ泣く事しか出来ないでいる。
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