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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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六話~お前の○○をモニュモニュさせろ!~ 3月13日修正

背伸びしてドアを開けて後ろを振り向き、テーブルに置いてある紫色に向かって声を掛ける。

「それじゃルナ、行ってきます」
『道中の不審者には気をつけてくださいね?』

ルナが心配そうに点滅しながら返事をするが、不審者に負ける程俺は弱くないのにな。
まあ、囲まれたりしたらほんの少しだけやばいかもしれないが……。

「そんな頻繁に不審者は出てこないでしょ」
『いえ、通学路の曲がり角、ゴミ箱の中、果てには商品の中にまで奴ら紛れてマスター達小学生を狙っているのです! 奴らは人間の限界を超えた動きを以って小学生に迫り、一瞬にして攫って行くのです。故に……』

ルナの言葉を半ば聞き流しながら玄関扉を潜り、閉める。
なんだよ、その不審者は。ゴミ箱や商品の中に隠れて小学生を狙うって不審者の領域を超えたただの変態だろう。そんな人達が道路にゴロゴロ転がっているわけだない。
……しかし、何でルナはここまで暴走するようになってしまったのか。
デバイスなのに随分と人間臭いというか……偶に前の日にテーブルの上にルナを置いていたはずなのに、次の日起きると何故か俺の部屋に置いてあるという事が何度もあったりする。
もしかしてデバイス単体で歩いているのではないか、と思うが、………気のせいだよな?

『あ! マスター! まだ話は終わってはいま』
「大丈夫だから心配すんなって」


身の丈に合わないブカブカした白い制服を着て学校へと向かう桜並木の中を歩く。
とうとう二度目の学生としての生活が始まるわけだが、面倒だと思うよりも何か感慨深いものを感じる。
異世界では、未開拓の地がまだいくらでもあったため、冒険者養成学校というような所に通っていた時があったのだが、その時はものの半年で平和の学園生活は崩壊した。
魔王軍の幹部が下級悪魔と学園に潜ませていた吸血鬼でその学園がある街を陥落させに来たのだ。
まあ、その所為で親友達と離ればなれになったり、最早一目見ただけで戦えないと分かる程の傷を負ったり、と中々学園生活には苦い思い出しか無かった。

だから、魔王というような侵略者がいない地球で且つ、平和な日本でのんびりと学校に通う事が出来るということを考えると自然笑みが零れてくる。

……これで、あいつらがいてくれたら最早言う事は何も無かったのだが。
まあ、あいつらの無事、なのか? とりあえず存在は確認出来ただけでも喜ぶべきなんだろう。
俺があいつらの所まで行けるようになればいいだけだ。

どうやって行くかは全く分からないけど。


もう聖祥の校門を潜るとこまで来たのだが、さり気なくメガネの子供が多い。
この歳の時点でメガネの子供というのは中々見ないだろうに……。
それだけ勉強したのだろうか?

そういえば、少し前に聖祥の入学試験を受けたのだが、想像していたよりも何故か難易度が高い問題が多かった。
まあ、一応大体このくらいだろうと予想していた範囲内のレベルだったため問題無く解けたのは良しとしよう。
しかし、書き取りの漢字が些かレベルが高過ぎた気がするのだが。
“聖”や“病”は小学校入学前に習う漢字だっただろうか……。……さすが私立ってことにしとくか。うん。それがいい。あまり深く考えなくてもいいことな気がしてきた。

のんびりと親子連れの新入生の波に紛れながら聖祥の門を通り、何処のクラスに割り振られたのか確認する。

「……2組か」
知り合いと言っても東雲くらいしかいないが、その東雲とも原作キャラや転生者達の状況把握を互いに情報交換をするくらいしかしていないため、ぶっちゃけ同じクラスでもそうじゃなくてもそこまで変わらない。


教室の中を覗いてもポツポツと五人程しかいない。どうやら俺は少し登校するのが早かったらしい。

「……何を考えてんだか。この学校は………」

この学校の教員達、何を思ったのかクラスの扉に張られてあるB4の紙には名前が羅列されてあるだけで、席は指定されていない。紙の下の方に目をやると、自由に座れと書かれているが、まだ幼い子供が果たして初対面の子の隣に平気で座ることが出来るのか。何も喧嘩が起きずに小学生がすんなりと席に座るのか。そんな疑問はいくらでも浮かんでくる。何しろ、入学したてのまだまだ自制心もきかない小学一年生だ。一体どうなるか分からない……いや、敢えてそんな場面を用意して、子供たちだけで対応して、早めにそういった状況に慣れさせる、という意図がある可能性も有り得るな。子供ってのは適応力が高い……と、俺は認識している。


取りとめもないことを考えながら、転生者らしき名前が無いか気まぐれに探してみる。
俺が思うに転生者だと露骨に分かる者も探してみると結構いるのだ。
まず容姿と言動。
俺が見つけた転生者で典型的な例を挙げると金髪のオッドアイの男、一年前から銀髪の男と毎回喧嘩をしているのが当てはまる。年齢にしてはやたらと成熟した容姿は魅了する以前に、むしろある種の違和感と気持ち悪さを覚える。言動は俺や東雲にも当てはまることだが、言葉の端々にハーレム、オリ主、モブ、転生者などの現実とは少々逸脱した単語が出てきたり、小学校入学前の子供にしては以上に精神が成熟し、やたら爺臭かったりする場合がそれに当たる。
まあ、精神が成熟しているという方は漫画やアニメではそういうキャラが居ることもあるので、転生者であるとは断言出来ないため、あまり参考にはしていない。鎌掛けはするけどな。
俺も、一般的な子供と比べて言葉遣いがおかしいことぐらいは理解していて、多少は子供っぽく見えるように小難しい単語と、爺臭い考え方を、他人との会話では意識して出さないようにしていたのだが、それでもルナから見ると子供っぽくないらしい。
全くもって子供っぽく振る舞うってのは難しい。


ふと教室内を見ると人数が半分に達していたため、教室へと入り、全体を眺めることが出来る最後列に座ろうとする……が、既に満席だったため仕方なく後ろから二番目の右端の席に座る。

そして、第二の特徴では名前が挙げられる。
これも言動以上に不確定なものだが、これであからさまな転生者候補はしぼれる。
なぜなら、名前については俺がこの世界に来て発見した金髪と銀髪、その他の転生者の名前を知った時に偶然気づいたため、確定するには材料が少なすぎるからだ。
だが、敢えて言うなら名前に“神”や、嫌に中二臭い単語が入っていれば転生者である可能性が高い。
実際に翠屋のマスター、まあ半年前から仲良くしてる士郎さんとの会話から判明したのだが、金髪オッドアイは佛坂神。銀髪は神白鋼。というように、見事に一致している。

そして、今回はこの二番目が当たったようである。
津神王牙(つがみ おうが)。クラスの名簿表に書かれてあった名前である。
さて、こいつはとち狂った人間なのか、それとも常識溢れる者のように普通に転生生活を謳歌しているのか……どっちだろうな。

「あの……隣良い?」

これから来る転生者についての対策を考えていると、話しかけられた。
紫色の長髪の少女……美少女かね? まあ美少女が何故かおどおどしていた。

「……あぁ、なるほど。どうぞ」

周りを見渡して気づいた。もうこの少女以外は席に荷物を置いているようで、俺の隣以外に席が無かったかららしい。別に何も言わずに座ってくれても問題は全く無いのだが……ああ! 小学校デビューってやつか。

そう思った俺は出来るだけ声色を優しくして返事をした。
ちなみにこの瞬間教室内で一部の魔力、主に津神あたりから急激に上がった。

「ありがとう」

何故かほっとして座るが男慣れしていないのだろうか。

それからすぐに担任の先生が入ってきて、体育館へと連れて行かれる。
そこで、長々と校長の話があった後は再度教室に戻り自己紹介だ。

適当に自己紹介を済ませ、次の人が席を立つ。席がバラバラなのに出席番号順でしているお陰で誰が席を立つのか分からないため、意外と楽しかったりする。

「俺の名前は津神王牙! スポーツは何でも出来るぜ! 女子の皆はよろしくな!」

そう言いながら笑うとクラスの女子皆を見ながらニコリと笑った金髪赤目のまたもや年齢に少々不釣合いなイケメン顔、津神王牙。
見た感じ、強そうなイメージは全くしない。いや、魔力量だけで言うならおよそ俺の二倍くらいあるのだが、これは津神が体に留めようとしていない。要するにただ垂れ流しているだけの魔力だけで俺の二倍はあると分かるわけだが、津神の持つ本当の魔力量は……大体俺の十倍くらいだろうな。
まあ、魔力量十倍程度ならまだ普通に戦えるな。洗練されていない魔力なんてどれだけ多くても意味を為さない。

そして、津神が座った後に聞こえるヒソヒソ声。周りを見渡すが女子全員がさっきまでの子供らしいニコニコ、ワクワクとした雰囲気が消えているという少し異常な事態になっている。

……まさかね。

少し思い返せば、神白鋼が似たような自己紹介をして同じように笑った時に女子達が何かそわそわとしだし
ていた様な気がする。いや、隣の少女は平然と……していないな。同様に他の女子程ではないがそわそわとしている。

そして、隣の少女が立ち上がる。

「月村すずかです……。趣味は読書です。一年間よろしくお願いします」

名前が判明。月村すずかというらしい。っていうか随分と大人しそうな子じゃないか。そんなんじゃ誰も友達を作ることが出来ずにぼっちで学校生活を送ることが出来るかもしれないぜ?

それからしばらく自己紹介が続き、ようやく終わると俺は(ダサい)メガネを着ける。

「……おぉぅ」
「どうしたの? 門音君……?」
「いや、何もないよ」

なんと女子全員軽い洗脳下にあるという事実。まあ、このレベルの洗脳ならこれを掛けた人を見ると胸が高鳴るというレベルなので、別に問題は無い……と思う。時間が経過する毎に悪化していく類じゃないことを願いたい。
余談だが、前に公園で転生者に迫られていた女の子、後に知ったが高町なのは。士郎さんの娘が掛けられていたのはこの洗脳の上位版だったりする。
……この洗脳能力の名前に関しては8割方予想はついている。

「ニコポ、ナデポってこんな厄介な能力なんだな。……ったく。解呪する方の身にもなれってんだ」

女子の大群を眺める。まさに現在その厄介というか奇妙な事態が起こっており、神白と津神の両方に丁度半分ずつくらいで群がり、きゃあきゃあと質問を浴びせかけ、対する男二人も満更でもない表情をしている。
ふと、隣を見る。月村さんがすっごいうずうずしている。洗脳に抗おうとしているのだろうか。
……ちょっと手助けをしよう。

「っ! いふぁいいふぁい! 離して!」
「あはは。何となくしたくなった」
「な、何で急に頬を抓るの!?」

何か結構怯えられた。まあ、別に良いけど。

「えー。でも何かこうされると落ち着かない?」
「そんなわけな……あれ? 本当だ」
「だろ?」
「う……うん」

ごめん嘘。ただ、解呪しただけだよ。



「それでは、みんな。元気に寄り道せずにお家に帰りましょうねー」

担任が帰りの会を終わらせるために号令をした後、すぐに鞄に荷物を詰め込みさっさと帰る……
前にクラス内の全員に気付かれずに解呪しておく。軽めのニコポだとしても塵も積もればなんとやら。何度重ね崖すれば酷いレベルにまで達するだろうさ。
そうなれば、解呪にも時間が掛かるから面倒だ。

まあ、解呪と言っても魔眼を発動した状態で目を合わせたり、先ほど月村にしたように魔力をこっそり流し込めばいいのだ。
俺の洗脳が自身の魔眼で解けるのだ。あいつらのニコポも解呪できるはずだろう。

さて、いっちょ頑張ってみるか。



(っていうわけで、あの転生者達の所為で聖祥が学級崩壊を起こす可能性もあるから挙動不審な子見つけたら教えてくれ)
(ああ。見つけたら連絡する)
(サンキュー東雲)


東雲へと念話を送った後のんびりと家に向かって歩く。
あの後結構頑張って解呪して回った結果、なんと全学年に満遍なくニコポされている女子がいた。
……魔眼が魔力を消費しないから全員解呪出来たが、魔力だけで解呪するなら間違いなく足りなかった。

しかしあいつらのニコポナデポというのは制御は出来ないものなのだろうか。


笑えば自分に好意を寄せる。


撫でれば自分に好意を寄せる。


こんな使いづらいものは無いと思うが。おちおち笑顔でもいられないし、間違って人の頭に触ったりしたのも撫でたという判定になるのならまず、物理的な対人恐怖症になるだろうよ。
それに好意を寄せた女性と言っても皆がみんなキャーキャーとアイドルがやってきたかのような反応ではなく、ストーカー行為や、自分だけを見てくれないから一緒に死んでやる。なんていう人も出てくるだろう。まあ、病んだ人はあまりいないだろうと思いたいけども。

人が死ぬのは後味が悪いしね。まあ、殺す時は殺すが。


「誰か! 助けて! ねえ、誰でもいいから!!」

ふとどこから俺と同じ歳くらいの女の子の声が聞こえた気がした。周りを見回してみるが、誰もこの声に反応する素振りは見せずに、黙々と携帯をいじりながら歩いているスーツを着た男性や、大きな声で楽しそうに話す女子高生。そこらへんにたむろするヤンキーやギャル達。誰もが何も起きなかったことのように自分が今していることに夢中だ。

……気のせいか? いや、俺が聞き間違えるはずがないし……。こっちに来てから衰えたか。

『早く助けて! リニスが消えちゃう!!』

聞こえた。

「……あっちか」

周囲を見回し、今度ははっきりと聞こえた声の方向に向かって歩いて行くと、路地裏の方から声が聞こえてくるらしい。

『ねえ! リニス!? 返事をして!? なんで!? なんでなの……』

少女の声がする方向へと近づくほど切迫した雰囲気の声がより鮮明に聞こえてくる。
あまり他の人に怪しまれない程度に足を速める。
そろそろ路地裏へと入る距離にまで近づき、とうとう、少女が必死で助けを呼ぶ姿も人ごみを越えたことではっきりと視認出来るようになったにもかかわらず、誰もその声には反応しない。むしろそこでほぼ泣き崩れようとしている金髪の少女がいるにも拘らず、だ。

……もしかしてこれは助けに応じる応じないの問題以前にこの声に気付く気づかないの問題かもしれない。

とりあえず、路地裏の入り口で泣き崩れた少女は無視して路地裏へと踏み込む。

『あ! もしかしてリニスを助けてくれるの!?』

ばっと泣き腫らした顔を上げて、俺が路地裏へ入るのに気付いたのか、ふわふわと浮かびながらこちらへとやってくる。
顔は整っており、目の色は充血しているのではなく、赤い。そして他の人よりも少し、ほんの少しだけ薄い。
この少女について大体の正体は掴めているが、今はそれを無視してリニスという人物か? そこに向かう。

『ねえ。聞こえてるんでしょ? ねえ、ねえってば』

歩を進めるとそこには体から光の粒子―――感覚から多分魔力だ―――が出ているボロボロの猫がいた。
こいつがこの少女が言っているリニスなのだろうか。

『あなた魔力があるならリニスを助けてよ! リニスは使い魔なの! だから魔力をあげて!』
「そんなに騒ぐなよ。ちゃんとこの猫は助けてやるから」
『ほんと!? っていうかやっぱり気づいていたじゃない!!』
「はいはい。とりあえずこの猫一応魔力供給したけど、まだ心配だから家に連れて帰る。お前も付いてくるか?」
『……!! うん!!』

金髪少女は一瞬ぽかんとした後、目を潤ませながら嬉しそうな笑顔で頷き……

俺に憑いた。

……おい。

―――さあ! はやく家に帰ろう!!―――


……しょうがないな。
路地裏で少し溜め息を吐きながら俺は家へと空間転移する準備をした。












「っよ。親友」

「私は親友などという高尚な存在じゃない。……今日はまた随分と疲れてるな?」

「まあそう言うなよ。一年も毎日会話していたんだから親友で良いだろ? それと……やっぱり分かる?」

「ああ。はっきりとな。何かあったのか?」

「今日は色々ありすぎて対処に疲れたんだ。小学校の入学式で何故かクラス女子が洗脳下に置かれたから全員に気づかれないように解呪したり、他のクラスももしかしたらと思ったらやっぱりそうだったからまた解呪に向かって……」

「ちょっと待て。お前は呪いを解くことが出来るのか!?」

「んあ? まあ、呪いのレベルにもよるけど軽い呪いならノーリスクで出来るぜ? まあ、重すぎたらそれこそ何か供物を用意しないといけないけどね」

「そうか……」

「? ……まあいいや。それでさ、結局疲れて帰ったんだけどその帰り道で捨て猫を拾ったんだ。それが中々可愛くてさ」

「……ふむ」

「拾って家で育てることにした」

「急だな」
 
 

 
後書き
タイトルの○○に入るのはもちろん「ほほ」です。 
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