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髑髏天使

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第九話 氷神その六


「贈り物があるんだけれどさ」
「そうそう」
「贈り物!?」
 贈り物と聞いてその妖怪達に顔を向ける牧村だった。
「あんた達がか」
「そうだよ。はい、これ」
「よかったら食べて」
 こう言って出してきたのは羊羹だった。栗羊羹である。
「山月堂の羊羹」
「よかったら食べてよ」
「山月堂か」
 この八条町で有名な和菓子屋である。味だけでなく店員のマナーも非常にいい和菓子の名門として知られている店である。当然彼もその名は知っている。
「そこのか」
「甘いもの好きだったよね」
「だからさ」
 妖怪達は言うのだった。
「食べてよ、よかったら」
「遠慮せずにね」
「済まないな」
 妖怪達のその気遣いに対して礼を述べる牧村だった。そのうえでその手を栗羊羹に向ける。そうして羊羹の置かれた皿にあった爪楊枝で刺し口の中に入れるのだった。
 甘いだけではなかった。静かな気品がそこにはあった。一流の腕の持ち主だけが出すことのできる、気品のある羊羹の味がそこにあるのだった。
 それを食べた彼は。羊羹を噛みつつ妖怪達に顔を向けて言った。
「美味いな」
「そうでしょ?やっぱり和菓子はここの羊羹だよ」
「ケーキもそうだしね」
「そういえばあそこはケーキもやっていたな」
 牧村もそのことを思い出した。
「確かあそこの息子さんも八条大学か」
「だから後をつけて行ってね」
「それで人間に化けて買ったんだよ」
「場所は知らなかったのか」
「今まではわしが買っておったのじゃよ」
 博士もその羊羹を一口食べつつ牧村に述べた。どうやらこの博士は酒だけではなく甘いものもいけるらしい。所謂両刀使いというやつである。
「わしがな。わしも好きでのう」
「そうだったのか」
「しかしじゃ。この連中はそれ以上に好きでじゃ」
「だからどうしても我慢できなくてね」
「好きな時に好きなものを好きなだけ食べたいじゃない」
 実に率直な言葉であった。
「だからだったんだ」
「買いに行ったんだよ」
「それでか」
 ここまで聞いて納得する牧村だった。
「それでこの栗羊羹をだったのか」
「その通り。やっぱり美味しいよ」
「病み付きになるね」
 見れば彼等は羊羹だけを食べているわけではなかった。他の様々な和菓子も食べている。その顔が実に楽しそうなものである。
「お菓子もいいよね」
「ケーキも好きだけれど」
「何でも食べるんだな」
 ケーキも話に出て思った言葉だった。
「本当にな」
「僕達嫌いなものないし」
「胡瓜が一番だけれど」
 今は河童の言葉である。
「だから何でもいけるよ」
「和菓子でもケーキでもね」
「ケーキか。そういえば」
 ここでふとあることを思い出した牧村だった。
「未久がスタープラチナのケーキがいいと言っていたな」
「ああ、そこのケーキもじゃよ」
 博士はスタープラチナと聞いてすぐに突っ込みを入れてきた。
「そこのケーキの仕入先は山月堂じゃよ」
「そうだったのか」
「世界は案外狭いものでな」
 また笑って牧村に話してきたのであった。
「案外近くにあったりするものなんじゃよ」
「何でもか」
「そう、何でもな」
 笑いながらページをめくっていた。 
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