髑髏天使
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第五十八話 嘲笑その五
「言い換えればそこにはあらゆるものがある」
「あらゆるものがか」
「そうだ。あらゆるものが形も心も善悪も何もなく入り混じっている」
丁度だ。彼等が今いるその世界がだった。
あらゆる元素があらゆる色で胸の悪くなる感じで渦巻き蠢き合いながらだ。その中にある。その中にいてだ。男は話すのであった。
「それが混沌か」
「そうか」
「それがこの中か」
「混沌だというのか」
「わかったか。そして混沌はだ」
そのだ。混沌の話をさらにするのだった。
「何処から生まれたと思っている」
「何処から」
「何処からだというのか」
「そうだ、何処からだ」
また話すのだった。その話はだ。
「何処から出て来て生まれたと思う」
「神話ではだ」
髑髏天使がここで話す。彼がだ。
「混沌は常に最初から存在しているな」
「その通りだ。ギリシアのものでもエジプトのものでもだ」
「混沌は最初から存在している」
「そしてその中からだ」
「あらゆるものが出て来るな」
「それは知っているな」
「わかったな」
また話す男だった。そうしてだ。
そのうえでだ。男はこうも話した。
「混沌は即ち原初なのだ」
「全てのはじまり」
「それだというのか」
「つまりは」
「そういうことだ」
これが男の彼等への言葉だった。
「最初から形のあるものなぞ何もありはしないのだ」
「そしてだな」
「そう、そしてだ」
「そしてか」
「全てはその中に戻るのだ」
男は言うのだった。
「今からな」
「貴様等のその中にか」
「我々は混沌が生まれてだ」
そうしてだというのだ。
「それと共に生まれた存在なのだ」
「つまりはです」
「混沌そのもの」
「それだというのか」
「そうだ、世界のはじまりからいるのだ」
それが彼等だというのである。男達だというのだ。
「その我々に勝てるというのか」
「勝つ」
髑髏天使の言葉はだ。断言だった。
「確かに混沌は全てのはじまりだ」
「その通りだ」
「そして圧倒的な力を持っているな」
「言うまでもないことだな」
「確かに最初にあるのは混沌だ」
それはだ。否定できないことだった。
だが、だ。髑髏天使はそれでもだというのだ。
「しかし混沌から何もかもが生まれたな」
「神話ではだな」
「そうだ。神話、即ち人間はだ」
神話は人間と共に生まれる。それが即ち人間だというのだ。
「混沌を打ち払っているな」
「原初を忘れ。そしてだな」
「そしてと言うか、ここで」
「法や秩序などというものを形成していった」
「それが誤りだというのだな」
「全ては原初の中にあるべきなのだ」
混沌としての考えを。ありのまま話していく。
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