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MUV-LUV/THE THIRD LEADER(旧題:遠田巧の挑戦)

作者:N-TON
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11.開発衛士との戦いⅠ

11.開発衛士との戦いⅠ

 巧は城井の胸の内を聞いてからというもの、訓練に身が入らなかった。城井の言葉は巧の心に深く突き刺さり、訓練では城井の言葉に従順に従っていた。しかしそれは巧のやり方とは合わないもので、訓練も今まで最善を尽くそうという気概で行っていたものが、どこか気の抜けたものになっていた。柳田の訓練のおかげで訓練と思って手を抜くようなことはしなかったが、自分から出てくる熱のようなものはなかった。
 そんな日々を過ごしていた巧だったが本来は訓練兵。訓練校卒業、そして任官の日が近づいてきた。そして巧にとって忘れがたい日がやってきた。



「明後日に予定されていた米軍との合同演習だが、その詳細が決まった。」
 朝食後、訓練を始める前のブリーフィングで篠崎が切り出した。厚木基地は同盟国である米軍の駐留基地でもあり米軍戦術機部隊がいた。両国軍の交流と技量の向上を目的とした合同演習が行われることが多く、明後日にもそれがあった。しかし今回の演習はいつもと違うと衛士たちの間では噂になっていたのである。先日運び込まれた米軍戦術機が今まで見たことがないものであったことから、新型のテストではないかと思われていたのだ。
「米軍の新型の試験演習であるという噂は本当らしい。新型の呼称名はF-15E<ストライクイーグル>。F-15<イーグル>の改修機らしい。配備はまだ先だが、改修機ということもあって完成度は高い。」
「性能の詳細はこちらに伝わっているのでしょうか?」
「少なくとも俺は知らんな。ただ聞いた話だと米軍が開発している第三世代戦術機の代替期間のつなぎとして大改修したそうだ。貴様らもF-15の性能は知っているだろう。撃震とは比べ物にならんレベルだ。それにあえて金をかけて改修するということは相当なものなのだろう。」
 厚木基地に陽炎を擁する部隊はないが合同演習でF-15の力は散々見せつけられていた。今までの演習で、撃震とF-15では戦力比2:1でやっと拮抗できるといったところ。戦術機搭乗時間では遙かに帝国軍の方が多いにも関わらず、米国軍のF-15には手も足も出ないというのが現状だった。それでも第一世代機と第二世代機の差を考えればよくやっている方ではあったが…。
「今回の演習において戦力比は3:1に設定されている。こちらは大隊、米軍は中隊規模での演習になる。そして我がパンサーズはその演習に参加することが決定した。今日の訓練は市街での対人戦を想定し行う。」
 場がざわめく。それもそうだろう。いかに米国と帝国の戦術機の間に大きな技術格差があったとしても3:1というのはあり得ない数字だ。しかも相手は『つなぎの機体』である。帝国軍人としてのプライドが傷つかないわけがなかった。
「この条件は米国側から提示されたものだ。みんなも感じていると思うがこれはなめられていると思っていい。帝国軍の誇りに欠けてこの演習は勝たねばならない。分ったか!?」
「「「了解!」」」
 言われるまでもなくパンサーズの隊員たちは燃えていた。当日の作戦を練り、他の中隊との連携を確認し、万全の体制で演習に臨んだのである。
 そして演習当日。



巧side

 今日は米軍との合同演習か…。城井中尉との一件以来頭から抜けていたが、俺は元々こういった経験を積むために衛士になったようなものだ。BETA戦はもちろん、対人戦の経験も積んでそれを会社に役立てるために…。今はそのことをあまり考えないようにしているが、米軍の最新鋭機と戦うとなると思いださざるを得ないな。SES計画だって親父が米国の兵器メーカーとの交渉を失敗したことから始まったわけだし。
 帝国の戦術機は今のところ全て米国機のライセンス生産で賄われている。そして帝国だけでなく世界中の戦術機は米国の戦術機のコピー品だ。ソ連や東欧は独自開発した戦術機を作っているようだが、やはり米国の技術力は格が違う。帝国が開発しているという新型はどうなのかわからないが。
 しかし今の俺はあくまで臨時少尉。余計な事は考えず目の前の模擬戦に集中するのみだ。大隊でのブリーフィングで行われた作戦会議では特に奇策の類はなかった。まあ奇策を用いるは寡兵、数で勝るのなら正攻法が正しい選択であるというのは間違ってないと思う。逆に大隊規模で奇策を用いることは難しいしな。今回参加するのはパンサーズ、ウルヴズ、ホークスの三中隊で構成される大隊だ。どの中隊も中隊長以上は実戦経験の豊富な隊で、模擬戦も一緒にやっている。厚木基地でも有数の実力を持っていると思う。まあ初参戦の俺は余りはしゃがずに目の前の仕事をきっちりこなすことを考えれば良い。
『CPより大隊各機へ。日米合同演習、開始まで300秒。全機起動せよ。』
CPの合図だ。戦術機を起動しステータスチェック、操縦桿を握りしめる。流石に篠崎大尉とやった時みたいな緊張はないが、それでもやはり操縦桿を握る手には力が入っちまう。
『パンサー1よりパンサーズへ。そろそろだ。全員気を引き締めろよ。今回の演習ではJIVESが用いられる。つまりほとんど実戦と同じだ。もし撃墜されたら現実でも撃墜されていたということだ。言い訳何ぞ出来ん。文字通り死ぬ気でやれ。』
「パンサー12了解!」
 そうだ。訓練は実戦のように、実戦は訓練のように。訓練だからこそ死ぬ気で戦わないとな。

巧side out



 演習が開始し両軍が進行する。帝国軍は中隊毎に散開し索敵。米国は数の不利を和らげるために中隊全体で行動すると読んだ上での作戦である。どこかの中隊が接敵したら持ちこたえることを最優先し、他の二隊で包囲せん滅する。それが帝国軍側の作戦だった。一対一で勝てるとは思えないが、包囲し、機動力殺せば後は物量がものをいう。問題は接敵時に帝国側の中隊が持ちこたえられるかどうか。大隊長であるホーク1はそう考えていた。
 しかしその予想はすぐに裏切られることになる。レーダーに敵のマーカーが4つ表示された。敵はステルス性を無視してこちらに向かってきているらしい。
「ホーク1より各中隊長、こちらで敵機を4捕捉した。これより迎撃戦に入る。作戦通り援護に来てくれ。」
『こちらウルフ1!こっちにも敵が4機来てるぞ!』
『パンサー1よりホーク1、こっちも同じだ。米軍は小隊単位で分散してきている。』
 各中隊長の報告を聞き怪訝に思った大隊長だったが、敵が少ない戦力をさらに分散させてくれるなら逆にやりやすい。もともと戦力比3:1という有利を崩さないことが作戦の目的なのだから。
「なら問題はない。各中隊で迎撃し殲滅させ次第他の援護に回れ。」
『ウルフ1了解!』
『パンサー1了解。』



『と、言うわけだ。作戦は変更。中隊単位で敵の小隊をたたく。傘壱型で接敵、前衛は微速後退しつつ迎撃、撃ち落とされずに相手を足止めする事にに専念しろ。両翼は接敵と同時に前方へ展開し陣形を鶴翼に移行し挟撃しろ。』
「パンサー12了解。」
 巧は敵の動きを知り、疑問に思った。米軍は馬鹿じゃない。戦術的に考えれば少数が多数に勝つためには各個撃破が基本である。それを捨ててわざわざ戦力を分散してくることにどんな意図があるのか…。
 それを考えたとき巧は一つの仮説を思いつく。
(相手の狙いは速攻、早期殲滅か?とするなら総合的な火力ではなく機動力を活かした攪乱が狙いか…)
 米軍機の能力は未知数だが帝国の撃震の能力は知られている。そして実際のところは分らないが、少なくとも米軍は3:1で戦えると見積もっている。もし自分が陽炎の小隊で撃震の中隊を破ろうとするなら、まともに当たらず敵の進行方向に対して横に移動しつつ端の方から潰していく。それを成す為には陽炎では不可能なほどの高速機動と精密射撃能力が必要となる。しかしその条件さえ満たせば確かに可能だ。
(信じられないが米軍の新型はそこまでの性能があるのか…?だが警戒する価値はあるはずだ。)
 巧はこれまで米軍の戦術機と戦ったことはなかった。だからこそ先入観なしに状況を把握していた。もし隊長たちが同じ仮説を思いついても『そんな機体はありえない』とすぐに思考を止めていただろう。
「パンサー12よりパンサー1、進言したいことがあります。」



 米軍の新型、F-15E<ストライクイーグル>は見た目こそ従来のF-15<イーグル>と変わらないものの中身は別物と言っていい。兵器担架量の増大と装甲の変更によって攻防共に能力が上がっているだけでなく、アビオニクスの強化と機体構造の改良によってこれまでにないほどの高機動戦闘を可能にしている。簡単に言えば遠くの距離から、速く動きながらでも正確に射撃を出来るということである。その点で言えば撃震との性能差は竹槍と小銃と言っていい。多くの第二世代機を試験してきた米軍のテストパイロット達もその圧倒的なスペックの高さに舌を巻いたほどである。
「しかしジャップ共も馬鹿な奴らだ。この機体にF-4で挑もうってんだからな。太平洋戦争での教訓を忘れちまったらしい。」
 コンクリートジャングルとまでは言えないが、それなりにビルが並ぶ狭い道を信じられない速度で移動しながら帝国軍の撃震を撃墜する。帝国軍は攻撃範囲の遥か遠くから狙い撃たれ為す術なく崩れ落ちる。最新のアビオニクスによって狙いはほとんど自動照準任せだが、寸分たがわずコクピットを撃ち抜くことができる。帝国軍はあわてて部隊を展開しているようだがスピードでストライクイーグルに敵う訳もなく、次々に撃ち落とされていった。
『そういうな。F-4を使っている割には頑張っている方だろ。まあこれだけ力の差を見せつけられれば、帝国軍も純国産機なんて身の丈に合わない夢を抱かず素直になるだろ。』
 今回の合同演習における米国の狙いは技術力の差を見せつけることにあった。というのも10年以上昔から純国産の戦術機開発に取り組んでいた帝国だが、それが完成するという報告が入ったのである。BETA大戦初期こそヨーロッパや中国をメインに輸出していたものの、近年では帝国も大口の顧客である。それが国内で開発された新型にシェアを取られてしまっては米国の兵器メーカーは大損である。そうでなくても各国が戦術機の独自開発に着手していることから近い将来、米国の兵器メーカーの売り上げは大きく落ちると予想されている。
 そこで合同演習という名の一方的な戦いを見せつけることで改めて米国の戦術機こそが最強であるということを見せつけるのが狙いであった。目標は損害ゼロの全機撃墜。通常あり得ない目標だが、敵の能力は完全に把握している上に、こちらの情報は完全にシャットアウトしている。しかも既存機体の改修機という情報のおかげで帝国はこちらの戦力を低見積もっていることだろう。こちらの戦力を測られないために戦力を分散し早期殲滅を狙う。
 そしてその目論見は、帝国軍の反応を見る限り成功するように感じられた。
『ラビット7、バンデッド・インレンジ、フォックス2!』
 そしてまた一機撃墜した。帝国軍の動きは完全に予想通りだった。こちらが戦力を分散したことで相手も分散した。わざわざ音を立てて位置を知らせながら移動した甲斐があったというものだ。
『ラビット6よりラビット5、敵2機が着剣しました。』
『ラビット8、こちらも同じです。』
 どうやら敵は遠距離戦で歯が立たないと見るや近接格闘戦に持ち込んで一矢報いようと考えているようだ。
「玉砕戦術か…日本人は変わらんな。各機距離を取りながら撃破しろ。愚かな日本人共に奇跡は起こらないと教えてやれ。」
 もう終わりだろう。最初の予想通り帝国軍は反撃することもできずに敗れる。他の隊の状況も同じようなものか。そう思い確認を取るために中隊長に連絡を取る。
「ラビット5よりラビット1、B小隊の方は損害ゼロ。そろそろ終わりますがそっちはどうですか?」
『A小隊も同じだ。呆気ないものだ。だがC小隊の方はそうでもないらしい。手こずっているようだ。そちらが終わり次第援護に行ってくれ。』
「ラビット5了解。全くF-4相手に何やってんだか…。」
 ラビット5からすればこんな出来レースのような戦いで苦戦するというのは職務怠慢と言っていい状況である。そう思い広域レーダーに切り替えC小隊の状況を確認すると、そこには信じられない表示があった。その時まで四つあったマーカーが目の前で二つのマーカーになったのである。
「馬鹿な……二機撃墜だと?どういうことだ!?」
 1小隊は2エレメント、つまり4機。そのうち2機撃墜ということは半分を失ったということだ。いかにストライクイーグルでも戦力比6;1では戦えない。案の定C小隊は撤退を開始し、B小隊に合流する動きを見せていた。
「ラビット9!状況を報告しろ!」
 B小隊隊長の怒声がコックピットに響いた。
 


 
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