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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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EpilogueⅣお料理、頑張りますっ!!byシャマル&シュリエル


†††Sideシャマル†††

イリュリア戦争が終結してから早1ヵ月半。アムルの復興も順調に進んでいる。戦争前まで家族みんなと過ごしたお屋敷も、大工さん達や街のみなさんのおかげで少しずつだけど骨組みが出来始めた。

「あとどれくらいこのベルカに留まれるのだろうな・・・」

私の隣を歩くシュリエルが、屋敷の骨組みを見て寂しそうに囁いた。私たち“闇の書”の主、オーディンさんがこのベルカに訪れた理由。オーディンさんの家族を殺害した兵器、“エグリゴリ”の救済――と言う名目の全機破壊。
それが終われば、オーディンさんはベルカを去ると言っていたわ。それはつまりこの楽しい日常と決別しないといけないと言う事で。私たちは主がためだけの守護騎士ヴォルケンリッター。だから私たちから苦言を漏らす事は出来ない。

「でもエリーゼちゃんやアンナちゃんが、きっとオーディンさんを・・・」

オーディンさんの事が好きだって告白したあの2人なら、止めてくれるかもしれない。どちらかと恋仲になって、全てに決着をつけて、それからずっとこのアムルで・・・。でもそう思うと、胸がキュッと締め付けられるように痛むの。けどありえない。あってはならない感情。ううん、きっと何かの間違い・・・そう、これはそんな感情じゃないわ。

(私は人間じゃない。私は騎士。オーディンさんは主。あの人に抱ける感情は、家族愛のみ)

そう強く自分に言い聞かせる。そう、この感情は恋なんかじゃないわ。だから大丈夫。オーディンさんと、恋仲になった2人のどちらかが年老いて眠るまで、私は騎士として医者として守り続ける。自分の想いにそう見切りをつけ、午後は休みとなっている私とシュリエルはターニャちゃんの屋敷へと帰り、

「すんすん・・・良い香り♪」

厨房の方から香ってくるお昼ご飯の匂いに、「あ・・・」くぅ~ってお腹が鳴った。意地汚いと思いつつもシュリエルと連れ立って厨房へ向かい、「ただ今帰りました」鍋の前で佇んでいるアンナちゃんに挨拶。こちらに振り向いたアンナちゃんはニコリと笑みを浮かべた。

「お帰りなさいシャマルさん、シュリエルさん。昼食、もう少しですから待っていてください」

それだけを言って調理に意識を戻したアンナちゃんは鼻歌を口遊み始めた。なんて言うかすごく楽しそうよね。あれが恋する女の子の持つ雰囲気というものなのかしら。少しばかり羨ましい。アンナちゃんを羨望の眼差しで見る。私ももう少しオーディンさん達を労いたい。

(あ、そうだわ。いい事を思いついちゃった♪)

「アンナ。頼みがあるのだが」

シュリエルがそう言って厨房に入って行く。遅れて「あの、私もお願いがあるの!」私もアンナちゃんの元へ行く。たぶんシュリエルも私と同じ考えだと思う。同じように今の生活を愛しているなら、オーディンさんを慕っているなら。私が勢いよく飛び込んで来ちゃった所為で、アンナちゃんは目を丸くしてしまっていた。

「ど、どうしたんですか? シュリエルさんとシャマルさんが、私に頼み・・・?」

調理が終わったようで、火を止めて改めて私とシュリエルに振り返るアンナちゃんに、

「料理を教えてほしいの!」「料理の仕方を教わりたい」

やっぱり同じ事を頼み込んだ私とシュリエル。ジッと私たちを見詰めるアンナちゃんは少しの間だけ逡巡した後、「いいですよ」そう笑みを浮かべてくれた。そういうわけで、料理を学ぶ事になった私たち。
でもその前に、昼食を摂るために一度ターニャ邸に帰って来たオーディンさん達と一緒に昼食を頂いた。オーディンさんとシグナムとザフィーラは午後からも一仕事。ターニャちゃんは衣類不足の村へ、オーディンさんと合作した衣類を配送しに行く仕事で朝から不在。
そしてエリーゼちゃんは、

――アンナに料理を習うんですかっ? じゃあわたしも習いますっ!――

一緒にアンナ先生を師事する生徒さんになりました♪

「――で? なんであたしらは休む事が許されねぇんだ?」

午後からは休みであるヴィータちゃんが「ゆっくり昼寝するつもりだったのに」って不満そうに食卓から睨んでくる。食卓には今ヴィータちゃんと、そして人間の子供の背格好になるヴァクストゥームフォルムになってるアギトちゃんとアイリちゃんが腰かけているのだけど。

「あたしに休みなんて要らないのにな~」

「だよね~。マイスターと一緒に居られないなんて、アイリ、辛いだけだよ」

この一週間、休みなしでアムルや別の街にまで飛ばされていたから疲れているだろうと言うオーディンさんの心遣いに、2人はちょっと不満そう。ヴィータちゃんは「ホント元気だよな」って隣に座る2人を見た後にもう一度こっちを見て、

「でさ、さっきの続きなん・・・って、あぁなるほど。何で気付かなかったんだろ」

私とシュリエルとエリーゼちゃんが前掛け(エプロン)を借りて着用した姿からようやく察してくれたよう。シュリエルだけは料理の邪魔にならないよう後ろ髪をリボンで結っておさげにした。

「お前らが料理すんのは良いけどさ、大切な食材を無駄に灰にすんなよ?」

「判ってますよ~。アンナちゃんに教えてもらうんだから、そんな失敗しません」

私たちに料理を教えてくれるのは、家事――特に料理を一手に引き受けてくれているアンナちゃんだもの。その料理の腕は誰もが認めているもの。きっと教え方も上手に決まってるわ。期待を籠めてアンナちゃんに振り向くと、

「エリーが素人なのは判っているからいいとして、お2人は料理経験とかありますか?」

そう訊かれたから、シュリエルと一緒に首を横に振る。だってこんな人間らしい一般生活をした事なんてないんだもん。すべてが初体験なのよね。アンナちゃんは「そうですか」と唸りながら、1mほどの高さの木箱――箱の中の食材を魔力の冷気で保存する保冷庫から、真っ白い殻の卵を4個取り出す。

「オーディンさん直伝の初心者料理、卵焼きを作りましょう」

エリーゼちゃんと一緒に「卵焼き・・・」と呟いて、その完成形を思い浮かべる。あの甘くて黄色くてふわふわで、何個でも食べてしまえるようなあの美味しい卵焼きを、今から作る事が出来る・・・。それに、オーディンさん直伝と言う事で私のやる気も、さらにもっと強くなったわ。

「むぅ。あの素晴らしい料理が初心者級なのか・・・」

「パンに肉や野菜を挟んだだけでも十分な料理ですが、やっぱりそれでは物足りないでしょうから」

確かにそれくらいなら師事しなくても簡単に作れそうなのよね。エリーゼちゃんはそれを聞いて「うん。わたしはそう言うのより、手間が少し掛かるようなのがいい」って言う。簡単すぎちゃ逆にありがたみが無いものね。でも難しすぎると悲惨な結果になりそうだし。難しいところだわ・・・。

「ええ。だから私が前にオーディンさんから教わった異世界の料理や、ベルカの料理のいくつかを日を分けて教えるわ。食材と調味料に関してはオーディンさんの魔導のおかげで、ある程度の消費は許されますし」

厨房の隅っこには、食材(おもに野菜)を容れた木箱がそれぞれの種類別に数箱、砂糖や塩と言った調味料を別々に容れた(かめ)が数口置かれている。それらすべてに、増殖上等・常に万全という文字(それらからは魔力を感じる)が書かれている。
アンナちゃんが言うには、この言葉通りに容れてある物は使った分だけ増えて、決して腐らず常に最高の状態を保つみたいなの。それら魔法の容器類は、私たち“闇の書”がオーディンさんの下へ転生する前に、オーディンさんから頂いた物と言う事。

「では、これよりアンナ先生の料理教室を始めます」

「「「お願いします」」」

早速、私とシュリエルとエリーゼちゃんは習う順番を決め(エリーゼちゃんは加入が最後だったからと先を譲ってくれた)、2つ在る(かまど)の前に私とシュリエルが立つ。アンナちゃんが用意したフライパンは四角い形状の物(これもオーディンさんからの贈り物)で、コレであの卵焼きをいつも作っているとのこと。

「まず卵をよくかき混ぜます」

私たちは手渡されたボウルを作業台に置いて、卵を割・・・あ。言われたとおりにボウルの端でコンコンと卵にヒビを入れようとしたのだけど、力み過ぎたのか手の中で割れちゃったわ・・・。シュリエルが「む?」って唸るから見てみれば、私と同じように手の中で割れた卵の所為で手がグチャグチャ。

「あー、もっと優しくしないと」

「力加減が難しいな」

「う~ん、難しいわね~」

「テメェら、殻入りの卵焼きなんか作ったら許さねぇかんな~」

食卓についているヴィータちゃんから野次が飛んできた。ヴィータちゃんもやってみればいいわよ。絶対に砕いちゃうんだから。勿体ないけれどダメにしちゃった卵を掃除して、もう一度卵を割りから。今度は強くならないようにコンコンと。コンコンと。コンコンコン・・・コンコンコン・・・。

「いつまでコンコンやってんだよシャマル、シュリエル。狐でも呼ぶ気か?」

「さすがに優しくし過ぎですよ」

また野次を飛ばすヴィータちゃんと少し呆れているアンナちゃん。だって本当に難しいんだもの。焼く以前に割る事から苦労するなんて。なんとかヒビを入れてボウルの上でパキャっと割ったのだけど、

(殻が入っちゃったわ・・・)

指先でちょんちょん小さな殻を取り出す。私の隣のシュリエルは「よし」満足のいく割り方が出来たようだった。とりあえず殻は全部取れたと思う。そしてもう1個の卵を割る。あ、また殻が。チマチマと小さな殻を取り除く。ふぅ。次のアンナちゃんの指示を待つ。

「お2人とも、この泡だて器で卵白と卵黄が一体になるまで混ぜてください」

手渡された泡だて器でボウルの卵2つをかき混ぜる。視線はボウルの中にのみ。一心不乱にかき混ぜる・・・と、「きゃっ?」頬に何かが跳ねた。顔を上げて頬をに触れると、「シュリエルさんっ、張り切り過ぎです!」アンナちゃんの悲鳴が聞こえてきた。
シュリエルを見れば派手に卵をボウル外に飛び散らしていた。一心不乱にかき混ぜ過ぎよ、シュリエル。注意されたシュリエルは「申し訳ありません」ってしゅんとなって謝った。シュリエルだけ始めからやり直し。シュリエルの卵割りを隣から眺める。正直、私より上手だった。教わる通りにボウルに適量の水と塩を入れて、もう一度かき混ぜる。

「――はい。次は、これです」

アンナちゃんがまた、別のボウルを4つ用意した。内2つには熱いお湯。残り2つにはバター。次の作業は湯銭というものらしく、熱いお湯の入ったボウルにバター入りのボウルを浮かせて、バターを溶かすとのこと。これは労せず完了。溶かしバターを卵のボウルに入れて混ぜる。そしていよいよ、「焼きましょう」アンナちゃんがフライパンを竈で温め始めた。

「いよいよね」

「ああ。いよいよだな」

シュリエルと頷き合う。それぞれフライパンの前に立ち、アンナちゃんに言われるままに食用油をフライパンに敷く。少し煙が立ったところで溶き卵を半分だけ投入。ヘラで全体に引き延ばして、ヘラの角で溶き卵をほぐす。アンナちゃんからは「焦らないでくださいね」と声を掛けられるけど、ちょっと焦げた臭いがしてきて、

「アンナちゃん! 嫌な臭いがしてきたのだけど!?」

「落ち着いてください! ヘラで奥の方から手元にまで折り畳むように――」

「無理ですぅーーーーっ!」

堪らず私は竈の火からフライパンを遠ざけてしまった。私は大きく溜め息を吐いて、「む、これで、どうだ」って悪戦苦闘しながらも卵焼きを巻いていくシュリエルを見る。シュリエルはすごいわ。失敗しているのが判っていながらも最後までやり遂げちゃうんだもの。私のように逃げ出さずに。焦げてしまっているシュリエルの卵焼きを見、私は「アンナちゃん。このまま続けられる?」と訊ねる。

「ええ。出来ますよ。今度は落ち着いて行きましょう」

フライパンを竈に戻して熱を入れ、先に入れた溶き卵を手前にまでクルクルと巻きながら寄越し、残り半分の溶き卵を空いた奥に投入。手前に寄せていた巻いた卵焼きを、今度は奥に向かって転がして、2回目に入れた溶き卵ごと巻いて行く。結局、私も失敗作。焦げていたり崩れていたりと散々な卵焼きになっちゃった。

「で? その失敗作をあたしらに食わせようってか?」

半眼で睨んでくるヴィータちゃん。そして「えっと、あたしは・・ちょっと・・」とアギトちゃんで、「アイリ、要らな~い」とアイリちゃん。くすん。そうよね。さすがに嫌よね。シュリエルもどことなく落ち込んでる。

「それじゃあわたしがいただきます」

「私もいただきます」

そう言ったエリーゼちゃんとアンナちゃんが躊躇いもなく私とシュリエルが作った卵焼きを手でひょいっと掴んで口の中へ。目を瞑りながら「ふむふむ」ともぐもぐ食べて・・・ガリ☆って嫌な音が、私の卵焼きを食べていたエリーゼちゃんの口の中から聞こえた。
咀嚼を止めるエリーゼちゃん。原因が何なのか判る私は「ごめんなさい」と深々と頭を下げて謝る。きっと殻が残っていたのね。全部取り除けたと思ったのだけど。でもエリーゼちゃんは嫌な顔一つせずに、最後まで食べて呑み込んでくれた。

†††Sideシャマル⇒シュリエルリート†††

初心者の料理と言う事でアンナに卵焼き(私の好物となったものだ)に習ってみたのだが、想像以上に難しい。私とシャマルの卵焼きはお世辞にも見た目も味も良い物とは言えない出来だった。

「エリーゼ、アンナ。そいつらに遠慮しなくてもいいんだぜ? 不味かったら不味い、でさ」

「初めて料理したのなら及第点かと」

「卵の殻・・わたしもやっちゃうかもしれないなぁ~」

ヴィータの言う通りだ。正直な、嘘偽りなく感想を言ってほしかった。とは言え、とりあえず不味いと言われなかったのは精神的に助かった・・・。ホッと胸を撫で下ろす。それからはエリーゼ卿と交代しながら、まずは卵焼きを完全にものにするまで、ひたすら練習する事になった。
作っては皆で試食。それを繰り返していた頃、試食係のヴィータ、アギト、アイリはついに、

「げふっ。もう卵焼き、飽きた。肉とか、生野菜でもいいから食いてぇ・・・」

「しばらく卵料理は・・うぷ」

「コケーコケーコケコッコー」

卵焼きの試食を拒否。特にアイリの精神は崩壊寸前だったため、卵焼きの修業はまた後日という事になった。最後に作った自作の卵焼きを口に含む。うむ、一品目の時に比べればまともなモノにはなっていると自己評価。

「シュリエルのは美味しそうよね・・・私との差は何かしら(涙)」

私のと自分のを見比べては食べ、そして気落ちするシャマル。シャマルは最後まで焦がしていたな。私との差はないと思うのだが・・・。

「ただいま・・・って、厨房に集まって何をしているんだ?」

オーディンのご帰宅だ。食卓に突っ伏していたアギトとアイリが真っ先に「お帰りマイスターっ♪」飛んで行って抱きつく。微笑ましい光景だ。私たちもそれぞれ「おかえりなさい」と挨拶して、ここに集まっている理由を告げた。
オーディンは私たちの話を聴き終わると、

「シャマル、シュリエル。今度は私が料理を教えよう。いつからがいい?」

あまりに突然、しかし心が躍る提案を申し出てくれた。だから「お疲れでなければ、お願いします」気遣いを忘れず、そしてその提案を受けた。シャマルもまた「すぐにでもっ!」即答し、オーディンは「よし」と頷き、厨房に入って来た。

「アンナ。夕飯は私が作るよ。料理の先生、大変だったろ? ありがとう」

「い、いえ。エリーやシャマルさん達に教えるのはとても楽しかったので、大変ではありませんでしたよ♪」

頭を撫でられた事で嬉しそうに俯くアンナ。しかしエリーゼは僅かばかり不満そうだ。それを察知してか、オーディンは私たち全員の頭を順に撫でて行った。オーディンに頭を撫でられると、とても胸の奥が温かくなる。不思議な感覚だ。

「さてと。シャマルとシュリエルに教えるのは、今後きっと2人の役に立つと思う料理・・・和食だ」

オーディンは胸を張って言ったのだが、「ワショク?」聞き慣れない単語に私たちは全員小首を傾げる事に。そんな中、エリーゼが「それって、わたしには教えてもらえないんでしょうか?」心底寂しそう、そして悲しそうにそんな事を訊くものだから、オーディンは慌てて「違う違う」首を横に振る。

「ちゃんと教えるよ。シャマルとシュリエルを名指ししたのにはちゃんとした理由があるんだ。それは一応、私個人の理由だから言いたくないんだが・・。とにかく和食とは、私が何度か世話になった世界の一国の料理なんだ」

オーディンは思い懐かしむようにどこか遠い目をして、「また行きたいな・・・」そう漏らした。オーディンがそこまで思い馳せる世界。「私も、行ってみたいです」自然とそう口にしていた。きっと良い世界なのだろう。オーディンのお顔を見ればそれくらい察しが付く。

「あたしも行ってみてぇな」

「私も行ってみたいですっ」

「あたしもっ!」

「アイリも行ってみたい!」

「というわけで、いつか連れて行ってくださいねオーディンさんっ♪」

エリーゼが最後にそう締め、オーディンはただ儚げに笑みを浮かべて頷くだけだった。

「・・・夕食にまでそう時間も無いから、和食の初歩の初歩、味噌汁を作る」

また私たちは聞きなれない単語――おそらく料理名であろう「ミソシル?」に小首を傾げる。オーディンは「我が手に携えしは確かなる幻想」と詠唱し、何も無かった空間より私の腰ほどにまである高さの甕が2口出現させた。
その甕にも、増殖上等・常に万全、という魔力の籠った文字が記されていた。1口の甕の蓋を開けたオーディンの隣から中を覗き込む。入っていたのは茶色いペースト状の何か。人間の子供大から元の小人大にまで姿を戻したアイリが飛んできて、「ねえねえマイスター。それ、な~に?」そう尋ねた。

「これが味噌だ。これを溶いたスープを、味噌汁と言う」

これがミソか。変わった香りがする。そしてもう1つの甕の蓋を開けたシャマルが「粉? 粒? でもなんか良い匂い」と言っている。オーディンが言うにはダシなるものを顆粒状にした物だと言う。そのような説明をしながらオーディンは鍋に水に入れ熱し、熱湯にミソ、顆粒ダシを入れて溶かす。
そして火を止め、「今回は少々手を抜いたが、今はとりあえずこれで完成だ」と私とシャマルを見た。シャマルは「たったそれだけですかっ!?」その手軽さに驚いていた。確かに、これなら料理下手な私たちでもきっと・・・。

「飲んでみてくれ、みんな」

小皿にミソシルを注いでもらい、飲む。「美味しい」それが私たちの感想だ。手抜きでこの味とは。ミソシルの調理に手塩を掛けた時、その美味さはどこまでの物になるのだろうか。それから私たちは教わる通りにミソシルを何度か作り、「ま、こんなものだろ」オーディンにお墨付きをもらう。

「つうかすげぇよな、オーディン。3人に教えつつ夕飯作り。しかもミソシルの試飲までやるって」

「マイスター。お腹壊したりしたら・・・」

「ちょっとアギトちゃん? 私たちが劇物を作ってるように言うのはどうかしら」

「大丈夫だよ。味噌汁を不味く作るなんて、それこそ才能が要るから」

確かに。だからこそシャマルも卵焼きのような失敗はない。鍋の熱湯の量に対してミソや顆粒ダシの分量が適量であればまず美味しい。

「それで今オーディンさんが作っている・・・えっと、チャーハン?も、このミソが生まれた国の料理なんですか?」

「世界は同じだけど国は違うんだエリーゼ。よっと・・・!」

底が丸い大きなフライパン(チュウカ鍋というらしい)をオーディンが大きく振るうと、チュウカ鍋に入っている卵が混ざった白米(ライス)(魔導を惜しむ事なく使って一瞬で炊いた)、ハムやソーセージと言った具材が、

「「「「「おお・・・!」」」」」

宙を舞う。皆が皆、感嘆の声を上げ、力強い調理法を披露するオーディンを眺める。塩やコショウ、しょうゆと言った調味料を入れ味付け。それで完成のようで、作業台に置かれたターニャ邸に住まう私たち人数分の皿に盛って行く。

「美味そうな匂いしてきたぁぁーーーっ!」

「一気に元気を取り戻したなヴィータ。誰か、皿を食卓に運んでくれ」

「「はーい!」」

食卓へと運んで行く手伝いを申し出たアギトとアイリ(私たちの時は何もしなかったのだが・・・)が、皿に装われたチャーハンの香りを嗅ぐ。手伝わないヴィータに比べれば2人は良い子だが、他の者が食べる料理の香りを、「すぅはぁすぅはぁ」これでもかと言う風に嗅ぐのはどうだろうか。皿が食卓へと移動すると、他の者たちも釣られるように食卓へと移動していく。その光景を私はオーディンの隣で眺め、オーディンと共に苦笑する。

「ライスにはこういった調理法もあるんですね、勉強になります。エリーもメモくらいしておけば? オーディンさん。あとでライスを使う料理を教えてください」

「卵以上に焦がしそうなんだけど。ライスって・・・」

「アイリ、もう我慢できないもん。・・・うわっ、美味しい!」

「コラ、アイリちゃん。つまみ食いはダメよ。メッ」

「でも冷めちゃう前に食べたいよ」

「ターニャ、シグナムさんとザフィーラさんはまだ帰ってないんだよね」

厨房に、くぅ~、というお腹が鳴った音の大合奏が響いた。エリーゼとアンナ、シャマルが顔を赤らめ、恥ずかしげにこちら――オーディンへと振り向いた。私もお腹は鳴りはしたが、そこまで恥ずかしがるような事なのだろうか・・・?

「とりあえず冷めないように・・・」

オーディンが指を鳴らすと、食卓に並べられた皿全てに蒼い魔力膜が張られた。熱を逃さないようにするための結界だそうだ。万能すぎる・・・オーディンの魔導。それで熱は逃げなくなったが、チャーハンの香りもまた閉ざされ、ヴィータとアギトとアイリがガックリと肩を落とした。

主食(チャーハン)は終わったし、次は副食だな」

「あの、オーディン。私もお手伝いしてよろしいでしょうか。お邪魔はしませんので」

今なら私が一番先にオーディンのお手伝いが出来る位置に居る。だからこそ断れるのを覚悟の上で申し出てみた。しかしそんなものは杞憂で「ああ、頼むよ」笑みで応えてくれた。それから私はもちろん、シャマルにエリーゼ卿、アンナの4人で自発的に手伝いをし、オーディンの指示の下に夕飯を作り上げた。作り上げたのだが・・・

「作り過ぎたな・・・」

「「「「ですね・・・・」」」」

食卓に並ぶ料理の数々。チャーハンに野菜炒めにスープに、肉ダンゴなるものなどなど。大人数での2食分はあろう量だ。料理の楽しさを知ってしまった私とシャマルとエリーゼ卿が半ば暴走気味となってしまい、気付けば・・・という事に。

「私とした事が。この量、大食らいのヴィータやアイリ、ターニャだけでは、ちょっとな」

「それじゃあモニカとルファも呼びません?」

「それはいいわね。早速、呼びに行ってみましょう」

こうして本日の夕飯は晩餐会となり、騒がしいながらもとても楽しい晩餐会だった。楽しい。そう言った感情を抱く事が出来、そしてそれをこれからも続けたいと強く願い、祈る。だからこそこの日常を邪魔する者は・・・・

(全力を以って排除する)

 
 

 
後書き
ボン・ジュール、ボン・ソワール。
もうちょっとオーディン(ルシリオン)を、シャマルやシュリエルとイチャイチャさせたかったです。ラブコメみたいに。
守護騎士の中で特に好きな2強ですし。でも今の彼には、そういった余裕はもう・・・・。
 
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