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遊戯王EXA - elysion cross anothers -

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TRICLE STARGAZER
  TRSG-JP009《未来に繋ぐ布石》


「今ここで、私が風見君の……蓮くんのことを好きだと言ったら、どうしますか?」


 ゆみなの口から零れ出た、愛の告白。こんな簡単に答えられるはずがないのに………それなのに、なぜ俺はすんなりと答えられてしまったのだろう。


「……ごめんなさい」


 何故俺は、こんな簡単に人の気持ちを切り捨てられたのだろう。

「……理由、聞いてみてもいいですか?」
「理由、か……」

 理由なんてなかった。なのに、どうして?

  ―――今の関係を壊したくないから?

 ………うん、そうかもしれない。恋人になるってことは、それ相応の誠意と覚悟を示すということ。そのために、他の関係を切り捨てることも辞さない覚悟があるということだ。

「……紗姫姉を、これ以上悲しませたくないから……かな」

 ………そう、俺はそれが怖かったんだ。紗姫姉の悲しむ姿に背を向けるのが………。

「紗姫先輩……なんですね」
「うん。紗姫姉が俺への依存をなくすときが来るまで、俺は誰とも付き合えない。それが俺の答えだよ、ゆみな」

 俺の出したその答えに、ゆみなは……


「ですよねー!」


 ……笑顔で、そう言い放った。

「……はぁ?」
「ごめんなさい、蓮君。今の私の質問、ちょっと意地悪でしたね」

 え、ちょ……ええ!?

「もういいですよ、紗姫先輩」
「あ……うん!」
「ファッ!?」

 ちょ、紗姫姉起きてたの!?
 俺の背から飛び降り、大きく伸びをする紗姫姉。体はまだアイシアのままだけど、もはや自分が天河紗姫であることを隠すつもりは無いようだった。

「……紗姫姉、いつから起きてたの?」
「えーっと、私がれーくんを庇って車に轢かれちゃったってとこ」
「「早っ!?」」

 あまりに早すぎるからゆみなまで驚いてるじゃんか!

「え………じゃあ」
「うん。私の気持ち、ちゃんと受け止めてくれてたんだね、れーくん!」
「アッ―――!」

 うわ、ちょ、嘘!? あの、俺の言った言葉、全部――――!?

「『紗姫姉を、これ以上悲しませたくないから』キリッ」
「ゆみなァ! キリッとか言うな! 本気だったのに! 紗姫姉が寝てると思ってたから恥ずかしくなかったのに!」
「れーくん、今のって、私への告白と受け取っていいんだよね!」
「うるさい振るぞ紗姫姉!」
「「やめて!?」」

 あー、うん。紗姫姉がブラコンになったのは間違いなく俺の責任だ。だが俺は謝らない。
 ……もし元の世界へ帰れたら、まずは紗姫姉に告白しよう。


「アバーッ!」

「「「!?」」」


 突如響き渡った、少女の断末魔………いや、違う。このネタに走った声は、間違いなく……。

「……沙耶姉?」
「沙耶ちゃん、だよね!?」
「間違いなく沙耶先輩ですね」

 沙耶姉の悲鳴である。悲鳴なんだけど……。

「アイエエエ? 忍殺語? 忍殺語ナンデ?」
(リアリティ)(ニンジャ)(ショック)みたいな反応しないでください。大方、デュエルで負けたんじゃないですか?」
「闇のデュエルで!?」

 ……今の悲鳴で、何故か無駄に取り乱し始めた紗姫姉。てか、闇じゃないと思う。忍殺語な断末魔とか、ネタ以外の何物でもない。

「「いや、ちが……」」
「急がなきゃ、沙耶ちゃんが………!」

 しかし、取り乱している紗姫姉がネタに気付くはずもなく。俺達の制止の声も聞かず、声のした方向―――アイシア宅の方へと走っていってしまった。

「今の紗姫先輩って、私達の三年前から来たんでしたっけ」
「うん」
「じゃあ仕方ないですね。ニンジャスレイヤーなかったですから」
「……あー、確かに」

 とりあえず、紗姫姉を追って俺達は走り出した。……てか、追わないと家に帰れない。


 ― ― ― ― ― ― ― ―


―――― Turn.2 End Phase ――――

1st/Kurono Mochizuki
◇LP/1800 HAND/7
◇set card/mo-0,ma-0

2nd/Saya Amakawa
◇LP/4000 HAND/1
◇《セイクリッド・カウスト》ATK/1800
◇《機甲忍者ブレード・ハート》ATK/2200
◇set card/mo-0,ma-0


「俺のターン、ドロー!」

 恐らくラストターン、黒乃が勢いよくカードをドローした。


Turn.3 Player/Kurono Mochizuki
 1st/Kurono Mochizuki
  LP/1800 HAND/7→8
 2nd/Saya Amakawa
  LP/4000 HAND/1


「……あ、引いた」

 嫌な予感がする。

「手札から《魔導書殿エトワール》を2枚発動! 2枚目の発動により、1枚目の"エトワール"に魔力カウンターが乗る!」

 ………えぇー。2枚目? そんなことされたら《魔導法士 ジュノン》の攻撃力が4000超えちゃうじゃない。

 魔導書殿エトワール(α)
 M0→1

 魔導書殿エトワール(β)
 M0

 フィールドの上空に、巨大な水晶が2つ浮かび上がった。"神判"の時は見てなかったけど、こっちは裏表の無い優しい光を放っている。

「そして《魔導書の神判》を発動!」
「ああもう、サーチしてましたねそういえば! いい加減にしなさいよそれ!」
「だから俺は悪くねえ!」
「それで言い逃れになるとでも思ってんの!?」
「いや、言い逃れも何もねえだろ!?」

 水晶の光を遮るように、悪夢のごとき例の物体が再び黒乃の頭上に召喚された。

 魔導書殿エトワール(α)
 M1→2

 魔導書殿エトワール(β)
 M0→1

「続けて《アルマの魔導書》を発動!」

 またオリカだよ……今度は何?

「ゲームから除外されている《グリモの魔導書》を手札に加えてそのまま発動! デッキから《トーラの魔導書》を手札に加える!」

 ああ、よかった。十分まともだ。

 魔導書殿エトワール(α)
 M2→3→4

 魔導書殿エトワール(β)
 M1→2→3

 除外されている"魔導書"を回収する……なるほど、"ジュノン"と良い感じのシナジー生んでるわけね。

「行くぜ! 手札の"魔導書"と名のついた魔法カード《ヒュグロの魔導書》《セフェルの魔導書》《トーラの魔導書》を公開!」

 ……来た。
 "手札のカードを()()()()()()ことで特殊召喚"という極めて異端な召喚条件―――事実上のノーコストで降臨する【魔導書】のエースモンスター!

「《魔導法士 ジュノン》を手札から特殊召喚!」

 天空から降り注ぐ光の中、桃色の髪を伸ばした女性が魔導書を片手にフィールドに降り立つ。タロットのhigh priestessに該当するらしい。

 魔導法士 ジュノン
 ☆7 ATK/2500→3200

「《魔導法士 ジュノン》の効果発動! 1ターンに1度、墓地の"魔導書"をゲームから除外することでフィールド上のカード1枚を破壊する!」

 最近テンプレ化が進行しつつあるエースモンスターの効果。こいつの場合は「フィールド上のカード1枚を破壊する」。コスト以外は《マスター・ヒュペリオン》と全く同じだ。

「《機甲忍者ブレード・ハート》を破壊だ! 救済の聖十字(ホーリー・リデンプション)!」

 聖女が祈りを捧げると同時に、黒紫の忍は天空からの光に包まれた。光に肉体を奪われ、その魂は天空へと昇っていった………ちょっと待て。なんで除外みたいな映像になってんのよ。

「手札から《ヒュグロの魔導書》を発動! フィールドの魔法使い族1体を選択し、攻撃力を1000ポイント上昇させる!」

 そんな私の疑問をよそに、フィールドでは酷い光景が繰り広げられていた。彼女の魔導書が緋色の光を纏い始めている。

 魔導書殿エトワール(α)
 M4→5

 魔導書殿エトワール(β)
 M3→4

 魔導法士 ジュノン
 ☆7 ATK/3200→4200→4400

 ……はい、4000超えました。

「そして手札の《トーラの魔導書》を見せ《セフェルの魔導書》を発動!」

 ……うん、もう突っ込みたくない。

 魔導書殿エトワール(α)
 M5→6

 魔導書殿エトワール(β)
 M4→5

「俺のフィールドに魔法使い族がいるとき、手札の"魔導書"1枚を見せることで"セフェル"は墓地の"魔導書"と名の付いた通常魔法と同じ効果を得る!」

 前言撤回! なによその効果!?

「俺が選択したのは《ヒュグロの魔導書》! "ジュノン"の攻撃力をもう一度1000上昇!」

 ……なんということでしょう。匠の粋な計らいで、"ジュノン"の攻撃力は無駄にオーバーキルに近づいてきました。

 魔導法士 ジュノン
 ☆7 ATK/4400→5400→5600

「これで最後だ! 手札から《ゲーテの魔導書》を発動! 墓地の魔導書を3枚除外し、3つ目の効果を宣言!」

 ……もう、どうでもいいや。
 複数の効果を持つ《ゲーテの魔導書》、その2つ目の効果が起動した。もしこの効果が何らかの除去効果ならば、私はこのデュエルに敗北することになる。

 魔導書殿エトワール(α)
 M6→7

 魔導書殿エトワール(β)
 M5→6

 魔導法士 ジュノン
 ☆7 ATK/4400→5400→5600

「《セイクリッド・カウスト》をゲームから除外する!」

 はい終了。もう嫌だこんなの。

最終攻撃(チェックメイト)! 攻撃力5800となった《魔導法士 ジュノン》でダイレクトアタック!」

 ………うん、無理!

女教皇の神託(オラクル・オブ・ハイプリーステス)!」

 《ヒュグロの魔導書》によって高められた聖女の魔力が、私を中心とした十字の紋様となって発現する。その光に、ライフ4000の私が耐えきれるはずもなく。

「アバーッ!」

 このざまである。
 ……てかさ、《機甲忍者ブレード・ハート》じゃなくて《セイクリッド・オメガ》出せてたら私の勝ちだったよね。


―――― Turn.3 Battle Phase ――――

1st/Kurono Mochizuki
◇LP/1800 HAND/1
◇《魔導法士 ジュノン》ATK/5800
◇set card/mo-0,ma-0

2nd/Saya Amakawa
◇LP/ 0 HAND/1
◇set card/mo-0,ma-0

 Kurono WIN


 ― ― ― ― ― ― ― ―


「あー、酷いものを見せてもらったわ」
「酷いってなんだよ! 一応は俺達の世界から持ってきたカードだぜ!?」
「いやいやいや、いくらなんでも"神判"とかは反則でしょう!?」

 ……俺達がアイシア宅に到着したとき、そこで見たものは沙耶姉と黒乃が口喧嘩をしている光景だった。

「え……何ですか、これは……?」
「えっとね……沙耶ちゃんが、黒乃くんに5800のダイレクトアタックを受けて負けちゃったことに怒ってるの」

 恐る恐る聞いたゆみなに、紗姫姉がそう説明した。……いや違うでしょう。

「お姉ちゃん違う! 私が怒ってるのは理不尽なオリカに対してよ!」
「だからオリカじゃねえっての!」

 ほらね。

「沙耶姉。認めたくないのはわかるけど、それがこの世界の現実だから」
「……わかったわよ」

 俺の説得であっさり引き下がった沙耶姉。あまりの早さに周りがみんな驚いているけど、俺と沙耶姉はいつもこんな感じ。

「で、クレナ。いつまで寝たふりをしているのかしら?」

 と、沙耶姉がクレナの方を向いて言った。

「………」

 ……しかし、彼女は目を覚まさない。

「……蓮」
「ん、了解」

 寝たふりを続けて………いや、本当に寝てるクレナを持って沙耶姉のところに持っていく。

「れ、れーくん? 沙耶ちゃん? いったい何を………」
「何って……ねえ?」
「ほんの軽い拷問(しつもん)よ、クレナには聞かないといけないことがたくさんあるの」

 クレナに対して罪悪感を感じつつ、沙耶姉の前に背中を上にして寝かせる。すると、沙耶姉は自分の膝をクレナの背中に乗せ、両手首を掴み……。

「……あ、風見様。おはようございます」
「うん、おはよう。そして……ごめんなさい」

 ……自分の身に起ころうとしている悲劇に気づいたのか、ようやくクレナが目を覚ました。しかし時既に時間切れ。

「え、あ、天河様!? やめて下さい腕が折れ―――!」

 沙耶姉が立ち上がり、同時にクレナの両腕を持ち上げる―――!


「GAY♂BARRRRRRR!!」
「いやあああああああああ!!」


 ……さすが沙耶姉。誰もやろうとしないビリー兄貴の技を平然とやってのける。

「あ、蓮。そっちの夜神にもやっといて」
「ん、了解」
「れーくんやめて! 沙耶ちゃんも、そんなことれーくんにやらせないで!」
「おい起きろ! 起きてくれ夜神! もう一回殺されるぞ!」


 ― ― ― ― ― ― ― ―


「天河様、まだ体が痛いです………」
「起きないあんたが悪い」

 アイシアの持っていた鍵を使い、ようやく家に入ることができた私達。

「……黒乃、あいつに何があったんですか」
「……やめとけ。見てるだけで痛さが伝わってきたレベルだ」

 結局、夜神は黒乃のせいで起きてしまった。実に残念だ。

「……もう7時か」
「本当ですね。いつの間にこんな時間に……」

 黒乃の呟きに、ゆみなが反応し………まさか!?

「じゃあ、紗姫先輩。台所お借りしますね」
「「殺す気か!?」」
「相変わらず沙耶先輩と蓮君の反応が酷い!?」

 予感的中。だからあれほど必殺料理人に料理をさせるなと。
 ゆみなの料理を食べたことのある私達だからこそ言える、あれは某姫路さんのそれに匹敵するだろうと。

「わかってます、ただの冗談ですよ……」

 そう言いながらも、ゆみなは落ち込んでしまった。この反応、絶対冗談なんかじゃなかったわね……。

「お前ら……」
「仕方ないんだ、黒乃。これも俺達が生きるため……!」

 今のやり取りを見て溜め息をついた黒乃に、蓮が説明を入れた。それでも何か言いたそうにしているから、私も釘を刺しておくことにする。

「じゃあ黒乃、あんたは洗剤で研いだ米を食べられるというの?」
「え、それが普通じゃねえの?」
「………はい?」

 ……おかしい。今、確実に聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。

「……黒乃? まさかそれ、本気で言ってるんですか……?」
「夜神まで何言ってるんだよ。米は洗剤で研ぐものだろ」

 おk、把握。これはまずい。特にこいつの認識(メシ)が。

「………今日の晩御飯、私が作っていい?」
「俺も手伝うよ、紗姫姉」
「ありがと! じゃあ、れーくんは……」

 そう言って、お姉ちゃんと蓮は台所へと向かっていった。……なんか二人とも焦っているように見えたけど、別にそんなことはなかったわ。

「……さてと、とりあえず今晩の安全が確保されたところで。クレナには聞きたいことがあるのよ」
「私に、ですか?」
「そう」

 とりあえず、聞きたいことを纏めて質問しておく。

「まず1つ目。どうして【セイクリッド】の存在を隠していたのか。この世界のラスボスが使用するであろうデッキ、設定上私が使ったらまずいのに、何故私にそれを伝えなかったの?」
「あ……それ、は………」

 私の質問に、クレナが言い澱む。……すこし意地悪かしら。

「……質問を変えるわ。あなたは誰? 神ではなく、本当は何者なの?」


「………アイシア」


「え?」
「彼女の正体は、この世界本来の……本当のアイシア=エリュシオンです」

 ……予想外なことに、私の問いに答えたのは夜神。まさかバレているとは思わなかったのか、クレナが思いっきり動揺し始める。

「ど、どうしてそれを……!?」
「……はあ。私達が、"アイシア"と"クレナ"を監視してないとでも思っていたんですか?」

 そうか。一度死んだとはいえ、こいつは"転生者狩り"の一味。例外的な転生をした"アイシア"と彼女に一番近かった"クレナ"の動向を監視していないはずがない。

「私達……ってことは、今も監視してるのか?」
「ええ、恐らく。今のこの会話だって、しっかり伝わってると思います」
「……夜神、それは本当ね?」

 夜神の言葉を聞いて、私はちょっと面白いことを思いついた。この世界で調子乗ってる奴らに、先手を打っておくのもいいかもしれない。

「ちょうどいいわ。よく聞きなさい、私達を覗き見してる"転生者狩り"の皆さん。今から私の言うこと、全部事実としてあんた達に忠告しといてあげる!」
「「「「………?」」」」

 周りの視線が若干痛い。だけど、構うものか。"転生者狩り"の奴らに釘をさせるなら、遠慮なくやらせてもらう!

「私達は機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の下に集いし世界の観測者《スターゲイザー》。あんた達"転生者狩り"の存在意義を否定するために集まった連合軍よ。まずは挨拶代わりに水咲凍夜を殺し、夜神桜の身柄を拘束させてもらったわ」

 ああ、あいつらの怒りと恐怖に染まった顔が目に浮かぶ。私の妄想だけど。

「それにしても、転生者狩り……ずいぶんと傲慢で腐ったテロ組織じゃない」

 この時点で私が何を言おうとしてるか気づいたのか、ゆみなが笑いをこらえている。
 お願いゆみな、少しだけ堪えて。笑われたら雰囲気ぶち壊しだから。

「まず転生者狩りという名前が良くないわね。狩り=殺人とも取れる」
「………沙耶姉?」

 蓮も気づいたらしい、台所での動きが止まった。てかこっちみんな。

「おまけに転生した人達に不満があれば片っ端からSEKKYOUして相手が望みもしないのに殺していくのも気に入らないわ。まるで弾圧じゃない」
「不満がなくても何かと文句つけて殺しに来たけどな」

 黒乃が注釈した。……本当にそうだったのね。

「また、殺した転生者のデッキを持ち主から合意無しでいきなり持ち去っていくのは強盗殺人そのものよ」
「……夜神さん、そんな酷いことしてたんですか……?」
「し、してません!」

 ゆみなの言葉を夜神が否定し……

「嘘だッ! 水咲が幾つのデッキを持ってると思ってるんだよ! あれ全部他の転生者を殺して奪った盗難物だ!」
「…………え?」

 ……できなかった。

「しかもそれで正義を騙ってるんだから余計にたちが悪いわ。しかもあの憑依転生者の、アイシアだったかしら?」
「え、私?」

 アイシアの手も止まり、二人してこっちを見てくる。だからこっちみんな。てかまず火を消しなさい!

「あんな子供を前例がないからと誘拐し、戦場連れ回すなんて最低極まるわね」
「ごめんなさい!」

 ここは夜神が素直に謝った。いや、戦場とまではいかないと思うけど。

「少年兵ならぬ少女兵ですって? 義務教育のすんだばかりの少女を戦わせるなんて最低よ」
「いや、さすがにそこまでやってませんよ!?」

 さすがに否定された。さあ、これでラスト―――!


「反吐が出る。下衆め。屑め。塵め。最低すぎる。虫酸が走る。反吐が出る。虫けらめ。いや虫けら以下だ。微生物のほうがまだ有益だ。微生物にすら劣る―――!」


「……沙耶様」
「ん?」
「もしかして、これがやりたかっただけですか?」
「Exactry! 当然じゃない!」

 ………ああ、スッキリした! 一度やってみたかったかったのよね、 「まず管理局という名前がよくない」っていうあれ!
 クレナと黒乃が唖然としてるけど。ゆみなと蓮が必死に笑いをこらえてるけど!

「言いたいことは言ったし、質問を続けるわ。クレナ……いや、もうアイシアと呼んだ方がいいのかしら」
「いえ、クレナでお願いします」
「そう? じゃあ、2つ目の質問。私達を呼んだ、()()()理由は何?」

 この世界を救うため……そんな大義名分、登場人物である彼女が持っているはずがない。だとしたら、何故。
 クレナは、今度はすんなりと答えてくれた。

「生前の私の体に憑依してしまった紗姫様の魂を蘇らせるためです。今は私の力で無理なく生きていますが……」
「死体に憑依してしまった以上、いつ死んでしまってもおかしくない……ってことね」

 私の言葉に頷き、クレナは説明を続ける。

「はい。そして、あの監視下で元の世界に魂を戻すというのは……」
「不可能だろうな。"転生者狩り"の奴らが絶対に阻止するだろ」
「その通りです、望月様」

 なるほどね。それで監視下から逃げるために私達を召喚し、転生者狩りから自分達を拐わせるつもりだったと。

「まあ、それを私達が気づいてないわけなかったんですけどね」
「はい……私達は、常に"転生者狩り"の実力トップである水咲凍夜と同じ空間に置かれてしまいました」

 夜神の指摘にクレナが項垂れる。

「逃げるチャンスは水咲凍夜が"転生者狩り"をするそのときだけ。しかし、そこまで見据えて、夜神桜まで同じ空間に置かれてしまい……」
「それであの時三人でいたわけか……」
「唯一の救いは水咲凍夜を含めた"転生者狩り"が揃って自意識過剰だった点ですね。そのおかげで、風見様を相手に返り討ちにあってもらえましたし………って、風見様?」

 いつの間に来ていたのか、蓮が話に割り込んできていた。当時のお姉ちゃんを台所に一人にしてきて大丈夫なのか。

「晩御飯は大丈夫、後は煮込むだけだから。それよりこっちの話が気になってね」

 そう言って、蓮は空いていた椅子に着席した。

「そういえばあの時、水咲が変なこと言ってたんだよ」
「変なこと……ですか?」
「うん。どうして"かかし"も"ヴェーラー"も手札に来ないんだって」
「"かかし"? ……て、あの《速攻のかかし》?」
「うん、多分ね」

 おかしい。どんなデッキにもメイン積みされるような《エフェクト・ヴェーラー》と違って、《速攻のかかし》が入るデッキなど《バトルフェーダー》よりも限られている。それこそ【終焉のカウントダウン】【ウィジャ盤】などの特殊勝利系、レベル1であることを要求する【金華猫】など。後は【フルモンスター】か。それ以外のデッキに入るようなカードではない。

「まるで()()()()()()()()()()()()みたいな言い方じゃない」
「だよね……」
「ドローするカードを自分で決めてシャイニングドローしていた可能性が微レ存……てか、それしか考えられないわ」
「……あ、そうだ。夜神さん、それ水咲のデッキだったよね。ちょっと見せて」
「……どうせ拒否権なんてないですよね」
「当然でしょ」

 夜神にデッキを手渡され、その中身を蓮が一枚ずつ確認していく。……そして。

「………やっぱり」
「え?」


「入ってない。妨害系カードが一枚も」


 ――――っ!?

「蓮、私にも見せて!」
「はい、沙耶姉」

 そう言って、蓮はテーブルの上にデッキを広げて見せた。モンスターの殆どが人魚か魚人の姿をしている。これが"水精鱗(マーメイル)"の共通点なんだろう。

「……夜神さん。これ、自分でデュエル中に確認したりしてたんだよね……?」
「はい。でも、確かにあのときはちゃんと《エフェクト・ヴェーラー》が入っていたのですけど……」

 入っていない。デッキに入っていたモンスターは、闇属性の通常モンスター《ジェネクス・コントローラー》を除いて全て水属性だった。光属性の《エフェクト・ヴェーラー》だけでなく、地属性の《増殖するG》さえも見当たらない。

「これで確定したわね」

 私の一声でみんながデッキの広げられたテーブルから顔を上げた。

「これこそが水咲凍夜の転生特典(アンコールスキル)。ドローするカードを自分の望むカードに変える……つまりはずっと正義を騙る神の一手(シャイニングドロー)ってこと。これじゃあ、誰も勝てないわけよ」

 黒乃と夜神に、蓮がシャイニングドローの説明をしていた。こっちには存在していないようで、二人がとても驚いている。

「これに加えて、相手の転生特典(アンコールスキル)を無力化する能力とか、他人を潜在意識から友好的にする能力。本気でメアリーやらかしてたってわけよ、あいつは」
「……え、ちょっと待ってください! それじゃあ、私が先輩を好きになったのは……!」
「間違いなく水咲に洗脳されてた……ところで蓮、ゆみなと黒乃は?」
「二人なら台所に……ごめんすぐ連れ戻す!」
「急ぎなさい! クレナも蓮と行って!」
「あ、はい!」

 これでまた、晩御飯が遅くなりそうだ。全く、油断も隙もない奴らめ………!

「話を戻すわ……と言いたいところだけど、私達以外台所に行っちゃったわね」
「………私は」

 いつの間にか、夜神の目には大粒の涙が浮かんでいた。道標の灯を消され、暗闇の中で絶望した少女が、光を殺した私達に訴える。


「じゃあ、私はどうすればいいんですか! あなた達に生きる意味を全部奪われた私は………!」


「知らんがな」


「…………っ!」
「私達は主人公じゃない。だから、あんたの生きる意味を奪ったところで新しく与えることなんか出来ない。悪いけど、私達からあんたに渡せる選択肢は一つもないわ」
「………」

 声を殺して泣き始めてしまった彼女を見て、心が痛む。
 自分でも、今の言葉は残酷だとわかる。だけど……本当に嫌だけど、これが彼女に突きつけてしまった現実。

「そうね、あいつなら……」

 ふと浮かんだ考えが口に出てしまったらしい。私の声に、夜神が顔を上げた。

「……あんたを生き返らせた望月黒乃。彼なら、きっと"選択肢"を持ってると思うわ。今日の夜にでも、二人になったときに聞いてみたらどうかしら?」
「望月、黒乃……」

 ……彼なら、きっと。他の転生者とどこかずれた彼なら、もしかしたら。

「沙耶ちゃん、晩御飯できたよ!」
「だーかーらー! 完成した料理に味噌を入れるなと! 」
「黒乃様! 洗剤の付いた手でご飯をよそうのはやめてください!」
「お願い! このままじゃ晩御飯が壊れるから! 二人とも本当にやめてぇ!」

 あいつらェ……。

「ほら、行くわよ夜神! 私達の晩御飯を死守するために!」
「………え」
「涙を拭きなさい。あんたはしばらくこの家に住むことになった、いいね?」
「あっ、はい………はっ!?」

 二人の必殺料理人を必死で抑えている蓮達を援護するべく、私と夜神は台所へ向かった。


 ―――今晩、私達の物語は一つの節目を迎えるだろう。


「ゆみなァ! だから洋風に仕上げたおかずをかもそうとしないで! その手に持ってる醤油を下ろして!」
「黒乃様! 味噌汁に入れようとしているそれは何ですか! 洗剤は調味料ではありませんよ!?」
「あんた達、さっさと料理を運びなさいよ―――!」

 とりあえず目の前の惨劇をどうにかしなければ、私達にその今晩は来なくなってしまうのだが。


    to be continued... 
 

 
後書き
 どうも。月詠クレスです。

 若干展開が駆け足になってしまった感じです。デュエルの結末は決めていたのですが、それ以上に日常パートの展開が《あばばば☆テスト☆マイクテスト》となってしまいました。
 そんなわけで、次回は伏線回収用の夜会話を挟みます。そして、もうすぐ"EPIROGUE EDITIO Volume.1"です。略号がEE01になってしまいますが、エキスパートじゃないです。

 ……"PROLOGUE EDITION Volume.2"に入るかどうかはまだちょっと微妙な感じです。もしあるとしたら、今度こそデュエルアカデミアでの物語になるはずです。

 それでは、あともう少しだけお付き合いください。 
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