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髑髏天使

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第五十四話 邪炎その八


「だからだ。どうだ」
「わかったわ。それじゃあね」
「飲むか」
「そうさせてもらうわ」
 こうしてだった。若奈はストローの紙のカバーを取りそこからそれを出し紅茶の中に入れる。氷が先に当たるがそれをかわしてだ。
 そのうえで銀色のポットを手にしてミルクを中に入れる。それからストローでかき混ぜる。
 すると紅茶の紅とミルクの白が混ざり合いだ。白が瞬く間に紅と一つになり独特の、茶色を思わせる中間色になったのだった。
 紅茶をその色にしてだ。それからだった。
 若奈は紅茶をストレートで飲む。それを飲んでから話すのだった。
「美味しいわ」
「美味いか」
「ええ、美味しいわ」
 こうだ。若奈は牧村に対して話した。
「紅茶を淹れるのもかなり上手なのね」
「そうなった」
「なったの?」
「最初はそうではなかった」
 牧村は静かに話した。
「最初はな」
「違ったの」
「未久に言われた。最初にアイスティーを淹れた時にな」
 話はそこまで遡ることだった。
「こんなまずいアイスティーはないとな」
「ああ、未久ちゃんねえ」
 マスターはだ。彼女の名前を聞いて笑顔になった。そうしてだった。
「あの娘ははっきりと言うからね」
「これ以上はない位に言われた」
「だろうね。毒舌だからね」
「特に俺にはそうだ」
 兄である彼には特にだというのだ。
「言うことに容赦がない」
「あの娘らしいよ、本当に」
「いい娘だけれどね」
「口は悪いのよね」
 娘二人もそれを話す。彼女達も未久と知り合いなのだ。友人と言ってもいい。
「けれどそれでもね」
「牧村さんには容赦がないから」
「それでなのね」
 若奈がまた牧村に対して問うた。
「最初のアイスティーは失敗だったの」
「俺も飲んでみたが駄目だった」
 まさにそうだというのだ。
「どうしようもなかった」
「牧村君でもそうなの」
「ホットティーとはまた違っていた」
「そうそう、同じ紅茶でもね」
 マスターは腕を組んで考える顔になって述べた。
「ホットとアイスじゃ全然違うからね」
「俺はその時はまだそれがわかっていなかった」
「そのうえでの失敗だった」
「不覚だった。しかしだ」
 それでもだというのだ。
「あの失敗があったからだ」
「このアイスティーがあるのね」
「そういうことだ。失敗したからこそこうして淹れられる」
 若奈に述べながらだ。彼女が今飲んでいるそのアイスティーを見ている。
「これも努力か」
「そうだよ、努力だよ」
 その通りだと話すマスターだった。
「立派なね」
「そうか。これもか」
「上手になろうとする。これが努力なんだ」
 彼はまた話した。
「だから君もね」
「そうか。努力はそうしたものか」
「失敗は成功の母。事実だよ」
「ではだ。駄目な奴は何をやっても駄目というのは」
「ああ、それは間違いだから」
 マスターはその言葉ははっきりと否定した。 
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