トリコ~食に魅了された蒼い閃光~
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第五話 過ぎ去りし日々(短編集)
前書き
投稿しやすい……
無人島生活十四日目
何と今日は目標のバロンタイガー以上の強敵と遭遇してしまった。本来は捕獲レベル3の動物に挑むつもりだったのだが、そこは大自然。中々思うように事は運ばずレベル4のシャクレノドン出くわしてしまった。しかし俺はそんなピンチすらも自分の糧に変えられる男、いや漢なのだ!
両者手に汗握る激闘の末なんとか勝利を手にすることができた。まぁ食後すぐに戦ったせいで本来の七割ぐらいしか実力が出せなかった気がする。うん、ちゃんと消化してからなら余裕だ。デザートもあればなお良い。あとちょっと何か手首がアレだったし。
「よし、こんな感じでいいだろう」
動物の骨で洞窟の壁に気まぐれに書いた日記を書き終えた。なんて意味のない時間だったのだろうと密かに自分の愚行に嘆きつつ、シャクレノドンの調理を始めた。
まぁ調理と言える程でもないけどまずはシャクレノドンの肉に火を通す。しかし毎回焼いて食べるだけでは芸がないので、手帳の記載によれば骨からもダシが取れるということだったのでお鍋にして食べることにした。
勿論鍋など無いため、愚神礼賛を鍋に変化させた。何故だろう心なしかいつもより変形が遅い気がする。生意気なっ!
グツグツと沸騰させた鍋の中にシャクレノドンの骨を入れる。ダシが取れるまで時間が掛かるため、その間あのバロンタイガーを処理する。皮と牙を剥ぎ取り、こびりついた血や脂を洗い落とす。
最初、動物を剥ぎ取ることにかなりの抵抗があったが今では手馴れたものだ。ちょっと自分でも意外だったことに殺すときは何の抵抗もなかった。いや、何の抵抗もなかったことはないけど思ったよりも早く立ち直れた。
問題はその後で、殺したということに対しての免罪符はいろいろとあったので良かったが解体はキツかった。ただひたすらグロい。生きていくってこういうことなんだと改めて実感したのもその時だ。
海水で洗っているこのバロンタイガーの毛皮も大切に使おうと心に決め、天日干しをする。うむ、完璧だ。誰か盗ったら殺す。
いい頃合になったであろう鍋を覗くとまるで豚骨スープのようにコク深い良いダシが取れていた。もうこのまま飲み干したい衝動に駆られるが、そこは我慢をしてバロンタイガーの血抜きした固い肉を放り込む……骨を入れたときに一緒に入れればよかったと後悔しつつまた煮込む。これで何とか柔らかくなっていることを祈りつつ数時間待つ。
その間、帰宅途中で採れたベーコンの葉にバナナきゅうりを巻き間食する。
「うむ、実に美味。一度は食ってみたかったんだよな、これ。原作で凄い美味しそうだったし。そして期待通りに美味!」
牛肉並の脂肪分があるくせにカテゴリーは植物なんだよな、これ。包まれているシャキシャキとした歯ごたえのバナナきゅうりとよく合う。
それにバナナきゅうりは栄養価が高く、エネルギー吸収に優れてるから傷ついてる今の俺にはベスト!ってわけだ。もぐもぐ。
そしてシャクレノドンの焼けた肉は鍋にせずそのままアゲハコウモリの香辛料を使いステーキにして食べる。きめ細かい美しい霜降り、さわると溶けてしまう脂肪、甘みと深みのある旨み……まさに極上の肉。歯ごたえは確かにあるのに、次の瞬間にはとろけてしまう何とも言えぬ食感。濃厚な旨みが口の中全体に広がっていく。至福の時間だ。美味ィ!
その二品を平らげた所で、鍋の中を覗き骨でバロンタイガーの肉をつつくとすでに柔らかくなっていた。はやっ!恐るべしシャクレノドンのダシ。
火を消して、仕上げにポキポキキノコとビアロブスターを入れる。
「んじゃ、いただきますっと」
まずはバロンタイガーの肉を頬張る。筋張ってはいるものの思ったより柔らかくなっていて、歯ごたえのある肉となっていた。意外と食べれるな。
続いてはポキポキキノコ。これは湯通しをしなかったためポキポキとした食感が残っており、それがたまらなくクセになる。
ビアロブスターも豚骨に似た汁が身に絡まりプリプリの歯ごたえとよく合う。そして残った汁を最後まで飲み干し完食した。
「ごちそうさんでした」
まさか二頭丸々食べきってしまうとは自分でもビックリだ。自身の身体を見てみると先の戦闘で負った傷がもうなくなっている。回復力も有り得ないな、さすがグルメ細胞。以前よりも力も電気総量も上がっている気がする。
「さて、今日は少し早いが寝るとするか」
こうしてまだ昼過ぎだというのに俺は就寝した……翌日バロンタイガーの皮と牙が無くなっており激怒した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
無人島生活一ヶ月と少し経ったある日俺はいつものように狩りを終え、唯一の楽しみである食事を終えたときそれは起こった。
突然の腹痛。前世ではたまにあることだった。誰しもが生きてきて経験したことがあることだろう。しかし俺はすぐに疑問に思った。何故グルメ細胞を所持している俺が腹痛に見舞われているのだろうと。
今の俺ならば生肉をそのまま食らっても食当たりを起こすことなどない。生きた魚をそのままかぶりついたとしてもお腹を壊すことはまずない。それは実証済みだ。
ならば何故?と言う疑問はすぐに晴れた……状態異常の悪化によって。
腹痛は初期段階。その後すぐに全身に痛みが襲いかかった。止めどなく流れる汗は暑さによるものではない。震える手足に、霞みゆく視界。
――それは毒。それも俺の体に害をなす程の猛毒。
一体いつ俺は毒を受けたんだ。毒を持ちの敵とは遭遇していないはず、まさか目視できないほどの奴だったとでも言うのか。確かにその可能性はあるが、しかし俺の視力はグルメ細胞により常人よりは遥かに優れている。何より敵がいたのなら感知できる自信がある。
そうなると残りの可能性は……俺が狩り、食したこの獣が持っていた毒?だが、こいつが毒持ちではないことは調べがついている。
突然変異種で毒を持っていたとしても変異種なら色違いなどの特徴が体に出るはず。こいつは確かに普通の獲物だった。いや、抗体持ちだとしたらどうだ?
俺がこいつを狩る直前に毒持ちの動植物を食し、その毒が残ったままだとしたら。しかも加熱による影響をも受けないタイプの毒だとしたら……これが正解っぽいな。
気だるい体に鞭を打ち、瞳を閉じて集中する。毒を受けたときの対策は二つしかない。一つはそれを解毒できる物を食すこと。もう一つはこの毒に対し抗体を作り上げること。
精神を集中させ、身体の内部にある毒をイメージで認識する。そうイメージだ。俺は身体の構成などの医学的知識はない。だとすればせめて想像力でそれを認識しその毒の抗体を作り上げるしかない。
座禅を組みながら、神経を研ぎ澄ます。すでに俺の身体から毒素を押し出そうと汗が止めどなく流れ出し床に滴り落ちている。それが溜まりに溜まって水たまりになっているほどに。
それから何時間経過しただろうか。食事をしたときは昼だったはずなのに、外は夕日が沈もうとしている。徐々に楽になってきた身体に安堵しつつもまだ気を抜けないと踏ん張る。
さらに一時間程して、無事身体から痛みは消え思うように動くことができた。
「し、死ぬかと思ったぁ~」
床に大の字に倒れこむ。少し乱れた息を整えるようにしてこれからのことを考える。さすがにこんなことはもうご免だ。やはり、徐々に抗体を作っていくのがいいだろう。動植物から毒を取り出して物によっては数十倍に薄めて徐々に体に慣れさせていくのが無難だ。だけどその前に
「飯だな。飯。腹が減っては何とやらってね」
獲物を食べてあんな思いをしたのにすぐにでも食べたくなるのはこの世界の食べ物が美味しすぎるせいか、それとも俺が図太くなったのか……前者であることを祈ろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
無人島生活四年目ぐらいかな。多分そのくらい。
自宅の洞窟の内に一日事に線を増やしていき五日経つと「正」になるようにして数えているのだが最近増えすぎて新興宗教みたいな穴蔵と化しているので怖い。いい加減引っ越そうとも思うのだが、どうも愛着が湧いてここを離れられない。結構安全だし。
捕獲レベルも二十前後ならば捕らえられるようになってきて食の選択が増えて嬉しいのだが、どうも単調な料理しかできずそろそろレストラン等で料理人が手を加えた物が食べたくなってきた。
そのためにはこの島から出なければならないのだが、ここは完全な無人島のようで誰一人、人間が見当たらない。建造物もない。脱出方法をそろそろ考えなければいけないんだけど、その前にこの島で最強にならないと気がすまない。RPGでも余裕をもって次のダンジョンに行くし。
まだまだ年月をかけて修行しないといけないようだ。
来た当初は一週間で捕獲レベル1づつ上げていくなんて無謀なペースだったのですぐにでも最強の座に座れると思っていたんだけど、レベルが上がるにつれてペースも下がってきた。毒の抗体とかも作らなきゃいけないし。
レベル18の奴を簡単に倒せたと思ったら16の奴に苦戦したこともある。もしくは同レベルのはずなのに片方は苦戦し片方は勝てず逃亡したこともあった。相性やら何やらでね。レベルは絶対視せずあくまで目安として測った方が良いということも学んだ。
学んだと言えば、俺の電気についても新たな発見があった。
俺の生体電気は絶縁体でも電気を通すということだ。全身の鱗がゴムで出来た獣と勝負したときにそれは分かった。その後も電気のみでそいつと戦ってみたが無事倒すことができた。ただし電気の燃費が悪かった気がする。
他にも実験として微生物すら存在しない程綺麗な透き通る程の泉にノッキングしたザリガニフィッシュを解放する。ノッキングが解けた後、ザリガニフィッシュがギリギリで倒せるほどの電気を泉に流し込む。
通常水は電気を通しやすいと言われているがそれは水の中にいる微生物や目視できないほどのゴミが電気を通し結果として感電するのである。つまりそれらがなければ水は殆ど電気を通すことはなく感電という現象は起こらない。がしかし、その泉に電気を通すと感電死しているザリガニフィッシュが浮かんできたのだ。
つまり俺の電気は自然界に存在する雷や科学的な電気では説明がつかない謎の電気なのだ。これは恐らく俺の魂が関係していると思う。あの神隠しにあった時、白い部屋にいた男は言っていた。異なる魂が入り込み生まれてしまったと。
つまり前世の世界でもなくトリコの世界でもない、どこかの世界で生まれるはずだった魂だ。そして俺の電気体質は本来生まれ落ちるはずの世界の力の名残。それが覚醒し尚且つグルメ細胞によって変異してしまった。
つまり魔法のような電気なのだ。
そのことを正しく認識した瞬間、俺の電気はさらなる進化を遂げた。いや初めから俺の固定概念が邪魔だっただけでその電気を十二分に活かせてなかったのだろう。そしてこの三年間俺は容量が増えるのを待つだけではなく電気の修行にも力を入れた。結果様々な技を手に入れることができたわけだ。
そのお披露目はまたの機会に。
後書き
少年編終了。
次話からは性年じゃなくて青年編です。ついに島から脱出します。ちょっと急ぎすぎた感が否めない。
補足説明
ぶっちゃけ主人公がやった実験ってあまり意味ないです。っていうか泉の微生物の有無なんてわからないですし。ただ結果論で言うと魔法の電気という認識で当たってるんです。今回の実験は実験自体間違っているけど結果的に通常の電気とは違うよってことを理解してもらうための話でしたとさ。
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