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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第五十三話 甦った堕天使

                   第五十三話 甦った堕天使
             甦った堕天使
 ネオ=ジオンではゼクスが離脱し、ティターンズもギガノスも大人しくなった。宇宙ではネオ=ジオン以外はそれ程目立った動きはなくなっていた。
 だがロンド=ベルの仕事がなくなったわけではなかった。そのネオ=ジオンが問題なのであった。
 ネオ=ジオンを率いるハマーン=カーン。この若き女傑の計画する地球降下作戦を阻止する。彼等はこの為に地球に戻っていたのであった。
「ネオ=ジオンは今何処にいる」
 ブライトはラー=カイラムの艦橋でサエグサに問うた。
「地球圏に順調に近付いているようですね」
「そうか」
「戦力を集中させています。このまま我々への迎撃と地球降下を同時に行うつもりのようです」
「相変わらずだな。大胆な作戦を執る」
 ブライトはそこまで聞いてこう呟いた。
「ハマーンらしい。彼女を地球にやると厄介なことになるぞ」
「そうだな」
 それに対して艦橋にいたクワトロが頷いた。
「下手をするとダカールを占領される」
「うむ」
「そうなれば問題だ。ジオンが地球連邦政府から成り行きはどうあれ権限を委譲されるかも知れない。そうなれば地球はジオンのものとなる」
「かってティターンズが狙ったやり方ですね」
「そうだ」
 クワトロはトーレスの言葉に頷いた。
「それだけは防がなければならない。ジオンに大義を与えてはならない」
「もうそれは持っているんじゃないですか?」
 サエグサはここでクワトロにこう問うてきた。
「どういうことだ」
「いえ、アナベル=ガトーがよくジオンの大義だと言っているんで」
「彼の大義はまた別の大義だ」
「そうなんですか」
「政治の大義ではない。彼は政治家ではない」
「はあ」
「だがハマーンは政治家でもある。それが問題なのだ」
「ジャミトフやバスクとはそうした意味で同じだということか」
「そういうことになる」
 ブライトの言葉に頷いた。
「むしろシロッコに近いかも知れない。あれ程の不気味さはないが」
「ギレン=ザビやキシリア=ザビとはまた違うのだな」
「そうだ」
 見ればアムロも艦橋にいた。彼の言葉にも頷いた。
「彼女はかなり特殊な立場にいる。それは女性だからかも知れないが」
「よく知っているな」
「伊達に側にいたわけではない」
 その時彼は僅かな間だがシャア=アズナブルに戻っていた。
「その時のことを覚えているのだ。あくまでその時だが」
 そしてそれは彼にもわかっていた。そしてクワトロ=バジーナに戻った。
「そうか」
「思い出したくはないがな。因果なぞ」
「それはお互い様だ」
 アムロも言った。
「しかし。それが戦争の役に立つのなら思い出してもいい時もあるな」
「悟っているな、アムロ中佐は」
「伊達に中佐になったわけじゃない」
 アムロはこう言って笑った。
「色々とわかるものさ。戦場にいたのも長いしな」
「そうか」
「御前と同じだ。歳はとりたくなかったが」
「そういうわけにもいかないだろう」
 ブライトも話に戻ってきた。
「お互い。この立場になると色々とわかるものだ」
「御前は昔から少し老けていたがな」
「おい、またそれか」
 ブライトはそれを聞いてまた苦笑した。
「何か御前はことあるごとに私を年寄り扱いするな」
「まあ気にするな。まだ二十代なんだろう?」
「それはそうだが」
「老けるには早いだろう。まあ大人びていると思えばいい」
「誤魔化したな」
「ははは、そうかもな」
 ロンド=ベルの面々は意外とリラックスしていた。だが地球ではこの時少しトラブルが起こっていた。
「馬鹿者!」
 研究室に三輪の怒鳴り声が響いていた。
「何故あの様な胡散臭い男にファイルを渡したのだ!」
「必要だからです」
 眼鏡の女はモニターに映る三輪の巨大な顔を前にしてしれっとした態度でこう応じていた。安西エリであった。
「必要だと!?」
「はい。ラ=ギアスに向かったロンド=ベルの別働隊の為に。当然の判断であると思いますが」
「地下のことなぞ放っておけ!」
 それに対する三輪の言葉はいつもと同じようなものであった。
「地球をまず考えよ!ネオ=ジオンの主力が向かって来ているではないか!」
「そちらにも援軍が向かっております」
「誰だ、それは」
「それは私がお答えします」
 金髪の青年が前に出て来た。ロバート=オオミヤである。
「貴様か」
「はい。宜しいでしょうか」
「いいだろう。言ってみろ」
「はい」
 オオミヤは三輪のぞんざいで威圧的な態度にも構わず言った。
「ナンブ=キョウスケ中尉とエクセレン=ブロウにング中尉、そしてヒューゴ=メディウム少尉とアクア=ケントルム少尉の四人です」
「あの四人か」
「はい。地球の方も問題はないかと思いますが」
「それでダカールでも陥落させられたらどうするのだ」
「ダカールをですか」
「そうだ。ネオ=ジオンはアフリカに残っているジオンの残党と呼応してアフリカに降下するというではないか。それへの備えは大丈夫なのだろうな」
「その為のロンド=ベルですが」
「随分と奴等を信用しているな」
 それがどうやら三輪にとっては面白くはないらしい。
「悪いでしょうか」
「フン、まあいい」
 だがとりあえずはそれを不問とすることにした。
「では必ず防げるのだな」
「ダカールは大丈夫でしょう」
「大きく出たな」
「ミスマル司令の軍もありますし」
 それを聞いて三輪の顔がさらに険しくなった。彼はミスマルが大嫌いなのであった。彼がミスマルを一方的にライバル視しているだけであったが。
「神ファミリーもいてくれています。大丈夫でしょう」
「言うにこと欠いて異星人共か!」
 しかしここで切れた。どうやら彼にとってミスマルはまだ許容範囲であってもビアル星人である神ファミリーはそうではなかったようだ。
「あの様な得体の知れない連中の力なぞ不要だ!」
「そうもいかないでしょう」
 だがオオミヤは激昂する彼に対して冷静にこう述べた。
「今は戦力が少しでも必要な時ですし」
「異星人でもか!」
「彼等は我々と何ら変わりがありません。それにもう地球に移り住んで二百年になります」
「それがどうした!」
「もう地球人と同じです。それをルーツが違うというだけでそのように言われるのですか!」
「悪いか!」
 最早話にもならなかった。
「異星人なのには変わりがない!何百年経とうがな!」
「クッ!」
 オオミヤは激昂しかけた。まだ何か反論しようとする。だがそこでモニターが消えた。
 エリが消したのであった。モニターは完全に暗黒の中に消えてしまっていた。
「安西博士」
「事故が起こったようね」
 彼女はしれっとした顔でこう言った。
「モニターが突然故障したわ。暫く使えないわよ」
「済まない」
「事故よ。別にお礼なんていいわ」
 そう言って笑ってみせた。
「それに。あのことが知れたらまたことだしね」
「あれか」
 オオミヤには『あのこと』が何かよくわかっていた。
「あれはな。確かに三輪長官に知れるとうるさいな」
「でしょう?シラカワ博士に渡したなんて言ったら。どれだけ怒るか」
「というかあの人はいつも怒っているようだが。本当に日本人か?」
「何でも日本軍でも相当問題があったみたいよ」
「だろうな。日本軍といえばかなり穏健派で知られていた。それであれだからな」
「日本軍じゃ孤立していたみたい。士官学校での成績は優秀だったそうだけれど」
「当時は防衛大学じゃなかったか?あの人が若い頃はまだ自衛隊だった筈だ」
「あら、そうだったかしら」
「自衛隊であれだと。凄いな」
「それで孤立していたのよ。連邦軍でもずっと日陰だったみたいだけれど」
「そうだろうな」
 オオミヤはそれに妙に頷くところがあった。
「岡長官やミスマル司令がおられたからな。アデナウヤー次官も持て余しておられるようだし」
「というか完全に厄介者扱いよ。政治家の方は」
「やっぱり」
「そのうちえらいことになると思うけれどね。とりあえず今はあのままよ」
「大変だな、何かと」
「まあ気にしない気にしない。それと一つ気になることがあるの」
「まだ何かあるのかい?」
「中国の殷墟でね。また遺跡が見つかったらしいの」
「遺跡が」
「けれどすぐに消えたらしいの。それを発掘した白いスーツの男も姿を消したそうだし」
「白いスーツの男!?」
 オオミヤはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「幻惑のセルバンテスか!?彼は死んだ筈だが」
「彼だけでなくBF団自体がね。壊滅したわ」
「そうだったね」
 BF団は国際エキスパートとのバベルの塔の決戦で崩壊した。十傑集は壊滅、三つの護衛兵団はジャイアントロボとの戦いに敗れ首領である謎の少年ビッグ=ファイアもまた黄帝ライセとの最後の決闘に敗れ姿を消した。軍師であった諸葛孔明と十傑集、そしてビッグ=ファイアの生死は確認されていないがとりあえずは戦いは終わったのである。だがBF団の影はまだ消えてはいなかったのだ。それはエリとオオミヤの言葉からもわかった。
「そういうことになってるな」
「けれどとりあえず彼等の線はないわ」
「それはまたどうして」
「そうした超能力は使わなかったそうだから」
「そうか」
 それを聞いて少し安心した。
「ならいいけれど」
「彼等のことは国際エキスパートに任せておいていいわ。九大天王も健在だしね」
「ああ」
「問題はね。その男が何処から来て何処に消えたかがわからないということなのよ」
「つまり何者かすらもわからない」
「何でも中国人らしいけれど」
「中国人といっても多いだろう」
 オオミヤはそれを聞いてこう返した。
「ロンド=ベルにもかなりいるし。サイシーにしろウーヒェイにしろ」
「ええ」
「ヤンロンもそうだな。一口に言っても多いぞ」
「それ位しかわからないのよ。だから余計に不安なの」
「困ったな」
「それも気になるしね。シラカワ博士も何考えているかわからないところもあるし」
「彼は確か未来で死んだのだったよな」
「そうよ」
 エリはそれに頷いた。
「マサキ君達の話だとね。ネオ=グランゾンと一緒に」
「それが何故生きているんだ。しかもネオ=グランゾンも健在だ」
「そう。そして私達の前に姿を現わした時も何かが違っていたわね」
「そうだな」
 オオミヤもそれに気付いていた。
「何か。前の彼とは違う」
「相変わらず何か隠しているけれど。怪しさは消えたわね」
「あの怪しさは。何だったのだろう」
「そこに謎があるみたいだけれど。生きていたことと合わせて」
「とりあえず彼もかっての彼ではない」
「ええ」
「それは確かだな。それが吉と出るか凶と出るかはわからないが」
「どう出てもいいようにはしておきましょう。今の彼が信頼できるにしろ」
「そうだな。それじゃあリュウセイ達の乗る新しいマシンの開発も急ぐか」
「そうね」
 二人は研究所でそんな話をしていた。その間にロンド=ベルには新しい仲間が加わっていた。
「はっじめましてえ」
 異様に高く明るい声がナデシコの艦橋に響いていた。
「エクセレン=ブロウニング中尉です。よろしくう」
 金髪に青い目をした綺麗な女性がそこにいた。赤い服は露出も多くかなり派手である。
「ナンブ=キョウスケだ」
 それとは全く正反対の渋い男の声が次にやって来た。
「階級は中尉。宜しくな」
 茶色の髪に長身の青年であった。キリッとした顔立ちに動き易い服装をしている。
「宜しく」
 ユリカは二人に対してにこやかな顔で応じた。
「ロンド=ベルへようこそ」
「はい」
「ああ」
 二人はユリカの言葉にそれぞれ頷いた。
「楽しくやりましょうね。仲良く」
「戦場でそれはちょっとねえ」
 エクセレンはその言葉にはちょっと戸惑った。
「ましてやロンド=ベルなんて最前線にいつもいるし」
「最前線だからこそよ」
 だがユリカはそんなエクセレンに対して言った。
「楽しくやらないと。参ってしまうでしょう?」
「ううん」
「確かに一理ある」
 エクセレンとは対象的にキョウスケはそれに頷くところがあった。
「キョウスケ」
「戦場だからな。だからこそ何処かで息抜きが必要だ」
「そういうことです」
「しかし。またここは極端だな」
「あらっ」
「何か。最前線にいる気がしない。何処か和やかさがある」
「艦長がこうだしね」
 ハルカが話に入ってきた。
「仕方ないわよ。まあリラックスしていきましょう」
「そうか」
「お酒でも飲みながらね。後でゆっくりと」
「えっ、お酒!?」
 酒と聞いたところでエクセレンが目を輝かせた。
「お酒あるの!?」
「ええ」
 ハルカはにこりと笑ってエクセレンに応えた。
「たっぷりと。ブランデーなんてどうかしら」
「もうさいっこう!私も持ってるんだけれど」
「何かしら」
「ナポレオン。後で二人で飲まない?」
「いいわね。それじゃあ大人のお酒を」
「楽しみましょう」
「何か話がまた別の方向に行っちゃっていますけれど」
 ルリがそれを見ながら言った。
「御二人共これから宜しくお願いしますね」
「ああ。宜しくな」
 キョウスケはそれに頷いた。
「思う存分やらせてもらう」
「はい。ところで一つ御聞きしたいことがあるのですが」
「何だ」
「四人参加されるとのことですが。あとの御二人は何処でしょうか」
「今格納庫にいる筈だ」
「格納庫ですか」
「俺達と違って何かせわしい連中でな。口喧嘩をはじめていた」
「喧嘩ですか」
「心配なら行ってみればいい。まあいつものことだから気にすることもないがな」
「わかりました」
 キョウスケの言葉は当たっていた。この時ナデシコの格納庫で一組の男女が言い争っていた。
「もう、何であんたはいつもそうなのよ」
「いつもと変わらないがな」
 赤い髪を立たせた男に対して紫の髪の女がつっかかっていた。男はまるでロックシンガーの様な格好だが女は連邦軍の軍服を着ていた。だがその野暮ったい連邦軍の服からもはっきりとわかる程見事なプロポーションであった。
「そのいつもが問題なのよ」
 大人びた外見に似合わず声はやけに可愛らしいものであった。
「あんたみたいな非常識なの。見たことはないわ」
「そうか」
「そうかじゃないわよ。大体ねえ」
「何か騒がしいな」
 それを聞いて一矢達が格納庫に入って来た。
「新しいメンバーが加わったらしいが。それか」
「ナナみたいに子供じみた声だな」
「京四郎さん、それどういう意味よ」
 京四郎とナナも一緒であった。三人はそこでその二人を見た。
「君達かい?新入りのパイロットは」
「あっ」
 女の方がそれに気付いた。
「ロンド=ベルの人ですよね」
「ああ、そうだけれど」
 一矢がそれに応えた。
「君達がその新入のパイロットだよね」
「はい」
 女はにこりとした顔で頷いた。
「アクア=ケントルムです。そしてこっちが」
 自分の名を名乗りながら男を左手で指し示した。
「ヒューゴ=メディオだ。階級は少尉だ」
 男は素っ気無くそう答えた。
「私も階級は少尉です」
 アクアはにこやかに笑ったまま言う。
「前は特殊部隊にいた。ガルムレイドに乗っている」
「ガルムレイド」
「確か連邦軍で開発されていたマシンだったな」
「知っているのか」
 京四郎の言葉に反応した。
「ああ。マジンガーやダイモスを研究して開発されたと聞いている」
「ダイモスを」
「そうだ。それでそちらの研究所に行ったこともあったが。気付かなかったか」
「済まない、俺はその時火星にいたと思う」
「そうか」
「だからそれは知らなかったんだ」
「では仕方ないな」
「私はサーベラスに乗ってます」
 今度はアクアが言った。
「こっちはモビルスーツやエステバリスを参考にしました」
「エステバリスをか」
「はい。元々はサーベラスもガルムレイドも二人乗りだったんですけれど開発の途中でそれぞれ一人乗りになりまして。それで私がサーベラスに乗ってるんです」
「そうだったのか」
「はい。これから宜しくお願いしますね」
「ああ。こちらこそ」
 一矢はにこやかに笑って頷いた。
「宜しく」
「はい。何か竜崎君って優しいですね」
「竜崎君!?」
 一矢はその言葉にキョトンとした。
「あの、今竜崎君って」
「だって年下ですから。貴方の方が」
「俺が年下!?」
 今度は戸惑った顔になった。
「あの、俺十七なんだけれど」
「知ってますよ」
 アクアはにこやかに笑ったままだった。
「話は聞いていますから」
「けど年上って」
「二十三です」
「二十三!?」
「何っ!」
 いつもは冷静な京四郎もそれを聞いて驚きの声と顔になった。
「二十三」
「はい。それが何か」
「いや。実は」
「はい」
 アクアはここでロンド=ベルのメンバーの年齢について聞いた。何と十代が殆どで二十代はあまりいないとのことであった。特にパイロットでは少ないという。アムロやフォッカー等数える程しかいないという。それを聞いたアクアは愕然とした。そして気がつけばハルカやエクセレン達と飲んでいた。
「もう、二十代がいないって何なのよ」
 アクアはブランデーをストレートで飲み干してからこう言った。
「私まだ二十三よ。花も恥らう乙女なのに」
「まあまあ」
 そんな彼女をハルカが宥める。
「何でおばさんなのよ、ここじゃ。士官学校を出てまだちょっとしか経っていないのよ」
「へえ、貴女士官学校卒業だったんだ」
「あれっ、言いいませんでしたっけ」
 エクセレンに顔を向けた。
「これでもそうなんですよ。その時はもてたんだけどなあ」
「もてたの」
「顔も声も可愛いってよく言ってもらえたのに。何かあのヒューゴと一緒になってからずっとこんな感じなのよ」
「ここの子達も大体そうよ」
「そうなの」
 ハルカにそう言われて急に力が抜けたようになってしまった。
「ガッカリ」
「年下は嫌いかしら」
「あまり。やっぱり渋いおじさんじゃないと」
「じゃあブライト大佐なんかは?」
「妻子もちは修羅場になるらしいから」
「不死身の04小隊はどうかしら」
「何か。やっぱり渋さとダンディさがないと」
「何か難しいわね」
「ヒューゴばっかりだったから最近側にいる男って」
 そう言ってまたぼやく。
「気がついたらここにいて。何かあっという間に年だけとっちゃうわね」
「けどうちには私達より年上がいるわよ」
「誰」
「ミサトさんとか。リツコさんとか。マクロスにも早瀬さんやクローディアさんがいるわよ」
「早瀬さんも」
 それを聞いたアクアの顔色が変わった。
「ここにおられるんですか」
「知らなかったの?」
「はい」
 エクセレンにそう応えた。
「今はじめて知りました。凄い人がいるんですね」
「あの人ってそんなに有名だったの?」
「何でも士官学校で伝説的な秀才だったらしいわよ」
 エクセレンにハルカがそう説明する。
「それで今でも女生徒の憧れの的なんですって」
「そうなんだ」
「私もあの人みたいになれたらなあ」
「努力すれば?」
「なれるかな」
「そうね。貴女も彼氏の一人でも持てば」
「うっ」
 何故かそれを言われると言葉を詰まらせた。
「変わると思うけれど。どうしたの?」
「いや、ちょっと」
 どういうわけか急に大人しくなった。
「実は、私」
 アクアは口篭もりながら告白した。
「あまり・・・・・・男の人とお付き合いしたことないのよ」
「何だ、そうだったの」
「それはっきり言わないと」
「この年で。キスとかもまだ」
「それはまた奥手ね」
「今時珍しい位」
「あまりそうした機会なくて。ずっと訓練とか勉強ばかりだったし」
「それで側にいるのがヒューゴなのね」
「はい」
「それは駄目よ。もっとこうまともな人と付き合わないと」
「ヒューゴ君ってまともじゃないの」
「まあちょっと変わってる位かな」
「何だ、それならロンド=ベルのメンバーは皆そうよ」
「濃いわけ、それは」
「うちだってヤマダさんとかいるし。まあ個性派揃いよ」
「ダイゴウジだ!」
 ここで何処からか声が聞こえてきた。
「俺はダイゴウジ=ガイだ!誰だ今言った奴は!」
「ほらね」
「ニュータイプ並の耳ってわけね」
 それを聞いて流石にエクセレンも呆れてしまった。
「かなりびっくり」
「他にも一杯いるし。特に新規加入の熱気バサラ君」
「ああ、ファイアーボンバーの」
「そう。彼なんかもう凄いわよ」
「熱気バサラってロックシンガーの」
「貴女も知ってるみたいね」
「そりゃまあ。有名人だし」
 アクアはそれに頷いた。
「ここに参加したって聞いたけどやっぱり」
「彼はとにかくね。派手好きで唯我独尊だし」
「きついわね」
「そんなメンバーばかりだから。結構付き合うのは骨が折れるかもね」
「まあ私も個性派だって自覚してるけれど」
 エクセレンは比較的落ち着いていた。
「アクアちゃんはどうかなあ」
「わ、私は」
 また戸惑う。
「あまり。何ていうか」
「常識なんか捨てちゃった方がいいわよ」
 そんな彼女にハルカが言う。
「さもないと疲れるだけだから。気楽にいきましょ」
「気楽に」
「そうそう。ほんわかとね」
「はあ」
 そんな話をしながら三人は酒を囲んで話をしていた。同じ年代同士で飲むとやはり酒が進むらしい。何瓶も空にしてそこに酔い潰れてしまった。
「それで三人が寝込んでるわけね」
「はい」
 ユリカはルリから報告を受けていた。ルリは報告を終え静かに頷いた。
「二日酔いは薬で防ぎましたけれど」
「じゃあ問題はないわね」
 ユリカはそれでよしとした。
「後は起きた時に仕事をしてもらうから。それまで休んでもらって下さい」
「それでいいんですか」
「あら、何かあるの?」
「処分とかは為さらないのですか」
「処分って何を?」
 ユリカはそれを聞いてキョトンとした顔になった。
「お酒を飲んだだけなのに」
「連邦軍では艦内飲酒は原則として禁止ですが」
「そうだったの」
「御存知なかったですか」
「初耳よ、それ」
「はあ」
 ルリはそれを聞いてもとりたてて呆れるでも困るでもなかった。淡々とした様子であった。
「とにかく戦闘までに復帰してくれればいいわ」
「わかりました」
「それに艦内飲酒禁止っていってもうちは民間人が多いし」
「はい」
「不問にしましょう。あまり堅苦しいのもあれだし」
「いいのですか?三輪長官がまた」
「気にしない気にしない」
 何とあの三輪ですら気にしないとまで言い切った。恐るべき胆力であった。
「今宇宙なんだし。何も言って来ないわよ。地球に着いても何だかんだで言い繕っちゃいましょう」
「わかりました」
「それでいいですね」
「はい」
 こうして艦内飲酒の件は何もなしで終わった。そして暫く経ってからハルカ達は復帰してきた。ハルカはしっかりとした足取りでナデシコの艦橋に戻ってきた。
「丁度休憩時間が終わった頃みたいね」
「はい、丁度その時間です」
 ハルカが艦橋に戻って来るとメグミがそう声をかけてきた。
「ジャストですよ」
「そう」
 ハルカはそれを聞いて微笑んだ。
「だったらいいわ」
「エクセレンさん達と一緒だったんですね」
「ええ」
「何かありました?」
「あったわよ」
 ハルカは苦笑してメグミにそう答えた。
「エクセレンって飲んだら凄いのよ」
「そうなんですか」
「もう絡んで絡んで。酒癖が悪いったらありゃしないわ」
「それはまた」
「まあ楽しかったけれど。また一緒に飲もうかしら。メグミちゃんもどうかしら」
「あっ、私はちょっと」
 そう言って断ろうとする。
「お酒はあまり強くないですから」
「そう、残念ね」
「できればカラオケなんかでも。ご一緒できればなあ、なんて」
「それじゃあそれでいこうかしら。エマ中尉も誘って」
「声が似てるんでわかりませんよ、それだと」
「それでリィナちゃんなんかも。面白くないかしら」
「何で声が似てるんでしょうね。全く違うタイプなのに」
「不思議だけどね、それ。じゃあ仕事仕事」
「今地球に向けて航路をとっています」
「はいは~~い」
 ルリの報告に頷く。
「そのまままっすぐでお願いします。今は敵の報告はありません」
「静かなものね」
「こういう時にいきなり出るんですけれどね、いつも」
「いきなりね」
 そう言った時だった。突如として警報が鳴った。
「噂をすれば」
「何とやら」
 皆それに反応した。そしてレーダーを見る。
「横からね」
「これは・・・・・・ポセイダル軍ですね」
 メグミはレーダーを見ながら言った。識別反応は確かに彼等のものであった。
「数は六百程。結構いますね」
「毎回毎回あれだけやられてるのに減らないわね。やっぱり何処かで補給を受けているのかしら」
「おそらくそうだと思います」
 ルリがそれに答えた。
「話によると今冥王星付近にヘルモーズが来ているそうです」
「やっぱり」
「遂に」
 ハルカ達はそれを聞いて来るべきものが来たと思った。
「そしてこちらに向かって来ているそうです。おそらくそこから補給を受けていると思われます」
「ヘルモーズが」
「じゃあまたラオデキアが」
「おい、奴は死んだ筈だぜ」
 既に何機かが出撃していた。モンシアがそれを聞いてモニターに出て来た。
「ユーゼスを自分の手で倒した後俺達の手でな。はっきり見たぜ」
「クローンかも知れません」
 ルリはそれに対してこう言い返した。
「バルマーのクローン技術はかなりのものと聞いていますから」
「クローンかよ」
 モンシアはそれを聞いて嫌な顔を作った。
「何かそうしたことが好きな連中だな、おい」
「まあそれが彼等のやり方なのよ」
 ハルカは彼に対してこう述べた。
「気にしないでね。こっちだってそれなりのことしてるから」
「それなりって何だよ」
「前の戦いで勝ったでしょ、それよ」
「俺達はただ侵略者を撃退しただけだぜ」
「向こうは振られたと思っていたり。男心って複雑だから」
「変な例えだな、おい」
「まあそれは気にしないでね。じゃあ頑張ってね」
「何かエマ中尉と同じ声で言われるとな」
「それは言いっこなし」
 ハルカはモンシアに対してもいつもの調子だった。彼はその間に小隊と合流し戦闘配置に着いた。その頃にはもうロンド=ベルは戦闘配置を終えていた。
「何かあの連中も思い出したように来るわよね」
 アムはエルガイムの中でこうぼやいていた。
「しつこいのかそうじゃないのか今一つわからないわ」
「しつこいって言えばしつこいね」
 レッシィがそれに応えた。
「何度も何度も出て来るからね。所構わず」
「そういや地上でも戦ったっけ」
「何処でも出て来るからね。ゴキブリみたいに」
「じゃあギャブレーはゴキブリの大将か」
「ははは、そういえばそうだ」
 レッシィはそれを聞いて笑った。
「粘着だしね」
「あんな顔でね」
「好き勝手言ってくれるな、相変わらず」
 そしてお約束のように前から声が聞こえてきた。
「あら」
「噂をすれば何とやら」
「かっては同僚だったというのに。よくもそれだけ言えるものだ」
「同僚ってあの時あんた十三人衆じゃなかったと思うんだけれどね」
「うっ」
「あっ、そういえばそうだった」
 アムもそれに気付いた。
「やいギャブレー、自分の経歴を詐称するな」
「だからせこいと言われるんだよ」
「せこい、私が」
 流石に言われっぱなしでありまた言われたのでムッときた。
「それは聞き捨てならないぞ」
「食い逃げしておいて何言ってるんだか」
「あれは」
「他にも色々あったじゃない。それでどうやって言い繕えるってのよ」
「貴様等を倒してだ」
 苦し紛れにそう言い訳をした。
「来い。今度こそ決着をつける」
「ダバ、いいかな」
 アムはエルガイムでダバの方を振り返って問うてきた。
「あたしをご指名みたいだけれど」
「何で俺に聞くんだい?」
 今まで話に入れずにいたダバはエルガイムマークツーのコクピットの中でキョトンとしていた。
「いや、あんたといつもやりあってるから。一応断っておこうと思って」
「俺は構わないけれど」
「じゃあやらせてもらうね。レッシィ、あんたはどうなの?」
「あたしもそれでいいよ」
 レッシィも特に異論はなかった。
「敵は周りにも大勢いるからね。そっちをやらせてもらうよ」
「それなら。じゃあギャブレー、行くよ」
「雪辱、今度こそ晴らしてくれる」
「まあ来たらいいよ。存分に相手してあげるから」
「参る」
「ちょっと待って下さいおかしら」
「ヌッ」
 しかしいいところでハッシャが止めに入ってきた。
「どうしたのだ、一体」
「まだ本隊が到着していやせん。このままだとあっし等袋叩きですぜ」
「言われてみれば」
 本隊はまだかなり後ろであった。実はアム達の言葉を聞いたギャブレーはカチンときて自分達だけ突出してしまっていたのである。
「ここは一旦下がりやしょう」
「しかしだな」
 それでも彼にも意地があった。
「あの小娘を」
「あいつの相手は後でもできやす。けれど今ここにいたら」
「ウヌヌ」
 ハッシャの言うことは正論であった。確かにこのままでは敵軍に包囲されかねない。それがわからない程ギャブレーも愚かではなかった。
「わかった。少し退こう」
「はい」
「アム、とりあえず勝負は少し待て」
「相変わらず抜けてるね、あんたも」
「そんなことはどうでもいい。だがそれでいいな」
「あたしは別にいいよ。じゃあ後でね」
「うむ」
 こうしてギャブレーは少し下がった。そして程なく本隊と合流した。ヘビーメタルの大軍であった。
「ギャブレー君、一人目立とうというのは少し薄情ではないかな」
 指揮官はギャブレーの他にマクトミンもいた。彼は不気味な笑みをたたえたまま合流してきたギャブレーに対して問う。
「私も目立ちたいのだがね」
「失礼した」
 ギャブレーはそれに対して素直に謝罪の言葉を述べた。
「どうも。カッとしてしまった」
「ふむ」
「私もまだまだ指揮官として未熟だということか」
「そんなことはない。貴殿はよくやっている」
 だがマクトミンはそんな彼を謗るわけでもなく逆に褒め称えてきた。
「若さも。上手く使っている」
「若さも」
「そうだ。貴殿はまだ若い。その若さをどう活かしていくかが今後に大きく影響する」
「そうなのか」
「貴殿を見ているとかっての私を思い出すのだよ」
 彼は笑ったままこう言った。
「面白い。そのまま成長したまえ」
「かたじけないお言葉」
「そして名を挙げるのだ。貴殿ならできる」
 どういうわけか彼はギャブレーが気に入っているようである。親しげに言葉をかけていた。
「では今回私はもう一人の若者に向かわせてもらおう」
「ダバか」
「そう。見たところ彼も立派な若者だ」
 彼はそう言ってダバを見据えていた。
「敵だが。このまま永遠に競いたいものだ。ライバルとして」
「ライバル」
「ギャブレー君、ライバルとはいいものだよ」
 彼はまた言った。
「互いに切磋琢磨し合えるからね。実に素晴らしい」
「そう言われると私とダバがそう見えないわけでもないな」
「そういった見方は確かに可能だ」
 マクトミンはそれに頷いた。
「貴殿と彼はライバル関係にあると言ってもいい」
「ふむ」
「そしてライバルとは一人とは限らないのだよ。だから私も彼のライバルとなる」
「そういうことなのか」
「そうだ。では私はそのライバルとして今回の戦いをやらせてもらおう。それでいいな」
「うむ」
 ギャブレーはそれに頷いた。
「思う存分戦われるがよかろう」
「その言葉感謝する。では」
 マクトミンは動いた。そしてダバの方に向かって飛んで行った。
「では私も」
 ギャブレーもそれに続いた。そしてアムに向かう。それと同時に戦いがはじまったのであった。
「ヒューゴ、あたし達も出るわよ!」
 殆どのパイロット達はもう出撃していたがエクセレンやアクア達の部隊は細かい調整等で遅れていた。キョウスケとエクセレンが出撃し今アクアとヒューゴが出撃しようとしていた。
「それは構わないが」
「何よ」
 ヒューゴに言われてムッとした顔になった。
「言いたいことがあるのなら言いなさいよ」
「その格好で乗るつもりか?」
「その格好って・・・・・・あっ」
 言われてようやく気付いた。アクアは連邦軍の軍服のままだったのである。如何にも動きにくそうな膝までのタイトスカートであった。ジャクリーヌが着ているものと同じものである。
「まともな操縦ができるのか、それで」
「そんなのもっと早く言いなさいよ」
 恥ずかしさを隠す為か逆キレしてきた。
「わかったわよ、脱げばいいんでしょう。脱げば」
「脱げばって」
 格納庫で後始末に携わっていたキャオがそれを聞いて呟く。
「脱いだらすぐに乗れるのかよ」
「ええ。私は」
 そう言いながら服に手をかけてきた。まずはスカートである。
「下に服着てるから」
「服って・・・・・・。下着じゃないのかよ」
「いいから。すぐわかるから」
 そしてスカートを脱いだ。見事なラインの両脚がそこから現われる。
「うわっ」
 キャオはその脚を見て思わず声をあげた。だがアクアはそれに構わず今度は軍服の上も脱いだ。
 そこから黒い水着に似た服が現われた。その下には見事なまでのプロポーションがあった。モデルとしても通用するような身体であった。
「この服。操縦用の服だから」
 アクアは服を脱ぎ終えキャオに対してこう言った。
「これでいいんでしょ、ヒューゴ」
「ああ」
 だがヒューゴは目の前にそれだけの肢体を見ながらも平然としていた。
「じゃあ行くぞ。早く乗れ」
「わかってるわよ。じゃあ行くわよ」
 そしてアクアはサーベラスに乗り込んだ。そして二人も出撃するのであった。
「またえらく派手なパイロットスーツだな」
 キャオは二人が出撃したのを見送ってこう呟いた。
「何か。いいもの見させてもらったぜ」
「アヤさんのも凄いですけれどね」
「あっ、あんたもいたんだ」
 見ればそこにはホウメイもいた。
「ええ。ちょっと手伝いに来ました。今厨房は暇ですから」
「そうだったんだ。まあこっちもこれでとりあえずは終わりだぜ」
 キャオは笑いながらこう述べた。
「しかしねえ。可愛い声と顔してあんな身体してたなんて。何か凄いよな」
「うちの部隊って結構可愛い娘多いですしね」
「そうそう、それがすっごく嬉しいのよ、俺としては」
 話が乗ってきた。
「やっぱり同じ戦場にいるんなら周りに花がある方が」
「あれ、女の子にも興味があるんですか」
「ない訳ないじゃないか。やっぱり女の子は最高だよな」
「食べ物は」
「そっちも同じ位最高。もういつも腹が減って腹が減って」
「じゃあ今から何か作りましょうか」
「おっ、何を」
「ラーメンでも。どうですか」
「いいねえ、ホウメイさんのラーメン最高だし」
 今度は食べ物に乗ってきた。
「それじゃあ三杯程もらおうかな」
「それだけでいいんですか?」
「あれっ、まだあるんですか?」
「はい。たっぷりと」
「それじゃああるだけ」
「わかりました。では行きますか」
「了解」
 二人は仕事を終えキッチンに向かった。だが戦場では今激しい戦いがはじまっていた。それはダバやアム達だけではなかった。
「やっぱ敵が多いってのは楽しいな!」
 リュウセイは敵の大軍を前にしても臆してはいなかった。R-1で敵を次々に倒していく。
「見渡す限りだからな!派手にやらせてもらうぜ!」
「派手にやるのもいいが周りはよく見るようにな」
「ライ」
「俺も攻撃をする都合がある。いいな」
「何だよ、サポートに回るんじゃないのかよ」
「今回はそうも言っていられない」
 ライはそう言って前にミサイルを放った。
「敵は多い。それに何か得体の知れない奴もいる」
「得体の知れない奴?」
「あれだ」
 そう言って敵の奥深くを指差した。そこに謎の敵がいた。
「あれは一体何だ」
「ん!?ヘビーメタルだろ」
 リュウセイは特に考えなしにこう応えた。
「ヘビーメタルの部隊だしよ」
「御前はそう思うか」
「何だよ、違うっていうのかよ」
「俺はそう思うがな」
 その謎のマシンを疑念で満ちた目で見ていた。
「あれは。何かが違う」
「じゃあ何なんだよ」
「バルマーか。そうしたものではないのか」
「バルマー」
 それを聞いたレビの顔色が変わった。
「知っているか、レビ」
「あんなのは見たことがないけれど」
 レビはそのマシンを見ながらライに答えた。
「けれど。何か似たものは感じる」
「似たもの」
「やはり」
「どちらにしろ警戒するべきなのは事実みたいね」
 三人の話をまとめるようにしてアヤが言った。
「三人共、気をつけて」
「了解」
「強敵なのか、やっぱり」
「多分ね。若し本当にバルマーのマシンだったとしたら」
 アヤは言葉を続ける。
「厄介よ。遂に主力を送り込んできたということだから」
「では兄さんが」
 タケルがそれを聞いて顔色を変えた。
「地球に戻って来たということか」
「可能性はあるわ」
 アヤはそれに頷いた。
「貴方も、そしてお兄さんもバルマー星人なのよね」
「ああ」
「あの時お兄さんは生きて連れ去られた。それなら何時戻ってきてもおかしくはないわ」
「じゃあ兄さんがあの中に」
「いや、違うな」
 しかしそれはレビによって否定された。
「違うのか」
「あのマシンにはもっと別のものを感じる」
 彼女は言った。
「何か。不気味さと得体の知れなさを」
「バルマー帝国ってオカルトも入ってたんだ」
 エクセレンがそれを聞いて言った。
「何か盛り沢山の帝国ね」
「伊達に銀河に覇を唱えているわけではない」
 そしてレビもそれを認めた。
「ユーゼスですらあの帝国ではほんの一軍人だったのだ。それだけでもわかるだろう」
「ラオデキアもそうだったな」
「それだけの帝国だ。どんなマシンが出て来てもおかしくはない」
「だとしたらあれも」
「そう。可能性は否定できない」
「で、どうするんだ」
 リュウセイはレビの話が終わったのを見計らって声をかけてきた。
「あいつをやっちまうのかい?」
「やるのか」
「ああ。どのみちここにいるんだろ?じゃあ早いとこぶっ潰しておいた方がいいじゃねえか」
「また短絡的だな」
 ライはそれを聞いて呆れたように言った。
「もう少しまともに考えられないのか」
「まともに考えてもやられる時はやられるものさ」
「それもそうだな」
 キョウスケがそれに同意した。
「では一気に叩き潰すとするか」
「おっ、話がわかるねえ」
「敵であれば容赦はしない」
 キョウスケは静かに言った。
「それだけだ」
「じゃあ行くか」
「あっ、待って」
 だがそんな二人をアヤが呼び止めた。
「何だよ」
「二人で行くつもりなの?」
「ん!?何かあんのか?」
「はじめて見る敵に二人だけじゃ危険よ。私も行くわ」
「仕方ないな」
 ライも動いた。
「同じチームだ。行くとするか」
「では私もだな」
 レビも続いた。こうして五機のマシンがその謎のマシンに向かった。
「それじゃあ私達は周りの敵の相手をするわね」
 エクセレンはフォロー役に回ることにした。
「二人もそれでいいかな」
「ああ」
「何か強引に決められちゃってるけど」
 ヒューゴは特に感情を露わにすることなく、そしてアクアは少し不満を抱えたままそれぞれ頷いた。そして彼等はコスモクラッシャー隊と共に五機のフォローに回ることになった。
「何かゴッドマーズって側で見ると余計に大きく感じるわね」
「いや、もっと大きなのもありますよ」
 タケルは横に来たアクアに対してこう言った。
「ザンボットもそうだしダイターンも」
「ダイターンも」
「あれは一〇〇メートル以上あるから。ゴッドーマーズなんか比べ物にならないよ」
「うわ」
「これ有名だけど。知らなかったんですか?」
「えっ、あのその」
 アクアはタケルの問いに慌てた顔になった。
「データでは知ってたけれど。実物はね」
「知らなかったんですか」
「私実戦経験はあまりないから」
「あれっ、けど士官学校を出られて」
「それでも。この戦いが初陣みたいなものだし」
「そうだったんですか」
「タケル君はもう結構実戦経験あるわよね」
「ええ、まあ」
 タケルは特に何もなくそれに頷いた。
「ロンド=ベルにはナデシコが合流した時からいますから」
「そうなの。何か凄い戦いを経てきているのね。まだ十七なのに」
「まあ勝平君達なんか十三ですし」
「十三」
 それを聞いてギョッとした顔になった。
「まだ中学生じゃない、それじゃあ」
「おいらなんか十歳だよ」 
 コスモクラッシャーからナミダが言った。
「小学生」
 どういうわけかアクアの顔色が悪くなってきた。
「皆若いのね」
「それが何か」
 ケンジが彼女に尋ねてきた。
「あっ、うん。ちょっとね」
 アクアは何とか冷静さを取り戻そうと努力しながら言葉を出す。
「私二十三だから。何かこう」
「まあ歳のことは考えないでおきましょう」
「けどね」
 それでもかなりショックなのは事実であった。
「ついこの前まで士官学校にいたのに。急におばさんになるなんて」
「けどアクアさんって声も顔も可愛いですし。いいじゃないですか」
「可愛いかしら」
「ええ」
 ミカのフォローに少し気をよくさせた。
「あまり気にしないでいいと思いますよ」
「そうそう、二十三といえば花盛り」
「ロンド=ベルってこういう大人の雰囲気が少ないからね」
「あら、お言葉ね」
 ナオトとアキラの言葉に応えるかのようにモニターにエマとケーラ、そしてジュンコが出て来た。
「ゲッ」
「ゲッ、じゃないわよ。大人の女がどうしたのかしら」
 まずジュンコが二人に尋ねてきた。
「よく聞かせてもらいたいわね」
「大人の女がどうだとか。面白いことを言ってくれるじゃない」
「い、いやまあそれは」
 アキラはかなり焦っていた。
「何でもないですから、何でも」
「大人の雰囲気が知りたかったら何時でもラー=カイラムかアルビオンにいらっしゃい」
「それかマクロスの艦橋に。早瀬中尉が待っていてくれるわよ」
「あの人が」
 それを聞いてナオトの顔が青くなった。キザな雰囲気を気取っている彼も早瀬だけは苦手なのであった。彼女はロンド=ベルの生活指導員となっていたのだ。
「こう見えてもロンド=ベルは大人の女が多いんだから」
「甘く見たら駄目よ」
「はい」
「それじゃあね」
「健闘を祈るわ」
 こうして三人はモニターから消えた。その恐ろしさにアクアも絶句していた。
「凄いわね、やっぱり」
「まあロンド=ベルだから」
「ミカ、フォローになってないぞ」
 ケンジが言った。
「だがいい。それよりも敵が来た」
「おっと」
 アキラがそれに反応した。もう気持ちは戦場に切り替わっていた。
 そしてナオトが攻撃を放つ。そしてその敵を撃墜した。
「うわあ」
 その軽やかな動きを見てアクアは賞賛の声をあげた。
「すっごおい。これがエースなんだ」
「って何呑気なこと言ってるのよ」
 エクセレンが彼女に突っ込みを入れる。
「貴女も頑張りなさい。ヒューゴ君なんかもう二機も撃墜してるわよ」
「二機も」
「そうよ。彼に負けたくないでしょ。だったら頑張る」
「は、はい」
 アクアはそれに頷いた。そしてサーベラスを動かす。
「私について来てね」
「了解」
 何時の間にかエクセレンに引っ張られる形となった。こうして彼女も戦場を駆け巡ることとなった。
 その時キョウスケ達はその謎のマシンと対峙していた。それは赤い、悪魔の様な外見を持っていた。
「見るからに縁起が悪そうだな」
 リュウセイがそのマシンを間近で見て呟いた。
「何か。髑髏まであるし。如何にもって感じだな」
「そうかしら。今までのバルマーとは雰囲気が違うけれど」
「確かに」
 ライはアヤの言葉に頷いた。
「このマシンは別のものではないのか」
「別のもの」
「バルマーのものかも知れないが。正規のバルマーの技術からは離れた。そんな感じがする」
「じゃあまた他の惑星の」
「いや、違うと思う」
 しかしそれはレビが否定した。
「バルマーが征服した文化にはあのようなものはなかった」
「では一体」
「よくはわからないが。ユーゼスのそれにも似ている。あのアンティノラに似た禍々しさだ」
「アンティノラ」
 かってレビが乗りユーゼスが乗っていたバルマーのマシンである。その凶悪なまでの強さは彼等もよく覚えていた。
「じゃあこれもあのアンティノラと同じだけの強さを」
「可能性はある」
 レビはまた言った。
「用心しなければ。さもないと」
「貴方達は誰ですか?」
「ンッ!?」
 ここでこの赤いマシンから声が聞こえてきた。
「地球の人達ですか?」
「この声は」
 それは少女の声であった。そして五人のモニターに青い髪の少女が現われた。
「なっ」
 その顔を見てまずキョウスケが声をあげた。
「エクセレン、いや違う」
「エクセレン。それは誰でしょうか」
 彼女はそれを聞いてキョウスケに問うてきた。
「貴方の大切な人でしょうか」
「何者だ、こいつ」
 それは他の四人も聞いていた。リュウセイはその話し声を耳にして不審感を露わにしていた。
「人間みてえだが」
 この場合はバルマー人も入る。彼等もDNA等は地球人と変わらないということを知っているからである。
「私は人間です」
 彼女はリュウセイの言葉にも応えた。
「ただ、バルマーにいます」
「バルマー人だったのね」
「やはり」
 アヤとライがそれぞれ頷く。
「そして地球の人達は私の敵になります」
「だからここまで来たんだよ」
 リュウセイは言い返した。
「覚悟しやがれ。ギッタンギッタンにしてやるぜ」
「ギッタンギッタン」
 それを聞いて感情の篭らない声で反芻する。
「聞いたことのない言葉です」
「じゃあ今教えてやるぜ」
 そう言って突進した。
「こうやるんだよ!」
 そしてブーストナックルを放つ。しかしそれは呆気無くかわされてしまった。
「なっ!?」
「これがギッタンギッタンですか」
 かわした後でまた言った。
「わかりました。それでは」
 そしてその腕に剣を取り出した。
「私も貴方をギッタンギッタンにします」
「リュウセイ!」 
 危機を察したライが叫ぶ。しかしリュウセイはそれよりも前に後ろに下がっていた。
「おわっ!」
 そしてその剣をかわした。だが一瞬遅れていれば真っ二つになっていたところであった。
「かわしましたね」
 少女はそれを見てまた言った。
「お見事です」
「こっちはこれでも念動力があるんでね」
「念動力」
「つまり超能力ってやつさ。生憎ちょっとやそっとの攻撃じゃ当たらないんだよ」
「超能力ですか」
「そうさ。バルマー人にはあまりねえみたいだがな」
「それはどうでしょうか」
「何っ!?」
「超能力でしたら私にもあります」
 そう言うと黒い不気味なオーラが彼女を覆ってきた。
「これのことでしょう」
「なっ・・・・・・!」
 リュウセイ達は一瞬目の前で起こったことが理解できなかった。何と彼女の乗る赤い機体が不気味に輝いてきたのだ。
「いきますよ」
「まずい!」
 ライがまず叫んだ。
「ここは退いた方がいい!」
「おい、何を言うんだ!」
 リュウセイがそれに反発する。
「ここで倒しておかなくて何時倒すんだよ!」
「それは何時でもできる!」
 それでもライは言った。
「五機もいるんだぜこっちは!」
「それでもだ!このままでは全滅するぞ!」
「何なら俺だけでも!」
「今の御前でも無理だ!隊長、ナンブ中尉、ここは」
「クッ」
「仕方無いわね」
「おい、アヤまでそんなこと言うのかよ!」
 リュウセイはまだ反発していた。
「敵に背を向けるなんてことできるかよ!」
「退くのも戦争だ!そんなことはわかっているだろう!」
「けどよ!」
「けどよも何もない!今は俺の言う通りにしろ!」
「チッ!」
「そうだ。ここはライの言う通りにしろ」
 突如として低い男の声が聞こえてきた。
「なっ」
「この声は」
 それを聞いてリュウセイ達の動きが止まった。
「リュウセイ、勇気があるのはいい」
「まさか」
 リュウセイ達はその声の主が誰であるのかわかっていた。辺りを見回す。
「だが。引き際を見極めることも必要なのだ」
「そんなことを俺に言うのは」
「一人しかいないわ」
 アヤにもわかっていた。そしてレビにも。
「生きていたのか」
「ああ」
 声は頷いた。
「久し振りだったな。元気にしていたか」
 そして漆黒の影がそこに姿を現わした。それは翼を持った影であった。
「アストラナガン!」
 ライがその黒い影を見て言った。
「イングラム教官、やはり」
「生きていたのですか」
「どうやら俺は悪運が強いようでな」
 その中には青い髪の端整な顔立ちの男がいた。イングラム=プリスケン。かってリュウセイ達の教官でありバルマーにいた男。そして前の大戦でユーゼスと死闘を繰り広げた男であった。その戦いの最後で行方不明になっていたとされていたのである。
「こうして生きている。そしてアストラナガンも健在だ」
 言い終えて笑った。その声も顔も間違いなくイングラムのものであった。
「リュウセイ」
 彼はリュウセイに顔を向けてきた。
「俺からも言おう。今は退くのだ」
「けど」
「けども何もない。今の御前でもこの女の相手は無理だ」
「この女」
「アルフィミィ」
 彼はここで名前を口にした。
「アルフィミィ」
「この女の名だ。バルマーの者だ」
「やはり」
 ライがそれを聞いて頷いた。
「バルマーにおいて兵器として育てられてきた。戦う為にな」
「ラオデキア達とはまた別に」
「そうだ。この女は兵器」
「兵器」
「だからこそ今の御前達でも勝てはしない。人間ではないのだからな」
「馬鹿な、それじゃあ俺達だって」
「御前達とは根本が違うのだ」
 そう言ってリュウセイを下がらせる。
「強いて言うのなら私と同じ。そう、私しか相手にはできない」
「じゃあ」
「ここは任せるのだ」
 彼はあらためてかっての部下達に言った。
「下がれ。いいな」
「あ、ああ」
「了解」
「わかりました」
 リュウセイは渋々、ライとアヤは静かに頷いた。レビとキョウスケもそれに続いた。
「ベルゼイン=リヒカイトか」
「よく御存知ですね」
「当然だ。かっては俺もそこにいた」
 イングラムは言った。
「だからこそ。その機体を止めてみせる」
「私と戦うのですか?」
「その為に甦った」
 そしてまた言った。
「御前だけではない。バルマー、そしてユーゼス」
「ユーゼス」
「その野望を防ぐのが私のこの世界においても仕事だ。行くぞ」
「仰る意味がよくわかりませんけれど」
 アルフィミィは戸惑うことなく言う。
「私の相手をされるというのなら。容赦はしませんよ」
「無論」
 アストラナガンは構えた。
「行くぞ。こちらとてそのつもりだ」
「それでしたら」
 アルフィミィは再び攻撃に入った。
「行きますよ」
「来い」
「アルフィミィ」
 しかしここで彼女のモニターにマーグが出て来た。
「司令」
「イングラムがそこにいるのだな」
「はい」
「ならば相手をするのは危険だ。今は退け」
「退くのですか」
「そうだ。アストラナガンの相手をするにはベルゼイン=リヒカイトはまだ調整不足だ」
 彼は言った。
「相手をするのは調整が万全になってからでいい。わかったな」
「わかりました」
 感情のない声で頷いた。
「それでは撤退します」
「うむ。ところで戦局はどうなっているか」
「我が軍が劣勢です」
 やはり声も顔も人形のようであった。
「そうか。では全軍撤退させよ」
「はい」
「戦いはまだこれからだ。無理をすることはない」
「わかりました。それでは」
 それに応え姿を消した。そしてヘビーメタル達も次々と撤退を開始した。
「あっこら逃げるな!」
「逃げているのではない!」
 ギャブレーはアムに反論した。
「これは名誉ある撤退だ!また会おう!」
「何かあしゅら男爵みたいなこと言ってるな」
「そう言えばまんま同じ言葉ね」
 ジュドーの言葉にルーが頷いていた。
「ではまた会おう、ダバ=マイロード君」
 いささかお笑いが入ったギャブレーに対してマクトミンの方は至って冷静であった。
「貴殿との再会を期して」
 そして彼も戦場を離脱した。こうして戦いは終わった。
「去ったか」
 イングラムは敵が全て撤退した戦場で一人立っていた。そしてこう呟いた。
「教官」
 そんな彼にリュウセイが声をかけてきた。
「何だ」
「生きていたのは何よりだけれどよ」
「うむ」
「それで。何で俺達を助けたんだ?」
「バルマーを倒す為と言えばわかるか」
「バルマーを」
「そうだ。御前達のことはもう心配していないが」
 彼は言った。
「バルマーは遂に人類に対して全面攻勢に出ることを決定したのだ」
「バルマーが」
「銀河で最大の勢力を誇る帝国がその全てを注ぎ込む。それがどういうことかわかるな」
「ああ」
「その証拠が今の女だ。そしてマーグ」
「兄さんが」
 そこにはタケルもいた。兄の名を呼ばれ顔を向けた。
「彼もまた。バルマーにとっては切り札とも言える男だ」
「兄さんが」
「彼を指揮官として向けてきたということがその全面攻勢の証だ。おそらくはかってのラオデキア艦隊以上の戦力を持って来ているだろう」
「あの時以上のかよ」
「ならば。私も戦わなくてはならない」 
 そしてこう言った。
「そしてバルマーを止める。何としてもな」
「だから来たのか」
「そうだ。これから戦いはより激しさを増す」
「今よりも」
「御前達だけでは辛い時もあるだろう。その時にまた私は現れよう」
「俺達と一緒には行かないのか」
「今更それができるとは思っていない」
 そう答えて笑った。
「前の戦いであれだけ干戈を交えたのだ。何を今更」
「気にすることなんてないけどよ」
「それでもだ。ではな」
 そう言ってワープに入った。
「また会う。その時を楽しみにしている」
 そう言い残して姿を消した。こうしてイングラムは何処かへ姿を消したのであった。
「教官」
「とりあえず生きていたのはわかったな」
「ああ」
 リュウセイはライの言葉に頷いた。
「そして俺達の味方だ」
「そうだな」
「それがわかっただけでもいいぜ。それだけでもな」
 それで満足であった。リュウセイにとっては彼が生きていて、そして味方でいるだけで。その他には何もいらなかった。
 ロンド=ベルは再び集結して地球に進路を戻した。ネオ=ジオンと戦う為に。どれだけの敵がいようとも彼らは退くわけにはいかなかったのだ。

 撤退したヘビーメタルとアルフィミィは雷王星付近にいた。そしてそこでバルマーの巨大戦艦ヘルモーズに収納されていた。ギャブレーはその一室にいた。
「また敗れたというのか」
「申し訳ありません」
 そこには銀髪に銀の肌の女がいた。目は左右で色が違っていた。
「そして何の手柄もないし帰って来たと」
「はい」
 ギャブレーはその女に対して申し訳なさそうに頭を垂れていた。
「マーグ様は心優しい方。しかしそれに甘えてはならぬ」
「はい」
「マーグ様が許されてもわらわは許さん。それは覚えておけ」
「ハッ」
「わかったならばよい」
 彼女はそれで話を終わらせた。
「下がるがいい。そして次に備えよ」
「ハッ」
 こうして話は終わった。ギャブレー達の話はである。話は別のところで続いていた。
「以上がオルドナ=ポセイダルからの報告です」
 ヘルモーズの艦橋で一組の男女がいた。美しい顔立ちの少女が整った顔立ちの若者にそう報告していた。
「そうか」
 そして若者がそれに頷いた。
「ヘビーメタル部隊の失態ですが」
「わかっているよ」
「ここまで失態続きですが。どうされますか」
「彼等は必死にやっている。そしてある程度の功績もあげてくれている」
 若者はこう応えた。
「そんな彼等に何もするつもりはないが」
「ですが司令」
「ロゼ」
 彼は少女の名を呼んだ。
「はい」
「あまり彼等を責めるべきじゃない。ロンド=ベルの強さは知っている筈だ」
「ですが」
「今はそれよりもムゲの戦力を向けることを考えよう。シャピロ=キーツだったか」
「はい」
「彼と三将軍にも頑張ってもらう。いいね」
「そのシャピロ=キーツですが」
「彼の経歴も気にはしない」
 彼はそれも不問にした。
「我々は多民族国家だ。君もそうではないのか」
「しかし」
「しかしもこうしたもないよ。地球人だからといって我々と何ら変わりはない。それは覚えておいてくれ」
「わかりました」
「ではこのまま地球圏に向かう。目指すは地球だ」
「はっ」
「地球に着くまで暫く休みたい。私がいない間の指揮を頼むよ」
「わかりました。それではお任せ下さい」
「うん」
 こうして彼は自室に下がった。後にはロゼと呼ばれた少女だけが残った。
「マーグ司令」
 彼女は一人になったところで司令の名を呟いた。
「貴方は優し過ぎるわ。その優しさはバルマーにとっては邪魔なだけだというのに」
 マーグが消えた方を見て呟く。だが彼女はすぐに自分の任務に戻った。
「全艦に告ぐ」
「ハッ」
 周りに幕僚達が現われた。
「我が軍はこのまま地球に向かう。よいな」
「わかりました」
「前に立ちはだかる敵がいれば撃破せよ。一兵も逃すな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 こうしてヘルモーズは地球に向かった。遂にバルマーが本格的に動きだしたのであった。


第五十三話  完


                                    2005・11・13

 
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