ドワォ青年リリカル竜馬
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第1話:再臨のゲッター
海鳴市に位置するとある山の奥深くに、思わず廃墟と間違えそうな――いや、どう見ても廃墟にしか見えないようなボロボロの寺があった。寺の門には木の板切れでできた看板が掛けられ、中々の達筆で『鳥竜館』と書かれている。
寺の中からは男たちの野太い声が聞こえ、加えて細長い棒などが風を切るような音や、束ねた藁を叩くような音も聞こえてくる。どうやら、ここは仏教の寺と言うより、武道の腕を磨く道場のようだ。
「流さァん! 居るんでしょう!? いい加減、金払って貰いたいんですけどねェ!」
そんなボロ寺改めボロ道場の門前に、スーツを着た複数人の男がズラリと並んで声を上げている。どうやら借金の取り立てに来たようだが、その全員がどう見ても堅気の人間ではなかった。
「こっちも慈善事業じゃないんですわ。借りたモンは耳揃えてきっちり返すんが、常識っちゅうもんやろが!」
「おいコラ流ェ! 出てこんかいコラァ!」
男たちは口々に声を上げ、この道場の主である流竜馬を出すよう要求する。
と、そんな男たちの前に、この道場の門下生だろうか、四人の男たちが姿を現す。
ある者はスキンヘッドにヌンチャクを構え、またある男は額に三本線の傷があって頭巾をかぶっていない忍者のような恰好をし、またまたある男はいくらか整った顔立ちの若い青年、そしてどん尻に控えし男は、熊さんというあだ名が似合いそうな髭をしたいかにも力強そうな巨漢。
彼ら四人はこの鳥竜館においてもトップクラスの実力者であり、自らを四天王と呼称していた。
「なんじゃお前ら、流はどうした!」
「すまんが、おぬしらを師範に合わせる訳にはいかん」
そう言うと、四天王の巨漢が一歩前に出る。
「金を払おうにも、その金が今はないのだ。お引き取り願おうか」
「ああ!? 何舐めたこと言うとんじゃワレェ! ワシらはガキの使いじゃあらへんのや!」
「そう言われて、はいそうですかと帰る訳にはいかねぇんだよゴルァ!」
巨漢が言った言葉に対し、借金取りたちはより一層語気を荒らげる。
「そうか……ならば仕方ない」
四天王たちはそれぞれ前に出て広がり、構えを取る。
「師範に会って借金を取り立てたければ、我らを倒してから行けぃ!」
「やろうってのか!? 上等だ! やっちまえ!」
借金取りたちは角材や金属バット、釘バットに鉄パイプなどを一斉に取り出すと、どっしりと迎撃の構えを取る四天王へと襲い掛かった。
鳥竜館師範、流竜馬は大きな古い仏像の置かれた部屋で、背中に『竜』と書かれた鳥竜館の道着のまま寝転がり、昼寝をしていた。
四天王が門前で借金取り相手に戦っている音が聞こえてくるにもかかわらず、竜馬は何事かと起き上がることも様子を見に行くことも無く、呑気にも眠り続けているのだ。
それが竜馬が四天王に全幅の信頼をおいているからなのか、ただ単に面倒だからなのかは、竜馬以外には知る由もない。
「………ッ」
さすがに外の喧騒が耳障りだったのか、竜馬は小さく呟きながら寝返りを打ち、少ししてからゆっくりと体を起こす。
「…チッ、うるせぇな。どうせまた借金取りの連中だろうが、喧しくて眠れやしねぇ」
竜馬は借金取りに対して悪態を吐きつつ、頭を右手でボリボリと掻き毟る。元はと言えば竜馬が借りた金を返さないのが悪いのだが、鳥竜館自体の知名度が地元にすらほぼ無いために門下生が少なく、月謝も碌に入ってこない貧乏道場であるため、返そうにも返す金が無いのだ。
ならば道場を離れて働けばいいだろう、という者もいるが、竜馬の風貌に問題がありすぎるためにどこの企業も採用してくれないのである。
そのため竜馬は20代にして、半ば隠居同然の生活をしているのであった。
「…向こうの部屋で寝なおすとするか――」
そう言いながら竜馬が昼寝に使う部屋を移動しようとした瞬間、竜馬の耳に四天王と借金取りとの悶着以外の音が飛び込んできた。
「…何だ、今の音は? …ッ!?」
聞きなれない低重音が聞こえたと思った直後、竜馬の足元が小さく小刻みに揺れた。
時々起きるただの地震のようにも思えるが、竜馬はこれが自然によるただの地震ではないと本能的に感じ取った。
何故そう思ったのかは竜馬にも判らない。だが竜馬は妙な胸騒ぎを感じると直感的に部屋から飛び出し、中庭の木から屋根へと飛び移る。
誰か一人でも乗ればあっという間に抜けてしまいそうなほどボロボロの屋根瓦の上を、竜馬の大柄な体躯からは想像できないような器用な走りで屋根の端まで行き、そこから山の麓にある街の様子を見る。
「…! 何だ、ありゃあ!?」
竜馬は自らの眼下に広がる、変わり果てた海鳴の街の姿に驚愕した。
街のド真ん中にはあろうことか奇妙な形をした巨大な樹木が君臨していたのだ。さらにその樹の枝は街中に広がっており、その枝幹の姿はまるで海鳴の街を制圧してしまっているかのように見えた。
「こいつはひでぇ…。しかし、あの樹はどこから現れやがったんだ、まるで魔法みてぇな――」
竜馬は自分が言葉を発している途中に、ある事に気づいてはっとした。
「魔法…そうか、こんな物理法則もあったもんじゃねぇような事が出来るのは…!」
そう呟いた竜馬は踵を返し、駆けあがってきた屋根瓦の上を再び走って戻る。今度は多少は余裕が無くなっているのか、通り道になった屋根瓦が所々砕けていた。
屋根から飛び降りた竜馬は歩みを止めることなく勢いを乗せて走り続け、鳥竜館の一番奥にある普段はあまり使われていない部屋の襖を開け放つ。
竜馬は部屋に入り、丁度部屋の中央に位置する木の床を勢いよくひっくり返して開けた。
床下には金属でできた箱がぴったりと納められており、竜馬はそれを床下から持ち上げて取り出すと、箱の側面に付いた0から9までの数字が記された10個の小さなボタンを一定の順序で素早く押す。
すると電子音が鳴り、箱の鍵の外れる音が聞こえた。
竜馬は鍵が開いたのを確認すると、黙って箱の蓋を開ける。箱の中は紫色のクッションに埋め尽くされ、その中心には緑色の六角形の宝石が安置されていた。
「また、お前の力を借りる日が来るとはな…」
竜馬は懐かしそうに呟いて宝石を掴むと、開け放たれた床や箱を放り出したまま部屋を飛び出し、今度は四天王と借金取りたちが戦っている正門へと走り出す。
「お前ら、どけぇ!」
「し、師範!?」
四天王のスキンヘッドは突如現れた自身の師匠に驚きを露わにし、借金取りと戦っていて驚きを隠せないにも関わらず、すぐに竜馬の通る道を開ける。
「師範、どちらに!?」
「ちょっとした野暮用だ、すぐ戻る!」
「コラァ流ェ! 今日こそは金返してもらうからなぁ! 野郎共、追え!」
竜馬は門前に大挙する借金取り達の間を縫うようにして走り抜けると、そのまま麓の街へと向かって坂道を走り続ける。
それを見た借金取りたちは竜馬を捕らえようと、その後を追って同様に走り出した。
「ええ…っと、お、俺達も行こう! 師範をお守りせねば!」
「お、おう! 巨漢、忍者、留守を頼む!」
「し、承知!」
一連のドタバタを見て唖然としていた四天王たちだったが、なんとか我に返ると巨漢と忍者に鳥竜館の留守を任せ、青年とスキンヘッドが竜馬を追う役目を負うこととなった。
「二人共、師範を頼んだぞ…」
「…しかし巨漢よ」
「うん?」
四天王の忍者が巨漢に話しかける。
「我らの名前、巨漢だの忍者だのスキンヘッドだの…こんなことでいいのか?」
「よくはないだろうが…原作で我らの名前が出てなかったのだ、仕方があるまい」
若干メタフィクション的な内容の会話をしながらも、残った二人は門をくぐって鳥竜館の中へと入っていくのだった。
「ちっ、こいつはひでぇ…」
山から下りた竜馬は、変わり果てた街の様子を見て呟いた。
コンクリートで舗装された、税金の塊とも呼べる道路は巨大な樹の根によってズタズタに引き裂かれ、いくつかのビルなどの建造物には樹の枝が巻き付いて半壊し、盛り上がった樹の根によって打ち上げられたらしい乗用車は落下の衝撃で大破している。
これだけの大規模な災害だ、かなりの数の死傷者が出ていてもおかしくはない。だが、竜馬の思考にはそれらの人々を救助するというような考えはない。竜馬が最優先にしているのは、こんな騒ぎを引き起こした大馬鹿者を探し出し、叩きのめして逃がさないように拘束することである。
竜馬は先程持ち出した宝石を懐から取り出すと、それを高々と掲げ、叫ぶ。
「チェェェェェェエンジ、ゲッタァァァァァァァァア!」
『OK, Change Getter1』
竜馬の咆哮に宝石が応え、機械じみた音声を発した直後、竜馬の体を真紅の魔力光が包み込んだ。
すると竜馬が着ていた鳥竜館の道着が光と共に消滅し、その代わりにバリアジャケットと呼ばれる魔力で作られた防護服が生成される。
バリアジャケットの形状は黒い上着に青いジーンズ、小麦色の丈の長いコートが生成され、更に真紅に染められたマントが竜馬の首元にマフラーのように巻き付いた。
そして宝石を中心に黒いフレームが装着されていき、トマホークと呼ばれる片手用の斧のような形状を取った。
斧となった宝石、インテリジェントデバイス・ゲッター1は竜馬の右手に収まり、変身は完了する。
今ここに鳥竜館師範としての流竜馬の裏の顔、魔導士としての流竜馬が再誕したのである。
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