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故郷は青き星

作者:TKZ
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第一話

 
前書き
 VRMMOモノの流行の波に乗ってみた。
 他にも転生とか受けそうな要素をぶち込んで居たら、VRMMOモノと呼んで良いのかよく分からなくなってしまった。
 自分としてはSF映画『ザ・ラスト・スターファイター』の影響が大きい作品だが、友人からは『それゆけ! 宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』みたいだと言われた。
 宇宙戦争をテーマにしながら物語のメインは派手な戦闘ではない……何故ならそれを描く能力が無い。
 最初の内は説明だらけでくどいと思うが、それを我慢して読み進めれば、次第に説明する事がなくなって読みやすくなると思う。きっと、多分、ひょっとすると。

*『スター・ファイター』(The Last Starfighter)は、1984年に公開されたアメリカのSF映画。コンピュータグラフィックスを本格的に導入した最初期の映画のひとつ。とWikiに書かれているが、最初期の作品と呼ぶべき代表は『トロン』であり『ザ・ラスト・スターファイター』CG映画としての新たなステージに踏み込んだ作品であり、『アビス』や『ターミネーター2』などのフォトリアルなCG表現の先駆けで、更に新たなステージに踏み込んだのは『アバター』だと個人的に思う。
 物語は、ビデオゲームでハイスコアを叩き出した主人公のもとに宇宙人がやってきて「君、ゲーム上手いね。自衛隊に入らないか?(嘘)」と誘われるお話。 

 
「愛機で飛ぶソラは良い……」
 漆黒の闇の中を駆る愛機のコックピットの中、独りパイロットが呟きを漏らす。
 彼が操縦桿を握る愛機は航空機では無く、飛ぶのもソラと言ってるのも空でもなく宇宙である。
 ついでに言うと初任務で愛機と呼ぶほどの愛着も無く、もし愛機とやらが喋れたならば即座に「こいつ馴れ馴れしいわ」と言う事だろう。
 更に言うと現在彼は単機で自由に宇宙を飛んでいるのではなく、可住惑星へ侵攻中の敵対勢力艦隊の迎撃任務で、自動操縦による300機を超える僚機と共に大編隊を組んで飛んでいる。
 つまり雰囲気に酔って漏らしてしまった恥ずかしい戯言にすぎなかった。
 その恥ずかしい人物は太陽系義勇軍アジア第12宙空師団所属パイロット柴田浩二義勇宙士。
 太陽系義勇軍アジア第12宙空師団とは、連盟軍サジタリウス腕方面軍所属、第1211基幹艦隊所属、第136機動艦隊所属の第2飛行師団を形成する太陽系義勇軍パイロット部隊であり、日本人によって構成されたその部隊の正式名である。

 現在、太陽系が属する天の川銀河は謎の【敵性体】による侵略を受けていた。
 銀河系外の不可視領域──地球から見て銀河系中心の回転楕円体であるバルジに遮られて観測不可能な領域──より渡ってきた【敵性体】について分かっている事は、天の川銀河、いや全宇宙で知的生命体の全てと言って過言ではない炭素系生命体とは異なる珪素系生命体であるということのみ。
 珪素系生命体とは炭素系生命体にとって意思の疎通すら適わない存在。
 炭素系生物からすれば半ば永遠と呼んでも良いほどの長大な寿命を持つも、その思考・動作はきわめて遅く、彼等にとって人類を含む炭素系生命体の寿命など一瞬に等しい。
 またライフサイクル自体の長さから種として変化に乏しく、故に進化の速度も非常に遅かった。
 天の川銀河系内において珪素系生命体の存在は、古来より僅かながら発見され確認されていたが、近年は数多く発見されている。その理由は簡単な調査では生物であることすら確認できず単なる石や岩と認識されていたためだった。そして、そのどれも原始的な生命体であり知性体と呼ぶには程遠い存在でしかなかった。
 珪素系生命体が知性体と呼べるまでに進化するには、炭素系生命体に比べると遙かに長い時を重ねる必要があり、研究者の間では冗談交じりに宇宙の終わりにも間に合わないと言われていた。
 500年前に【敵性体】の存在が確認されるまでは……
 そのことから【敵性体】は天の川銀河系外の炭素系生命体による文明によって作られた生体兵器という説を始め様々な説がとびかう、今もって謎の存在である。

 【敵性体】はスクタム-センタウルス腕(みなみじゅうじ腕・たて腕)──天の川銀河の中心部のバルジを貫く軸状の構造体の両端から延びた2本の主腕となる渦状腕の一つで、そこから枝分かれした枝腕がノルマ腕(じょうぎ腕・はくちょう腕)であり、もう一つの主腕がペルセウス腕であり、同じく枝腕にサジタリウス腕(いて・りゅうこつ腕)とオリオン腕を持つ。また、サジタリウス腕などがいて・りゅうこつ腕の様に二つの名前が合わさった正式名を持つのは、先に述べた不可視領域によって分断されて、繋がっていない別の腕として見られていたため──に取り付くと、瞬く間に周辺数光年の星域を支配下に置き、その後も光よりも速く勢力圏を広げること20年。ついに知的生命体の生存圏と接触する。そして僅か半年も経たずに歴史ある一つの星間文明を滅ぼした。
 それから500年。【敵性体】は数々の文明を滅ぼしながら勢力を拡大し、ノルマ腕(じょうぎ腕・はくちょう腕)・サジタリウス腕へも勢力圏を広げると、サジタリウス腕の各星系を攻略しながら太陽系のあるオリオン腕へと向かう回廊宙域付近まで迫っていた。

 【敵性体】の脅威に対して、地球文明より遙かに進んだ星間文明種族らは天の川銀河の防衛のために連盟(リーグ)を結成。連盟軍を組織し【敵性体】と存亡を賭けた戦いを続けている。そんな状況の中で太陽系義勇軍の存在は決して低くは無い。
 それは地球人類が現在確認されている知性生命体の中でも飛びぬけたパイロット適正を示す種族であるためだった。
 【敵性体】は従来の天の川銀河において戦闘時の基本であった無人兵器を操作する自立型高度AI──大目標を設定されれば、その達成に沿った計画を自ら組み上げ、自ら設定した小目標を達成しつつ大目標へのアプローチを行う能力を有するAIで、戦闘時に攻撃目標・防衛目的を設定すれば、それに適う行動を他の機体のAIと連携して戦闘を行うことが可能──を用いた無人兵器を無効化するどころか、支配して自らの戦力として運用する能力があった。
 【敵性体】の持つ一種の超能力によるAIへの干渉とされているが、その原理は未だに解明されていない。
 その為に戦闘艦クラスの大型兵器ならば常時展開可能な高出力の障壁で【敵性体】からの干渉から自立型高度AIを保護できるが、本来、対【敵性体】と主力となるはずの小型兵器の完全な無人化が不可能だった。
 しかし、それは小型兵器にパイロットが乗り込み命がけで戦うと言うことは無い。パイロットは感覚同調端末を用いて、高度サイバネティックスによって作られた擬体と同調し機体に乗り込み戦闘を行う。つまり厳密には無人兵器と言えなくも無かったが、個々の機体を操縦するパイロットが必要になる上に、自立型高度AI並に機体性能を発揮させるパイロットは極僅かであり、結果として連盟は【敵性体】に対して劣勢に立たされ続けてきた。
 各戦線で立て続けに撤退を強いられる危機的現状に連盟は、本来禁じられている連盟加盟条件──他星系への大規模移民の達成をもって星間文明と認め、その星間文明種族へ連盟への加盟を促す──を緩和し非星間文明種族でも星系内の母星以外の惑星や衛星に進出するレベルの技術を持った種族へ、特例として接触、調査を全天の川銀河にて行うことを決定し、実行に移す。
 そして得られた調査結果で、最もパイロットとして適正が高いと結論付けられたのが地球人類だった。
 他種族に隔絶する優れたパイロット特性を持つ地球人類に対して、連盟議会は特例として地球の連盟参加を圧倒的多数で議決。
 公式に地球側の主要各国に外交官を派遣し根回しを行った結果、進んだ科学技術などの提供を条件に国連理事会へて総会にて、国連を通して『地球』が連盟に加盟することが決定した。


「本当、ゲームとは思えないな」
 ……以上の話は、ゲームのマニュアルに書かれている内容だった。
 2030年。全感覚対応のSR(Simulated Reality:シミュレーテッドリアリティ)──VR(Virtual Reality:バーチャルリアリティ)は正しくは実質的現実で、現実と見間違うような電脳空間と言うわけではなく、機能的に現実と同じことが出来ることが目的で、視覚等の各感覚器官を現実と誤認させるほどの再現力を持つものはシミュレーテッドリアリティと呼ばれる──対応の『ダイブギア』が突如として発表された。
 技術的な連続性を無視した新技術を搭載された新商品に、安全性のみならず様々な疑問を投げかける技術者は少なくなかったが、多くの国家機関がその安全性を保障し全世界で一斉に発売されることになった。
 従来の視覚・音声のみの限定的機能しか持たないVR機器に比べて、先進的な技術を搭載した新商品にも関わらず価格は各国の通貨に換算して300ドル程に抑えられていたため初期生産分は瞬く間に完売し、現在も予約注文が殺到し販売店では嬉しい悲鳴どころか、本気の悲鳴が上がった。

 『ダイブギア』には発達障害などの治療用などの医療関係のソフトもバンドルされていたが、多くのユーザーの目当てはFPS(First Person Shooter:ファーストパーソン・シューティングゲーム)に分類される『Deep Space War Online(DSWO)』だった。
 戦闘機による宇宙空間での戦闘がメインで、FPSタイプのゲームとしては珍しくプレイヤー同士の戦闘はトレーニングモードやイベント戦に限られていた。
 それでもβテストでの評価は『圧倒的な再現力を持ったハードの性能を存分に生かす、ここまでするかと思うほど深く作りこまれた世界。そして、作り物とは思えず、だが現実の物とも思えない言葉にするのは難しい新しい戦闘システム』などと賞賛され発売前から高い評価を得ていた。
 柴田浩二は、そのDSWOのゲーム内のプレイヤーとして太陽系義勇軍の一員としてサジタリウス腕防衛に参加していた。

『今回の任務の目的は、クワントロー星系第2惑星への【敵性体】降下阻止です』
 女性の綺麗な声であるが、硬質な感じのするシステムアナウンス──この編隊の母艦(無人艦)である艦隊旗艦に搭載された高度AIのアナウンスと言う設定──に柴田は2本の操縦桿を握る手にぎゅっと力を込める。
 慣れたなら操縦桿やフットペダルなどの物理的入力を使わない思考操縦という選択もあっても良さそうなもので、実際『ダイブギア』は同様に物理的入力ではなく思考によってゲーム内の操作を行っているわけだが、ゲーム中ではそれが実装されていない。
 地球の技術で作れる『ダイブマギア』に出来る事が、地球より遙かに進んだ科学を持つはずの異星人の兵器に搭載されていないのは設定ミスだろうと思わないでもなかった。
 この件に関してはプレイヤー達の意見も割れている。柴田と同様にあからさまな設定上のミスだと言う意見もあれば、このゲームは擬体で戦闘機を操縦して戦うと言うのが演出上の肝なんだから、思考入力で操縦できるならそもそも擬体の存在が不要になってしまうので設定としては苦しいかもしれないが、これは英断だと主張する意見があり、後者の意見が大多数を占めていた。

 現在の柴田には、そんな事はどうでも良かった。初めての実戦に緊張して、そんな余裕は無かった。
 本当にゲームとは思えない臨場感のおかげで本当の戦争に参加するかのように感じられ、その空気に怖気づくような感情すら覚えていた。
 擬体でなければ体中に嫌な汗が浮かんで操縦桿を滑らしかねないだろう。
「ゲームだ。これはゲームだ……だから楽しもう」
 彼は自らの恐れを振り払うように、自分にそう言い聞かせる。
 これと同様のことが各機のコックピットの中でも見られた。一部のβテスト参加者を除けば柴田はプレイヤーとして第一陣に属しており、全世界でこの作戦に参加している他のプレイヤー達の精神状態もそう変わったものではなかった。
『広域レーダーレンジに【敵性体】入ります。母艦種6。小型種多数』
 母艦種とは、イカの胴体部分に似たシルエットを持つ全長5kmに達する巨体に5000体以上の小型種を搭載する航宙母艦と呼ぶべき存在で、確認されている【敵性体】の中では2番目に大きな個体である。
 小型種は、全長30m程度で、柴田の乗る連盟軍の戦闘機と同等のサイズであった。もっとも現在の連盟軍の兵器ドクトリンは対【敵性体】として構築されているので対小型種として戦闘機が存在するので当然とも言えた。母艦種内部で生産され、母艦種の護衛と惑星への降下・制圧を目的とした個体。
 そして、この小型種こそが【敵性体】の主力であり、他の【敵性体】は全て小型種の活動を支えるサポートにしか過ぎない。
 また母艦種と小型種の間には大型種と呼ばれる個体が存在し、大規模な侵攻作戦においては母艦種を護衛するが、今回の作戦には参加していないようだった。

 機体に搭載されたレーダーの索敵範囲を映す、コックピットの前面に投影された立体映像にはまだ敵影は無い。
 どうせ擬体を使うと言う設定なら、コンソール周りを含む視覚情報をプレイヤーの脳へ直接送り込めば良いというプレイヤーの意見が多かったが、βテスト前に試験的に実装した結果、視覚情報により乗り物酔いに近い症状が起こり易い事が判明したとの事で、コックピット前方の空間に光学映像とレーダーから得られた情報を元にCG化した映像を投影する方法がとられている。

『全ターゲット補足。各機に情報をリンクします』
 同時に、目の前を自機の索敵範囲外に位置する敵影として表示された青い点が塊となって埋め尽くす。
「うわっ!」
 思わず柴田は声を上げる。
 SF/A-104。彼の愛機の機種名であり、この編隊を構成する主要機種であった。
 全長約30m。縦長の凧方──菱形と同じく直交する対角線を持つが、向かい合う辺は平行ではなく、菱形の任意の角を対角線を延長した線上に移動させた形──の平べったいシルエットで、機体全体が揚力を得られるリフティングボディを採用。宇宙空間での戦闘を主たる目的としながらも大気圏内の空戦を可能とし、兵装の交換で対艦攻撃から対地攻撃も可能であるが、世代的には2世代前の旧式の機体であり、決して【敵性体】に対して優位に立てる兵器とはいえない。現在の連盟軍では操縦のし易さが取り得の練習機扱いというのがゲーム上の設定だった。
 そんな事を思い出した彼の心の中で、先程まで頼もしく感じていた300機余りの『大編隊』から、『大』の字がどこか星の彼方にまで飛んで行ってしまった。

「まさか、いきなり無理ゲーって事は無いだろ」
 その様なゲームが無いわけでは無いとは思いつつも、自分を納得させるように小さく呟いていると、青い点が自機のレーダー範囲内にして有効射程外を示す黄色へと変化していく。
 ごくりと音を立てて唾を飲み込みたいところだが、幾ら高度サイバネティクスの擬体といえども、そんな機能は搭載されてはいない。
 電脳空間での五感の再現を可能とするダイブマシーンならば、飲食すら違和感な可能だと言うのに、ゲームの設定に沿ってあえて機能を封じていることに、柴田は妙に凝っているなと感心する一方で、これだけリアルなら撃墜されたショックでチビってしまう可能性に気付く。
「こ、これは絶対に墜とされるわけにはいかない!」
 彼としても大学生にもなって、お漏らしするのは世間体以前に自分で自分を許せそうに無かった。
 実際はゲーム内で失禁しかねないような状況に陥っても実際の肉体で失禁することは無い。
 ゲーム内で擬体を動かす時に、同様に実際の肉体が動く様な事態にならないように、ダイブ中の脳から肉体への随意運動関係の命令はカットされる一方で、生理状況などを管理する命令はダイブマシーンのAIが代行しているので問題は無かった。
 そうでなければ、ゲーム中の動きにあわせて実際の身体が動いてしまい取り返しの付かない事故が多発する事になってしまう。

『艦隊司令部より通達。現時点をもって全兵装の使用を解除。イナーシャルキャンセラー作動。編隊各機パイロットは減速に備えろ』
 あきれるほど大雑把な戦闘開始指示で、戦闘に関する具体的な指示は無かった。とはいえプレーヤー達はチュートリアルを受けて、戦闘機の操作法やそれぞれの【敵性体】の兵装や行動パターン、攻略法などを学んだだけで軍事訓練を受けたわけではなく、隣を飛ぶ僚機と協力し連携して戦うなんて真似が出来るわけではなく、あくまでも個として戦うしかない。
 直後、強い制動がかかり機体が振動する。光速の60%程度の亜光速から急速に減速している為だった。人間の身体なら一瞬で熟れ過ぎたトマトのように潰れていただろうGにも擬体は耐え、プレイヤーは大きなGが掛かっているという自覚はあるものの苦痛を覚えることは無い。
 連盟の進んだ科学力をもってしても亜光速による戦闘は不可能だった。光速で移動する物体からは光すら脱出することは出来ないため、もっとも速いレーザー兵器でさえも亜光速では威力が減衰し、更には強力な威力を誇る荷電粒子砲や攻撃ミサイルなどは使用不能に陥る。更には搭載された重力波エンジンには機体の質量を100G加速させる程度の出力しか──それも十分馬鹿げた出力だが──なく、もし出力全開で右に方向を変えようとしても、本来機体が1秒後に到達する10万km以上先の地点から右に1kmずらす事すらできない。
 それは【敵性体】も同様で両者は音速の数倍から100倍程度の範囲で戦闘を行う。
 また、減速に用いられるイナーシャルキャンセラーとは機体下部に取り付けられた機体と同じ全長を持つ細長いフレームに搭載された重力波エンジンの一種で、エンジンをオーバーロードさせる事で短時間に強力な慣性制御を行い機体を戦闘可能速度まで減速させることが可能だが、使用後はエンジンは焼き切れ使用不能になり、機体からパージされる使いきりタイプの装備だった。

「行くぜ!」
 柴田は自らを鼓舞するために狭いコックピット内を震わせるように大きく吼えると、愛機を100体ほどの敵集団めがけて全速で突撃させた。
 機体を左右に揺らしながら小型の【敵性体】。通称エビ──SF/A-104などの戦闘機と同等のサイズでフォルムがシャコエビを思わせないことも無いという程度で、実際そっくりというわけではない──の攻撃を避けつつ、集団の中の30機ほどを視線入力でロックオンしてゆく。
 そして十分に接近してから「発射」と命令を出すと、機体に搭載されたレーザー・荷電粒子砲・対宙ミサイル──対小型種用の全長30cmほどのマイクロミサイル。対艦ミサイルとは区別するために対宙ミサイルと表記するが、小型種も母艦も宇宙に居るのでどちらにしても対宙なのだが便宜上そう呼ぶ──でロックオンしたエビ達に向けて攻撃を加える同時に一気に機体を捻って敵集団の脇を抜けて後方に出る。
『全弾命中。撃破および大破20。中破7。小破3。後方敵集団の戦力は74%に減少。当機のダメージなし。機首レーザー使用可能。荷電粒子砲全砲門10秒後に使用可能。対宙ミサイル全発射管へ装填完了。残数162』
 システムアナウンスとは違う、電子的な音声は機体のコンピューターからの報告。
 機体にはAIが搭載されていないため、あらゆる場面でパイロットの判断・指示を必要とするが、そのサポートが無ければ人間に音速の数10倍の速度で戦闘は不可能。
 また、この場合の撃破は【敵性体】が爆発して四散する事であり。大破は活動停止・戦闘能力喪失。中破は戦闘能力減少甚大。小破は戦闘能力減少軽微を意味する。
 本来の中破が戦闘能力喪失かつ、修理しての再戦力化可能を意味するが、【敵性体】に修理という概念がないので戦闘能力喪失は大破に分類される。
「反転して再度攻撃を仕掛ける。全兵装発射準備」
『了解。ミサイル全発射管装填完了まで3・2・1。全対宙兵装発射準備完了』


 柴田が標的とした敵集団を壊滅させた後に、別のもう一つの敵集団を壊滅した頃には、戦況は太陽系義勇軍アジア第12宙空師団の圧倒的優勢に進んでいた。
「もうエビは残っていないな?」
『データリンク完了。現時点での小型種の中破以下の個体数は98。大破以上の個体数は31,326。こちらの損失はSF/A-104が大破以上9。中破以下が18』
「母艦を落とすぞ」
 残った小型種の数の少なさにも驚くが、それが僅か300機余りの僚機に墜とされてしまっていること、更にこちらの被害が一割以下に収まっている事に大いに驚いた。
 夢中で戦いつつも、一方的にエビを撃墜していく自分に「俺スゲェ」と自惚れていた柴田だが、思っていた様な他のプレイヤーを圧倒するような大戦果では無いことにかえって欲が出た。
『対艦攻撃ミサイル弾数4。母艦クラス撃破可能。装填を開始します』
「了解。行くぞ!」
 操縦桿を強く握り込み、愛機を敵母艦へと向けて加速させる柴田。


 この作戦での彼の戦果は小型種の撃破・大破198体。そして母艦クラスの撃破1。ついでに被撃墜1となった。 
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