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髑髏天使

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第五十二話 死風その三


「どれだけ買ったかな」
「わからないよね」
「お金かかってない?」
「やっぱり」
「昔はハプスブルク家御用達だったところから注文したしね」
「何、食べ物にかける金なぞじゃ」
 しかしここでだ。博士は笑ってこう話すのだった。
「大したものではない」
「そうなんだ」
「大したものじゃないんだ」
「食べ物は」
「文献に比べればな」
 そしてこれを引き合いに出す博士だった。
「どうということはない」
「ああ、文献ね」
「そっちは凄いからね」
「楔形文字とかパピルスとか」
「一杯あるからね」
「そうしたものに比べればじゃ」
 どうということはないというのである。そうした古代の文献と比べればだ。
「全くのう」
「っていうかよくそこまで文献集められるね」
「博士ってやっぱり凄いね」
「文献を集めるのもコツじゃ」
 これが博士の返答である。
「ちょっと工夫すれば結構集められるのじゃ」
「遺跡みたいなのでも?」
「それでもなんだ」
「そうじゃ。それでもじゃ」
「お金とルートがあれば」
「手に入るんだ」
「ピラミッドの中の象形文字もあるぞ」
 それまでもというのである。
「模写じゃがな」
「まあピラミッドの中だとね」
「やっぱりそのまま持っては来られないよね」
「それは流石に」
「うむ。削り取ることさえできん」
 ピラミッド自体が人類の宝だからである。博士もそれはわきまえていた。
「だから模写じゃ」
「けれどその模写でもわかるんだ」
「色々なことが」
「その妖魔のことも」
「わかる。色々なものがわかった」
 博士はここでまた牧村を見て話す。
「文献は揃っておる」
「そして後は、だな」
「後はそれを調べて解読するだけじゃ」
「そうして色々なことがわかるか」
「待っていてくれ」
「わかっている。そうさせてもらう」
 牧村は静かに応えた。そうしてであった。
 背を壁から離して。立ち上がった。
 それから扉の方に向かう。そのうえで博士に告げた。
「今からまた、な」
「講義じゃな」
「それに行く」
「うむ。学業も楽しむのじゃ」
 牧村は何といっても大学生である。大学生ならば講義に出るのが当然である。中にはそうでない学生もいるにはいるがだ。
「よいな」
「学問は楽しむものだな」
「そうじゃ。それでこそ色々なことがわかる」
「博士もそうしているか」
「だからこの歳になるまで学者をやっておるのじゃよ」
 左手に開いた文献を持ち右手で自分の白い髭をしごきながらの言葉だ。
「そういうことじゃよ」
「では俺も楽しめば」
「わしの歳になるまで学者になれるぞ」
「学者になるつもりはないがな」
「ではやはり喫茶店か」
「そうなればそれでいい」
 喫茶店というのだ。やはりそこであった。 
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