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髑髏天使

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第十二話 大鎌その十四


「闘いにおいて何年生きていたかどうかは関係ない」
「関係ないんだね」
「どちらが強いか弱いか」
 彼が言うのはそのことだった。
「それだけだ。強いか弱いかだ」
「だったらやっぱり僕の方が上だよ」
 妖犬は髑髏天使の今の言葉を受けてもやはり平然としたものであった。飄々としたその語り口の中に余裕と優越感がはっきりとあった。
「僕の方がね」
「それは何故だ?」
「三百年生きているということはそれだけ霊力を蓄える時があったということだよ」
 ここでも悠然とした口調だった。
「それだけね。だから」
「貴様は俺より強いというのか」
「うん。僕が君を倒す」
 言いながらその槍を前に構えてきた。
「ここでね。苦しませることはしないからそれは安心してね」
「面白い」
 牧村はその言葉も受けるのだった。
「それではだ」
「やるよね」
「髑髏天使は逃げることはない」
 彼もまたその右手に持つ剣を構えるのだった。
「何があろうとも闘う」
「そう。それじゃあね」
「行くぞ」
 先に動いたのは髑髏天使であった。すすす、と摺り足で前に出てそのうえで右手に持っているその剣を繰り出す。最初は突きの連続だった。
「突き!?」
「槍は確かに優れた武器だ」
 髑髏天使もそれは認識していた。
「しかしだ」
「しかし?」
「手元に入ればその優れたものは逆に枷になる」
 言いながらさらに突きを出す。妖犬は今はその突きを左右に身体を捻って避けているだけだ。だがそこにも余裕に満ちたものを見せているのだった。
「そう。その場合は」
「悪いけれどね」
 だが妖犬はその髑髏天使にまた言葉を返してきた。
「僕は魔物だよ」
「それがどうした」
「魔物の持つ武器はただの武器じゃない」
 こう言うのである。
「だからね」
「むっ!?」
「こうしたこともできるんだ」
 その言葉と共に槍が動いた。何と一気にその長さが縮まったのだ。
「縮んだか」
「魔物の持っているものは人間のものとは違うんだよ」
 妖犬は楽しそうに笑いながら髑髏天使に話すのだった。
「だから。こうしたことができるんだ」
「魔物のものだからか」
「特に驚いたわけじゃないみたいね」
「驚くこともない」
 やはり彼は冷静だった。落ち着いた顔で返してきた。
「貴様が魔物だからな」
「そうだよ。人間とは違うよ」
 言いながらその縮んだ槍を右手一本で持ちそのうえで突き振ってきた。
「この速さもね」
「くっ」
 その槍を右手の剣で防ぐ。だがその突きも振りも予想以上に速く右の剣一本では限界があった。少なくとも攻めるのは無理になってしまった。
 彼はそれを見てすぐに動いた。力を開放した。それにより大天使となった。すぐにその背に翼が生え左手にサーベルが現われたのだ。
「それが大天使だね」
「如何にも」
「わかるよ。力が強くなったよ」
 妖犬はそれを見ても陽気な態度を崩さない。
「多少はね」
「多少かどうかはこれから己で確かめろ」
 大天使となった髑髏天使は妖犬の小馬鹿にしたような軽い言葉にも動かない。ただ両手の剣を構えるだけだった。
 右手を前に出し左手は奥にやる。右手の剣は肩の高さでいささか斜め前にやって突き出し左手のサーベルは逆手に持ち心臓の辺りに拳を置いている。そのうえで妖犬を見据える。再び戦闘態勢に入ったのであった。 
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