髑髏天使
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第八話 芳香その十七
「確信だ」
「見事ね。そうまで言ってもらったらこちらも面白いわ」
「面白いか」
「闘いは楽しむものよ」
実際に妖艶な笑みを崩してはいない。その笑みと言葉が一つになっているからこそ説得力のあるものがあるのであった。見事なまでに。
「だからこそよ」
「貴様は闘うのか」
「貴方は違うのね」
「俺は髑髏天使だ」
女に対する返答はまずはこれだった。
「貴様等を倒す。髑髏天使だ」
「そういうことね。それじゃあ」
女は跳んだ。後ろに跳びそのまま着地する。膝を折って衝撃を抑えることもしない。そのまま地面にすくっと立っている。その後ろには闇に覆われた植物園が不気味な姿を見せている。
「入って来られるわよね」
「ふんっ」
答えずに跳んだ。そのまま門を跳び越えアルラウネの前に着地してみせた。既にその筋力は人間のものを超えてしまっていた。
「この通りだ」
「わかったわ。それじゃあ」
「行く場所は何処だ?」
「面白い場所を見つけているのよ」
「面白い場所か」
「闘う場所には相応しい場所を」
目を細めながらの言葉だ。細めさせたその目が緑に闇の中で輝いている。
「見つけたから」
「ではそこに行こう」
反論はなかった。そのまま受け入れていた。
「そこにな」
「ええ。こっちよ」
アルラウネに案内されて植物園の中を進む。左右に様々な植物が生い茂っている。中には花も多く闇の中に赤や黄色、紫といった色を浮かび上がらせている。だがそれは決して己から光を放つことはなくただその姿を闇の中に浮かび上がらせているだけだ。光はない。しかしその中に色はある。二人はその中を進んでいく。
やがて二人が来たのはハウスの中だった。ガラス張りで中は熱帯の植物で満ちている。ハエトリソウもあればウツボカズラもありまた赤や白、黄色の毒々しいまでに鮮やかな花々が緑の中に咲き誇っている。アルラウネが彼を案内したのはそのハウスの中であった。
「ここか」
「そう。ここよ」
今まで前を歩いていたアルラウネはここで牧村の方を振り向いて述べてきた。
「ここよ。いい場所でしょう」
「確かにな」
目だけで周りを見回しながらアルラウネに対して答える。
「昼に来れば実に面白かったな」
「夜には夜の楽しさがあるわ」
アルラウネは含み笑いと共に彼に述べた。
「それはそれでね。むしろ」
「貴様にとっては今の方がいいのだな」
「夜は魔物の世界」
アルラウネは言う。
「だからよ。この夜の中に咲き誇る花々こそが至上の美」
彼女の周りにその花々が咲き誇っている。青のものも紫のものも黒のものも。あらゆる色の花々が彼女を讃え崇めるようにして彼女の周りを飾っている。彼女はその中で両手を上に掲げ恍惚とした声で語るのである。
「この美しさこそが私の愛してやまないものだから」
「だからこそここで闘うというのだな」
「ええ」
恍惚とした声は続く。
「その通りよ。それでいいわね」
「構わない」
どうでもいいといったような牧村の言葉だった。頓着すらない。
「俺は何処でも魔物を倒す。それだけだからな」
「そうなの。貴方には美をわかる心はないのね」
「美か」
牧村はその言葉に眉をぴくりと動かした。
「それは俺にもある」
「では何故この美を否定するというの?」
夜の闇を堪能しつつ牧村に問う。
「この至上の美を」
「言った筈だ。俺は昼の世界にいる」
これが牧村のアルラウネに対する言葉だった。
「そこに俺の美はある」
「そうなの。今ではなくて」
「確かに闇には闇の美がある」
牧村もそれは否定しない。
「だが」
「だが?」
「俺が好むのは光。光の美だ」
言いながらそれまでポケットに入れていた両手を出す。それをゆっくりと身体の前に出していく。
ページ上へ戻る