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髑髏天使

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第五十話 帰郷その二十三


「しかしなっておらんな」
「そうだな。確かにな」
「そういうことじゃ」
 それでだというのである。
「君は大丈夫じゃ」
「だといいがな」
「まあ君はこの大学に残るなり喫茶店に入るなり」
「喫茶店か」
「ははは、話は聞いておる」
 顔を崩して笑う博士であった。
「よいことじゃ」
「それはわかったが」
「わかったが?」
「何処で聞いた」
 牧村は真剣な目で博士に問うた。
「その話をだ。何処で聞いた」
「僕達からだよ」
「博士に話したんだ」
 妖怪達がここで言うのだった。
「実はね。あのお店にも行き来してるから」
「それでなんだ」
「それでか」
「僕達美味しいものがある場所なら何処でもだよ」
「行くよ」
 この辺りは実に彼等らしかった。
「だからだよ」
「そこで見てたしね」
「牧村さんとあの人ね」
「奇麗な人だね」
 若奈のことも話される。
「小柄で笑顔が素敵でね」
「牧村さんにお似合いだよね」
「確かにね」
「小柄な人と背の高い人の組み合わせってね」
「それがいいんだよね」
「そうそう」
「そういえばですけれど」
 またろく子が牧村に首を向けて話してきた。
「牧村さんまた背が伸びましたね」
「伸びたか」
「はい、伸びてますね」
 そうだというのである。
「今身長どれ位ですか?」
「最近測ってないが」
「見たところ」
 その長い首を利用して牧村を上から下まで見てだ。そのうえでの言葉だった。
「一八三位ですか?」
「前は一八〇位だったよね」
「そうそう」
 立派と言っていい身長である。妖怪達もそれを言う。
「そこから三センチ伸びたんだ」
「何か羨ましいね」
「僕達って背とか変わらないからね」
「術で変えられてもね」
「本来の背はどうしてもね」
「変わらないんだよね」
 それが妖怪達だというのだ。この辺りは人間とは全く違っている。
「その僕達と違ってね」
「背が伸びるってね」
「いいよね、人間って」
「本当にね」
「そうだろうな」
 牧村もそれについて頷く。
「俺も自分の背が伸びることはだ」
「嬉しいんだ」
「そうなんだ、やっぱり」
「ああ、いいものだ」
 また妖怪達に対して述べた。
「本当にな」
「そうじゃのう。わしもじゃ」
 博士もここで笑顔と共に言ってきた。
「かつてはあれじゃぞ。一七五あったのじゃ」
「本当か、それは」
 牧村は半分真顔で博士に問い返した。
「本当にそれだけあったのか」
「あったぞ。本当にじゃ」
「そうなのか」
「うむ、それが歳と共に縮んだのじゃ」
 笑顔はそのままであった。
「それで今に至るのじゃ」
「そうだったのか」
「全く。八十、いや九十を超えた辺りからじゃ」
 日本人の平均寿命を超えている。
「その辺りから縮んでじゃ」
「そうなったのか」
「今では一五〇位か」
 そこまで小さくなったというのである。
「いや、小さくなったわ」
「そうだよね。博士ってね」
「昔と今じゃ全然外見違うからね」
 それを妖怪達も話す。
「性格は変わらないけれどね」
「喋り方もね」
「けれど外見は本当に変わったよ」
「昔は海軍将校にも負けない位の外見だったのに」
 かつては海軍将校といえばもてにもてた。その彼等にもひけを取らなかったというのだ。
「今じゃ僕達と一緒にいても普通だしね」
「何かこのまま妖怪になるとか?」
「あはは、それ有り得るね」
「そうだよね」
 こんな話をしてだった。そうして。
 牧村はだ。壁から背を離してだ。そうして言うのだった。
「さて、それではだ」
「講義じゃな」
「言ってくる。それではな」
 こう博士に言うのだった。
「ではな」
「うむ、それではな」
「勉強も頑張ってね」
「しっかりね」
 妖怪達も笑顔で彼に言う。彼等はまだアップルパイにアップルティーを楽しんでいる。
「それじゃあまたね」
「待ってるからね」
「行ってらっしゃい」
「またな」
 別れの挨拶をしてだ。彼は日常生活、学校の講義に向かった。その日常生活こそがだ。彼を人間にしていることに考えることにもなるのだった。


第五十話   完


               2010・12・31 
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