髑髏天使
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第十六話 青年その十二
「俺が伸ばせるのは右腕ではない」
「むっ!?」
「こちらもだ」
言いながら今度は左腕を伸ばしてきたのだった。そのうえで先程のように絡め取るのではなく殴ってきた。リーチを伸ばして髑髏天使の顔を狙ってきたのだった。
「こういうこともできるのだ」
「くっ」
その拳に対して右手の剣を振るってそのうえで拳を手首のところで切ってみせた。拳は空しく宙を飛び腕はあえなく後ろに身を引いた髑髏天使にかわされてしまった。
しかしそれでも。魔物の余裕は変わらなかった。
「言った筈が。斬られてだ」
「平気なのだな」
「そうだ。見るのだ」
かわされた左腕は元の長さに戻っていく。髑髏天使は這い回ろうとしているその拳に対して右手に持っている剣を振るいそこから鎌ィ足を放って両断した。しかしその左手は真っ二つになってもそれぞれが動きそのうえでまた本体に這っていくのだった。
「このようにまた斬られてもだ」
「ではこれではどうだ?」
髑髏天使は今度は炎を左手に持つサーベルから放った。炎を刃にして放ちそれでその分かれた左手に当て燃やすのだった。
「屍は炎によって焼かれるものだ」
「日本ではそうなのか」
「貴様の国では違うかも知れない」
これは国によって違う。基本的にキリスト教やユダヤ教の世界においては遺体は土葬である。それに対して仏教の日本では火葬が主流になっているのだ。
「だが。これならばもう回復はできない。違うか」
「そうだな。少なくともつけることはできない」
グールもそれは認めるのだった。
「しかしだ」
「まだ何かあるのか」
「そうだ。見るのだ」
髑髏天使に告げながらその左手の斬られた部分を前に出して彼に見せてきた。すると。
「こうなるのだ」
「むっ!?」
「見るのだ」
魔物はまたその左手を見せながら言うのだった。
「俺の力をな」
「むうっ!?」
ここで彼は見た。何とその斬られた部分から何かが出て来るのをだ。そうしてその出て来たものは次第に形になってきてそうしてそれはあの左手になるのだった。
「出て来るというのか。手が」
「くっつけるだけではない」
グールは次第にその形を作っていく左手を見てまた告げた。
「こうしてだ。再生することもできるのだ」
「そうしたこともできるのだな」
「その通りだ。俺を甘くみるな」
手を完全に回復したうえでまた告げた。告げるその間にもう完全に回復してしまっていた。
「こういうこともできるのだ。
「どうやら俺の予想以上ということだな」
「貴様の予想は確かにかなり読んでいたのだろう」
髑髏天使のその読みに対しても返してきた。
「しかしだ。俺はそれ以上だった」
「そういうことか」
「そうだ。そういうことだ」
ここでも静かに彼に告げるのだった。
「わかったな。俺を倒すことはできない」
「どうしてもだというのだな」
「例え全身を炎で焼かれようとも俺は倒れることはない」
そしてこうも言ってきたのだった。
「そのそばからこの身体を回復させてみせよう」
「では俺の剣でも炎でも風でもか」
「俺を完全に倒すことはできない」
自信に満ちた言葉は相変わらずであった。
「何を以ってしてもな」
「くっ、しぶとい奴だ」
「言っておくが俺はもう死んでいる」
歯噛みした彼にさらに言ってきた。
「心臓を狙おうとしても無駄だ」
「ふん、死者の心臓は動いてはいない」
心臓は動いている証だからだ。そういうことだった。
「そうだな」
「その通りだ。わかったならば観念しろ」
ゆっくりと両手をまた伸ばしてきたのだった。
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