髑髏天使
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第十六話 青年その十五
「苺とバニラがあるけれど苺食べて」
「何で苺なんだ、俺は」
「それはもう苺しかないからよ」
にこにこと笑って兄に話すのだった。
「今さっき食べたから、私が」
「だから苺しかないのか」
「美味しかったよ」
ここでまたにこにこと話す若奈だった。
「バニラ。だからお兄ちゃんも食べなよ」
「バニラが好きなんだがな、俺は」
妹の調子のいい言葉に対してむっとしたような声で返した。
「苺は。少しな」
「嫌いだったっけ」
「いや、嫌いじゃない」
実はそうなのだった。
「別にな。苺の甘さも好きだしな」
「そうそう、それ私もわかってたから」
若奈はここでまた調子のいいことを言いだしてきた。
「だから残しておいたの。感謝してね」
「それは嘘だな」
妹の今の言葉にはこれまたむっとしたような声で応えるのだった。
「そうだな。実際は御前はバニラが食べたかったから食べた」
「そう思ってるの?」
「思ってるんじゃない。確信だ」
こうまで言う兄だった。
「そうだな。バニラを食べたかったんだな」
「そういう見方もあるわね」
いい加減ばれているがそれでもまだ白を切るのだった。目線は左斜め上にある。
「ひょっとしたらだけれど」
「まだ言うか。まあいい」
牧村もこれで話を打ち切ることにしたのだった。靴を脱いでそのうえで家にあがるのだった。そのうえで妹の横を通り過ぎながらまた言った。
「その苺だが」
「食べてね」
「言われるまでもない」
これが返事だった。
「今から食べる。その間に着替えておくんだな」
「わかってるわ。今日もおめかしして行くから」
「別にセーラー服でもいいんじゃないのか?」
ふとこんなふうにも思って妹の方を振り向いて述べた。
「そのままでもな」
「それがそうはいかないのよ」
しかしそれでも若奈は言うのだった。
「女子中学生っていうのはね」
「塾は塾でか」
「そういうこと。今日もちゃんとした格好でないと」
胸を張って両手を腰にやって笑顔で宣言するのだった。
「周りに負けちゃうから」
「ファッションでも勝負しているのか?」
怪訝な声で妹に問い返した。
「勉強だけでなく」
「勉強は普通にやってればいいじゃない」
若奈の成績はそれ程悪くはない。むしろいい方である。このままいけば八条学園高等部にも平気でいけると言われている。八条学園はレベルは高いが入りにくくはないレベルでもある。つまり若奈の成績もそうした状況であるのだ。そういうレベルなのである。
「そうでしょ?けれどファッションはそうはいかないのよ」
「そういうものなのか」
「それは女の子の世界の話」
こんなことも言う若奈だった。
「男の世界じゃないけれどね」
「何か別世界みたいだな」
「完全にそうよ」
若奈はまた言った。
「女の子の世界はね」
「厄介な世界みたいだな」
「別にそうでもないのよ」
厄介かというとそうではないというのだった。
「これがね。住んでみると楽しい世界だから」
「そういうものなのか」
「まあ男世界の住人にはわからない話よ」
くすりと楽しそうに笑って出した言葉であった。
「じゃあとにかく。アイスクリーム食べて」
「言われなくても食べる。それじゃあな」
「ええ。後でね」
兄と妹は玄関で別れた。そうして牧村はアイスクリームを食べ若奈は着替えに向かうのだった。それが終わってからサイドカーでその着替えた妹を塾に送るのだった。
第十六話 完
2009・4・27
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