髑髏天使
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第二話 天使その一
髑髏天使
第二話 天使
「・・・・・・俺なのか」
サイドカーのミラーに映る髑髏の騎士。その姿を見て牧村は思わず絶句した。言葉も搾り出すようで自分でも血を吐く感じがするものだった。
「これが俺か」
信じられなかった、いや信じたくはなかった。今映っている異形の存在が自分だとは。信じられる筈もなかった。だが嘘ではないのはわかった。
「・・・・・・間違いない」
また呻きになっている言葉が口から出た。
「俺だ。間違いなく俺だ。何故こんな姿に」
自分でもわからない。わかる筈もなかった。呆然としている彼が次に思ったことは果たしてこの姿から元に戻ることができるかどうかということだった。
「このまま永遠にか」
それは流石に耐えることができなかった。この様な異形の姿でこれから生きるばどと。人の世に生きられないだけではなく人の姿ではないことにも耐えられなかったからだ。
だがここで。思わぬ救い主が出て来た。不意に携帯の音が鳴ったのだ。
「むっ!?」
それに気付いた瞬間だった。この異形の髑髏の騎士への恐怖がそれで一瞬だが消えた。するとそれで彼の姿は元に戻ったのだった。髑髏の騎士から見る見るうちにもとの姿に戻りそれはミラーにはっきりと映し出されていたのである。彼は元に戻ることができたのだ。
「戻れた。何なのだ今は」
何なのかわからなかった。今起こったことが夢ではないのかとさえ思った。しかしここで現実が彼を呼んだ。携帯が鳴り続いていたのだ。
「そうか、あいつか」
かけてきたのが誰かすぐにわかった。それと共に彼がどうしてここにいるのかも思い出した。髑髏の騎士のことに心を奪われ忘れてしまっていたのだ。
電話に出る。するとよく知っている声が早速耳に入って来た。
「お兄ちゃん」
「御前か」
妹の声だった。未久の声に他ならなかった。
「どうしたんだ?」
「さっきお母さんから聞いたんだけれど」
彼女は電話の向こうからまずこう言ってきたのだった。
「迎えに来てくれてるのよね」
「ああ、そうだ」
彼は妹に対しても無愛想でぶっきらぼうな人間である。そしてそれは今この時でも変わらないのだった。個性は中々変わりはしない。
「その通りだ」
「サイドカーで来てくれているの?」
次に尋ねてきたのはこのことだった。
「それとも車?何でなの?」
「サイドカーだ」
彼は素直に自分の妹に答えた。
「サイドカーで来ている。それでいいんだな」
「うん」
サイドカーと聞いてか電話の向こうの声が明るくなった。
「よかった。やっぱりそれよね」
「そう思ってサイドカーにした」
妹が自分のサイドカーが大好きなのはもうよく知っていたのだ。何度も迎えに来ているし何度も乗せているからだ。その度に大喜びではしゃぐ姿も見ているのだ。
「だからそれでいいんだな」
「お兄ちゃんのサイドカー凄く格好いいから」
これが彼女が牧村、自分の兄のサイドカーに乗りたがる理由だった。彼のサイドカーは彼女の大のお気に入りなのである。
「だから。それで来てくれたらね」
「わかった。じゃあ今すぐ行く」
「塾の入り口のところで待ってるから」
待ち合わせの場所は彼女の方から言ってきた。
「そこに来て。御願いね」
「ああ、わかった」
「それでね。お兄ちゃん」
ここで妹はまた言ってきた。
「今度は何だ?」
「何か声がおかしいけれど」
不意にといった感じでの言葉だった。だがこの言葉を聞いて牧村の心に動揺が走った。先程自分がなっていたあの異形の姿のことを思い出したからだ。
「どうしたの?」
「気のせいだろう」
その動揺を必死に覆い隠して妹に答えた。
「それはな。気のせいだ」
「気のせいなのね、私の」
「そうだ。俺は別に変わらない」
こうも言う。とにかく妹の疑念を消し去ろうと必死になっていた。
「何もな。だから安心しろ」
「風邪とかじゃなかったらいいけれど」
「体調管理には気をつけている」
これは事実だった。彼は健康管理には気を使っているのだ。その為か体調はいつもかなりいいのだ。
「だからそれはまずない」
「そうよね。お兄ちゃん風邪なんてひかないものね」
「わかったらこれでいいか」
これ以上話せば今度は何を感じられるかわからない。だから今はこれで電話を切ることにしたのであった。彼の危機からの逃れ方であった。
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