MUV-LUV/THE THIRD LEADER(旧題:遠田巧の挑戦)
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12.開発衛士との戦いⅡ
12.開発衛士との戦いⅡ
巧side
「パンサー12よりパンサー1、進言したいことがあります。」
城井中尉との一件以来、訓練で進言したことは無かったけどこれは言ってい置いた方がいい。最終的には隊長が判断することだしな。
『何だパンサー12。お前からそういうことを言われるのは久しぶりだな。』
「はっ、敵の動きについてですが…」
隊長に俺の考えを聞いてもらう。敵が少数で当たる根拠が機体の性能差にあるんだとしたら、まずはそれを把握しなくてはならない。攻撃的な陣形で当たるのではなく、防衛を主体とし障害物を積極的に活用することで相手の能力を推し量る。大したことがなければ計画通り包囲することを目指す。相手の能力がこちらの予想を上回っていた場合は何らかの方法で敵から逃れて立て直す。安全策がいつも最善とは限らないが、相手がこちらの想定内の力量なら他の中隊では問題なく撃破できるだろうし、俺の予想が外れても大隊としてはプラマイゼロだ。
『ふむ、しかしその方法だと味方への援護には行けんな。』
「隊長は『実戦と同じように死ぬ気で』と仰いました。であるなら未知の敵に対して慎重に闘うのは間違った選択ではないと考えます。」
『なるほどな……良く言ってくれたな遠田。城井に色々言われた様だがお前はそれで良い。これからも思ったことは迷わず発言しろ。』
「了解です。」
これで良いか……。確かに最近は俺らしくなかったかもな。別に型にはまらない男を気取っている訳じゃないが、能力に見合った方法を確実にこなすというスタンスは崩しちゃいけないものだ。周りの意図や自身の意思がどうであれSES計画で培われた力は俺の一部。否定することはできない…。まだ自分の内から出てくる意思というのは分らないが出来るところからやっていかないとな。
巧side out
◆
ラビット9side
演習が始まってからというもの静音装置を切って跳躍ユニットを吹かし移動している。ジャップ共の貧弱なレーダーでもこちらを感知していることだろう。こちらのレーダーでも奴らのF-4もどきの位置は把握している。どうやら罠とも知らずに戦力を分散させているようだ。所詮は黄色い猿。自分たちの方が数が多いと見て安心しきっているらしい。
そもそも俺は帝国の基地に来てからというもの日本人というのが嫌いだ。別に帝国そのものに恨みはないが、帝国軍衛士たちの思い上がりにはいつもムカついていた。やつらはBETAとの戦闘経験があるというだけで俺らを見下していた。金持ちの後方国家で対人訓練ばかりで実戦を知らないと言い、さも自分達だけが戦士であるかのように。確かに奴らは経験豊富で、その力量は侮れない。だが所詮は未だにF-4もどきが主力の時代遅れの軍であり、合同演習も俺たちの方が勝ち越している。それでも奴らは『戦術機の性能頼り』といって鼻で笑ってやがる。
馬鹿らしい。装備も含めて実力だ。結果を認めず誇りだけは一人前の貧乏人どもに見下されるのは我慢ならなかった。
そんな時、新型の試験を兼ねて日米合同演習が行われると聞いて俺は歓喜した。新型の性能は聞いている。はっきり言ってF-4もどきが束になっても敵わないものだ。奴らがどんなに虚勢を張ろうと、手も足も出ずに完敗すれば少しは身の程を知るだろう。
「ラビット9より小隊各機へ。黄色い猿どものお出迎えだ。遊んでやれ。」
小隊の隊員に指示を下す。作戦は事前に伝えた通り、のろまなF-4もどきを遠くからカモ撃ちにするだけ。簡単な仕事だ。
だがどうも計画通りにはいかないようだ。
『隊長、連中ビルの陰に隠れて出てきません!狙いにくいったらないですよ!』
妙だ…。普通数で圧倒している場合は部隊を展開して囲い込みをかける。だが目の前のジャップ共は最初から守勢に回るように動いている。前進せず、遮蔽物の影から少し撃ってはまた隠れる。
まあ少しは身の程を知った奴らということか。拍子抜けだが賢い選択だ。まあ所詮は時間稼ぎにしかならないが。
「どうやら相当ビビってるみたいだな。猿じゃなくてチキンだったか。まあ良い。全機間合いを詰めるぞ。動きまわっていればF-4もどきの弾なんて当たりゃしない。」
面倒くさいことしやがって。猿は猿らしく馬鹿みたいに突っ込んでくればいいのによ。
ラビット9side out
◆
巧の予想は当たっていた。米軍はこちらの姿を確認するや否や、こちらの射程圏外から過剰な攻撃を繰り出してきた。それを見誤っていれば瞬く間に撃墜されていただろう。篠崎はストライクイーグルの攻撃性能を目の当たりにして冷汗をかいていた。しかもこちらの攻撃は全く当たらない。早すぎて照準が間に合わないのである。更にそれほどの速度で移動しつつも敵の攻撃はあくまでも正確だ。
しかし何時までも呆けてはいられない。篠崎は作戦を立て直しを決定した。
「パンサー1よりパンサーズ。どうやら遠田の悪い予感が当たったらしい。分っていると思うがまともにやって勝てる相手ではない。作戦を練り直すぞ。」
『しかしどうするのですか!?けん制が精一杯です!』
隊員の悲痛な声が聞こえる。
「離脱の方法は考えてある。全機同時にビル陰から120mmを斉射し敵の近くのビルを崩す。建物の崩壊とそれに伴う土煙で姿を眩ませてから距離を取る。」
『その後はどうするんですか?』
「さあな、俺は思いつかない。が、パンサー12はどうだ?この状況を想定していたんだろう?何か打開策は思いつくか?」
篠崎は巧の柔軟な思考を買っていた。未だ訓練兵で、城井が懸念していたように覚悟の面で足りない部分があると感じるものの、熟練した正規兵にありがちな思考硬直がなく、柔軟な発想を持っている。そしてそれを実現させるだけの技量がある。軍人としては周りと違った動きをする衛士は支援しづらく扱いにくいが、今のような状況を打開するのには巧のような人材が必要だと感じていたのである。
『正直言ってこれほどとは思っていなかったので難しいですが、敵機の性能の高さを逆手に取った奇襲ならできると思います。かなり危険な賭けですが…』
一方で巧はこの状況を想定はしていたものの、あまりの性能差に我が目を疑う気持だった。撃震など話にならない。陽炎のスペックは座学で知っていたが、その時もこれほどは驚かなかった。それは実際に体験したことと、知識として学んだことの差でもあったが、陽炎と同系の機体がこれほどの能力を持つとは夢にも思わなかったのである。
しかしだからこそつけ込める隙がある。篠崎に言った通りの危険な賭けではあるが、上手くいけば間違いなく相手の度肝を抜いてやれるだろう。
「構わん。正攻法で戦えないのであれば奇策しかあるまい。そして奇策には危険がつきものだ。」
巧の案を聞いた篠崎は、その非常識っぷりに頭を抱えたが他に選択肢はない。そして悩んでいる時間もなかった。
◆
ラビット9side
亀の様に隠れていたジャップ共が急に120mmを乱射してきやがった。どうやら目くらましのようだが土煙のせいで標的を見失ってしまった。音感センサーでは捉えているのでレーダーで位置は分かるが突っ込んでいったところを狙い撃たれてはたまらない。視界が確保出来るまで少し時間をおくことにする。こっちの力に恐れをなしたか、明らかに時間稼ぎの作戦に出たな…。
「各機煙が晴れたら索敵、見つけ次第撃墜しろ。あんまり時間かけると隊長にどやされちまう。」
隊員達が苦笑している。普段なら隊員が気を緩めていたら引き締めるところだ。しかし戦ってみて改めて分かったが猿どものF-4もどきとストライクイーグルの性能差ははっきりしていて、こちらの負けはない。動きまわっていれば連中の攻撃は当たらないし、お得意のチャンバラも近づく前に撃ち落とせば意味はない。そもそも長刀を対人戦で装備しているのは馬鹿としか思えない。武士道というやつか帝国の長刀にかける拘りは異常だ。
煙が晴れてきた。ジャップ共に引導を渡してやるとするか。崩れた建物を超えて敵を探すと意外と近くにいた。まず最初の生贄はお前だ。
「ラビット9、バンデッド・インレンジ、フォックス2!」
相手の射程外から120mmを撃つがすぐにビル陰に隠れたために外してしまった。どうやらこちらの射程は向こうにばれてしまったようだ。まあ関係ないが。
「隠れているだけだったら焙りだしてやる!!」
120mmを撃ちまくりビルを破壊する。そうするとそれに慌てたのか間抜けなF-4もどきが出てきた。………と思ったら周りから追加で三機も出てきやがった!動力を落としてやがったな!?
だが距離はある。何機出てこようと一方向からの射撃じゃストライクイーグルは捉えられねぇよ!
いつも通り左右に高速で動き回り敵の照準を外す。だが何故か数発もらってしまった。装甲の厚い肩部だったため影響は少ないが……何故?
そして気づいた。連中は照準システムを切って俺の周囲、つまり上下左右を囲うように撃ってきている。小賢しいまねを…。
だがそれも無駄だ。こっちに撃ちまくっているということは身を乗り出しているということ。隠れていないなら簡単に撃墜できる。
そう思い照準を合わせようとすると真正面から全速力で迫る敵がいた。長刀を装備している。
「馬鹿が!」
いくら飛ばしても距離があり過ぎる。しかもそいつが壁になって正面の線上だけ弾幕が薄い。
日本人の玉砕精神を嘲笑って照準を合わせ120mmを撃つ。爆炎に包まれるF-4もどきを見て次の標的を探す。
その瞬間俺の戦術機は何故か大破されていた。
◆
巧side
俺の案は確かに非常識なものだったが、元ネタは別にあるし過去に例がないわけじゃなかった。まず姿を眩ませて敵が来るであろうポイントに待機する。しかしあまり近いとばれるのである程度距離を取って。敵が来たらまず一人が敵の注意を引くように攻撃する。敵を誘引したところで待機していた戦術機を起動し敵の逃げ道をふさぐように攻撃する。確かにストライクイーグルの動きは速く照準が追い付かないが、36mmを周囲にばら撒くことで動きを限定させることはできる。そこで俺が突貫する。そうすると俺を挟んで射線に死角ができるから相手を俺の真正面に誘導することができる。問題は間合いを詰める間に攻撃されることだが、そこは伝説のテストパイロットである巌谷大尉のアイディアを借りることにした。
過去に米軍と斯衛軍の模擬戦があった。F-15<イーグル>とF-4J改<瑞鶴>の2対2の模擬戦だ。絶望的な性能差だったが巌谷大尉の奇策によって斯衛は勝利をもぎ取ったらしい。
その奇策とは敵の銃撃を長刀で防ぐという常識では考えられない荒業だったという。しかしそれは不可能なことではない。米国戦術機の射撃精度は帝国のそれとは一線を画す。自動照準はピタリとコクピットを狙い外さない。だが逆に言えばそれはどこを撃つのかが分かるということ。それを利用して予め射線上に長刀を置いておき銃撃を防いだのだ。
それと同じ方法で攻撃を防ぐ。おそらく照準は簡単に変更できるとだろうが、先ほどの相手の攻撃は胸元に集中していたのでそれが通常の状態なのだろう。成功の可能性は高くないがやってみる価値はある。
そして作戦を実行した。中隊を二つに分けて二機撃墜を狙う。斬り込むのは俺と城井中尉だ。
敵が来たところを狙い撃つ。当たり前のように外れる。そしてビルに隠れると相手は120mmでこちらをあぶり出しに来た。JIVESのシステム上ではコンクリートの破片もダメージ判定になるので馬鹿には出来ない。
「3カウントで援護射撃をお願いします。3、2、1、今!」
『パンサー1、フォックス1!』
『パンサー5、フォックス1!』
『パンサー11、フォックス1!』
援護射撃によって36mmの道ができる。そこを全速力で突っ込んでいく。作戦がうまくいけば止まることは考えなくていい。長刀は盾であり囮。本命は短刀だ。長刀を前に持っていき敵の射線を見極める。僅かでも射角を見誤ればコックピットに直撃し大破だ。
「ぐぁっ!」
どうやら上手くいったようで何とか敵の120mmを防げた。JIVESで確実に表現された衝撃が強化装備を通してフィードバックされる。交通事故にあったかのような衝撃。そして右主腕のマニュピレーターが小破し使えなくなる。他にも砕け散った長刀や120mm弾頭の破片で頭部センサー類や主脚関節部などが無視できないダメージを負う。だが本命の左は健在だ。
「うおぉぉ!届けぇ!!!」
別に大声を出したからと言って戦術機のパフォーマンスは変わらないが、気合いを出さざるを得ない。今こそ敵に一矢報いる最大のチャンスなのだから。
複椀の短刀を引き抜き、慣性の勢いをそのままぶつける様に相手に突き出す。
『ラビット9、コックピット大破。戦闘不能。』
CPの平坦な声が賭けの勝利を告げていた。
巧side out
◆
日米合同演習は帝国の完敗に終わった。米軍の損害はパンサーズが撃墜した二機のみ。そしてパンサーズも奇襲に成功したものの、それによって巧と城井の機体が動けない状態になり、米軍の援軍によって呆気なく殲滅された。撃墜比1:18という歴史的な大敗であった。
しかし一方で米軍はこの結果を憎々しく思っていた。確かに圧倒的な勝利であるが、パンサーズとC小隊の戦いは実質パンサーズの勝利だった。これは米軍の新型の性能は『撃震よりも圧倒的に優れているが、連携によってカバーできるレベル』と認知されたということだ。それでは当初の目的を果たしたとは言えない。
つまり今回の合同演習の結果は数字上はともかく、両軍の内実を見れば痛み分けという結果に終わったのであった。
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