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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第九話






 大日本帝国の特地派遣部隊は自分らの場所を作りながらコダ村からの避難民への仮設住宅を建築していた。

 仮設住宅が完成するそれまではテント生活ではあるが仕方ない。

 アメリカから提供されたブルドーザー等(元はフィリピンで使用されていたが門出現後に輸出第一次陣として早くに日本に到着した)の重機が唸りをあげて地面を掘り、切り倒した木の根本を取る。

 そうした中、陸海の会議室で樹はヒルダに日本語を教えていた。一応、樹はあのヒルダによるアッパーの衝撃でこの世界の人間とは話せるようにはなっていたが、一応は通訳がいた方が何かと楽なので樹はヒルダに頼み込んだのだ。

 ヒルダも向こうの世界を知る一環だし、向こうの政治も気になるので文句はなかった。

「これは?」

 樹はヒルダのノートに『あお』を書き込む。

「あお」

「よし、なら三文字だ。これは?」

 樹はそう言ってノートに『にほん』と書き込む。

「にほん」

「よしよし。平仮名は大分出来てきたなそろそろ片仮名に入るか」

 樹はそう言って小学一年生が使う片仮名の文字を書く。そしてそれを隣からずっとロゥリィが見ていた。

「楽しいか?」

「楽しいわねぇ。私の知らない文字だしぃ」

 ロゥリィはそう言って平仮名の紙を見ている。自分が知らない文字なのか幾分かは興味津々のようである。

「(美女と美少女に勉強を教えてるとか、夢に近いよなぁ)」

 樹はそう思い、ヒルダといつの間にか参加しているロゥリィに日本語を教えるのであった。

 数日後、仮設住宅は完成して避難民達はテントから仮設住宅に移り住む。そして翌日、竜の鱗を取りたいと伊丹に言ってきた。

「なんとッ!? 好きに取っていいとなレレイッ!?」

「そう言ってる」

 レレイの言葉にカトーは驚く。

「どうせ射撃訓練の的にしてるだけだし、自活に役立つならいくらでも持ってっちゃって」

 伊丹のあっけらかんとした言葉に流石のカトーも唖然とするしかなかった。

 しかし許可が降りたのもまた事実であり、避難民達は喜びながら竜の鱗を採取していく。

 その採取する横を訓練中の九七式中戦車数両が通り過ぎていった。




 それから二日の時が過ぎた。

「……おほん」

 坊主頭の大尉が新聞を読みながら咳払いをする。

「ぐぅ……ぐぅ……」

 伊丹大尉は自分の机で寝ていた。何もないので寝ているのだ。これが内地にいれば本屋に行って外国の本とかを立ち読みしていたりする。

「伊丹大尉殿」

 部下の黒河軍曹が伊丹を起こそうとするが起きる気配はない。黒河軍曹は仕方なく背中を思いっきり叩いた。

「ぬおッ!?」

「起きましたか?」

「黒ぉ~、いきなりは酷いぞ」

「栗山よりマシです」

「……納得した。で何よ?」

 伊丹は納得しつつ訪問者の黒川軍曹に訊ねた。ちなみに栗山とは第三偵察隊に所属する栗山軍曹の事でノモンハン事件の戦闘を経験している猛者でもあった。

「保護したテュカの事です」

「ん?」

「様子がおかしいんです」

「彼女の様子が?」

「はい。食事、衣類、居室は全て二人分を求めてきます。ですが食事は一人分だけ食べてもう一人分は手をつけないんです。それと衣類は男物を請求してきます」

 黒河の言葉に伊丹はお茶が入った瓶に口を付けたまま暫くは動かなかった。

「理由……聞いたみた?」

 伊丹はゆっくりと瓶を机に置いた。

「レレイちゃんやヒルダさんを通じて尋ねてみたのですが、「分からない」「食事時に」「いない」そうです。レレイちゃんもヒルダさんもまだ日本語が上手じゃないので……」

「……幽霊の彼氏を飼っているとか?」

 気分を紛らすために伊丹はそんな事を言うが黒河の表情は冴えない。

「それならばいいのですが……或いは亡くなった家族を一定期間生きているかのように扱うという葬送の週刊かもしれません」

「カトー先生には?」

「先生もよく分からないそうです。彼女はエルフという種族でも希少な部類らしく……」

「やっぱ妖精種のエルフか~」

 黒河の言葉に伊丹はそう言った。

「それか家族が死んだ事を無意識のうちに認めてないかもな」

 そこへ樹が口を挟む。

「恐らくテュカちゃんはあのドラゴンに家族を食われたんやろ。そのせいでまだ家族は生きていると思っているんやろ」

 樹はそう言ってお茶を飲む。

「……ま、よく話し合ってみるしかないんじゃない?」

 少し重くなかった空気を変えるために伊丹はそう言った。

「はい……けどあまり打ち解けてくれなくて……」

「え? 人気者の黒河(クロ)ちゃんに?」

 黒河の言葉に伊丹は驚く。ちなみに黒河軍曹はかなりの美形であり、避難民の女性達から人気があった。

「それは困ったな。栗山(クリ)は拳で語り合う男だしな~」

「アッハッハッハッ!!」

 伊丹の言葉に樹は思わず笑った。

「隊長、そろそろ時間です」

「え? もう?」

 その時、桑原曹長が入ってきた。

「まぁ今から偵察ついでに鱗を売りに行くし、彼女らを連れて街まで行く事だし時間があったら俺も話してみるよ」

「ありがとうございます大尉殿」

 伊丹の言葉に黒河は頭を下げた。







 
 

 
後書き
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