インフィニット・ストラトス~黒き守護者~
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維持でも話す気はない
「一夏」
「? どうした祐人」
「今日は君にある女の子の相手をしてもらいます」
それと同時に俺たちが今いるピットの反対側から打鉄弐式を纏った簪が現れた。
というか簪はあの日以降、頻度は少なくなったとはいえ俺に会いに来ている。本音がいない分デートといった感じに近くなる。まぁ、それは置いておこう。
「あの子は、確か俺を睨んでいた………」
「そりゃそうだろ。お前の白式のせいで開発が見送られ、今まで一人で作ってたんだから」
「そうか……。そりゃ悪いことをしたな………」
やはりというかなんというか、一夏はそういうところもきっちりしていて反省する。ただ甘すぎるのだ。
「というわけで、彼女と戦ってもらう。あ、安心して。お前は絶対に負ける」
「………。いくら俺のせいだとはいえ、俺もそう簡単には負けるつもりはない!」
「そうか。じゃあ精々抗ってこい」
そして俺は管制室に移動して打鉄弐式の様子を見る。その後に織斑先生と更識楯無が入ってきた。
「どうしたんですか二人とも。もしかして、俺のこと―――というよりディアンルグ、そしてシヴァが気になるとかでしょうか?」
「まぁ、そんなところだな」
「なるほど。出力をかけているとはいえ、装甲を溶かすビーム兵器、福音を単騎で止め、さらには30以上の無人機のノーマルとVTシステム、そしてIS学園のセキュリティーすら掻い潜って現れる謎の少女『シヴァ』。挙句には謎のワンオフ・アビリティー『覇気顕現』を使用する前に使った棍棒にたまに感知ができなくなったりと謎の現象を聞きたいってわけね。篠ノ之束? IS委員会? それとも学園上層部? または各国の政府? まぁ、どちらにしても話す気はないですよ」
視線はいつの間にか蹂躙されている一夏に向けている。あ、火力の問題かぁと思いつつも、織斑千冬が殺気を放つのを感じている。
「参考に聞くが、オルコットと最初に戦ったとき、何割の出力を出した?」
「言えませんよ。俺は信用していない人間に自分の手札を教える程馬鹿じゃない」
「なら簪ちゃんの打鉄弐式でのデータ提供は?」
「最初に出したので補えたからな。それに振動のデータは既に《斬血》で見せているし、機構は《斬血》とほぼ同一だったから問題はなかった。この理由で納得いくか?」
そう言うが、それでも納得はいかないだろうとは思っている。が、
「………いいだろう。今回はこれで引いておく」
つまりそれは何回もあるってことかよ………。
そう思いながら俺はため息を吐き、さっきのデータを纏める。打鉄弐式は今のままでいいだろう。
「………んで楯無、ほかに何の用があるっていうんだ?」
「簪ちゃんのことで、ちょっとね………」
「お礼ならいいぞ」
「………そう。でもありがとう」
それだけ言って楯無は消えた。
■■■
現在は日にちが進み、今度行われる『キャノンボール・ファスト』に専用機の数が多いこともあり、一年は専用機持ちグループと訓練機グループとで分かれてするらしい。
それで一夏とオルコットが見本を見せているのだが、
(今度の大会、どうしようか………)
まぁ、無難に走りますか。
『でも、ねぇ………』
『最悪の場合、中止ですね………』
(文化祭の時にイギリスから『サイレント・ゼフィルス』という機体が盗まれたことが判明したしなぁ………。本当に盗まれたどうかは怪しいが)
『どういう意味?』
『つまり、本当はデータを取らせるためにわざと渡した―――と言いたいのですか?』
(そういうことだ)
その可能性はあまりないだろうが、完全にないとは言えない。まぁ、各国の思惑なんてどうでもいいが、こっちにまで迷惑をかけられたら困るというのが本音だ。
そう考えてため息を吐いていると、ふと本音が視界に入った。どうやら今度の大会に出る気はないらしく、こっちに近づいてくる。
「今度は本音を使って聞き出す気か、あの女は?」
「違うよ~」
「じゃあ、何が目的だ?」
―――スリスリ
本音は擦り寄ってくるが、肝心の俺はわかっていなかった。
「はぁ。ちょっとは公衆の目を考えろ。全員がこっちを見ているだろ」
ただでさえ俺は不穏分子とされていて、周りから批判を受けている。原因は誤解とはいえ女に手を出したことらしいが、喧嘩を売っている風情がそれを言うかというのが本音だ。
「良いんだよ~」
「大体、お前が前みたいに虚先輩に怒られるだけだぞ」
「いいも~ん」
はぁ、とため息を吐きながら俺は本音を退かせた。
「とにかく、俺はエネルギー相談に行ってくるから」
「いってらっしゃ~い」
本音の相手をするのに初めて疲れた瞬間だった。
「おーい、祐人」
そしてちょうど呼ばれた。
「何だ?」
「いや、祐人って整備面も明るいんだろう? それなら箒の紅椿の展開装甲についての意見をもらおうと思ってな」
「ぶっちゃけて言えば紅椿は展開装甲を使う割にはシールドエネルギーが少ないんだよ。前の事件も調子を抑えられなかったことと一夏の甘さ以外に挙がるのは白式と紅椿の燃費の悪さだ」
それだけ言って一夏をどこかに行かせる。
最初は少し不満そうにしていたが、ちょっとばかり脅すと文句はなくなった。
「それと、そもそも紅椿はワンオフ・アビリティー《絢爛舞踏》を使用するのを前提に造ったんだろうと思うな。そしてたまたま発動しているのを見たがその時に心の中で噴いた」
「そ、そんなに私の姿がおかしかったのか?」
「いや、お前じゃなくてお前の姉。意図を教える気はないけどな。とにかくお前は少しはその性格を砕いてみればどうだ? そして純粋にあの馬鹿を思えばいい。そうすれば発動するかもな」
そう言って俺はその場を離れる。
(何を考えているか知らないが、ふざけすぎているだろ)
『確かにね、渡すならもっとマシな物を渡せば良かったのに』
と、シヴァと言い合いをしていた。
■■■
―――虚side
最近、お嬢様の様子がおかしい。
断片的に話を聞いただけだが、どうやら祐人の秘密を探ろうとして深追いしすぎたらしく、簪様と本音を人質にされたらしい。
それを私と本音に話してくれたが―――どうやらそれだけではなさそうだ。
「………バカ祐人。少しは私にも話してくれてもいいのに………」
滅多に呟かないお嬢様にしては、珍しいと思った瞬間だった。
簪様がお嬢様のステータスを疎ましく思ったりするように、お嬢様もまた、簪様を羨ましく見ていた。原因は祐人だ。
頭いい祐人は持ち前の頭脳を駆使して簪様と本音に勉強を教えていた。そしてそれを疎ましく思っていた女子児童をいなくするために簪様がお休みになられたときにわざと教室にある自分の椅子を使って窓ガラスを割るという奇行をして怯えさせるだけじゃなく、「簪ちゃんがいないと授業がつまらなくなって窓ガラスという割りやすい物を割りたくなるんです」と堂々と言った。さらに簪様が男子児童に人質に取られるが―――遠慮なく蹴って脅して見下すという謎の行為を行ったりという非行行為を繰り返したおかげでその学校は必ず簪様と本音、そして祐人を同じクラスに置いた。
だけどある日、何故か当時小学生のお嬢様を引っ張って帰ってきた祐人を見て全員が驚いたが、何より普段泣かないお嬢様が珍しく泣いていることに異変を感じて説教されている間、お嬢様はとんでもないことを言い放った。
「ねぇ、うつほちゃん」
「なんですか?」
「ゆうとくんって、うつほちゃんのおとうとよね?」
「そうですが?」
「じゃあ、ゆうとくんをちょうだい」
この後、泣きながら戻ってきた祐人がお嬢様を売って逃れたことに怒ろうとしたが、父に止められて止めた。何故なら―――父の手首には祐人の歯型が残っていたこともあったが、
「……血、まずい……」
そう言いながら口をゆすいでいた祐人を見て少しばかり怖くなったからだ。
今、『風宮祐人』という名前で通っているのが私たちが知る『布仏祐人』だというのが今の世代の更識家と布仏家での推測だが、この予想が当たって欲しいというのが私の本音だった。そうじゃないと、簪様は自分のせいで『布仏祐人』を消したと思っているだろうし、本音は久々に会う兄だし、それにお嬢様にとっての初恋の相手だろうから。それに………私も久々に会う弟と話がしたいから。
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